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酔っ払い、参上!!

新章、始めました。よろしくお願いします。晩餐会の次の日からになります。

 俺は夢を見ていた。昔の夢だ。俺は大切な人を逃している。その時になると、いつも怖気付くからだ。

だからいつも言えなかった。大事な言葉を…。


 結婚すると俺はどうなるだろう?今までと変わってしまうのか…。全てが変わってしまいそうで、俺は怖かった。


 そして決断が付かないまま、その人との関係は終わってしまった…。夢の中で、俺はあの時と同じで何も言えなかった…。俺はあの時の事を今でも激しく後悔している。


 でも、もう戻れないんだ…。

 モミジのような手で顔をぺちぺちされて、俺は目が覚めた。フラムが俺の身体に抱き付いて、あぅあぅ言いながら夢から起こしてくれた。


「…ありがとな…」


 俺はフラムの頭を撫でながら、昔の思い出に耽る…。二十年以上前の事を何で今更、夢で見るんだ…。激しく頭が重い。昨日呑み過ぎたせいか…。


 だがそれ以上に、さっきまで見ていた夢が、気分を陰鬱にさせた…。あの時、結婚していたら、俺はどうなってたんだろ…。


 まぁ、昔の事はもう良いか…。どうにもならんし。それより今、何時くらいだ…?俺はフラムを抱っこしたまま、身体を起こしてベッドの縁に座る。周りを見ると皆はまだ寝ていた。


 確か…かなり呑んで、宿屋に帰ってきたのは夜中を過ぎていたんだったな…。この世界の宿屋も大きい所は二十四時間、開けてくれているので助かる。


 晩餐会がお開きになってからも、メイヤーズ邸の一室を借りて俺達は酒を呑んでいたんだ…。


 源さんは明日ベルファを観光して周るからと、皆と一緒に先に宿屋へと戻った。


 オランデール伯爵とスタイラーは王都へ、テンダー卿とロメリックはブレーリンへ明日の早朝に発つという事で、早々に呑むのを切り上げて部屋に上がった。


 結局、酒に強い禅爺とそれに付き合うウィルザーとブラント、帰ろうとしても帰して貰えない俺が残って呑み続けていたのだ…。


 呑み過ぎて記憶が曖昧だったが、確か呑みながら、王国にある戦術遊戯という卓上ゲームに付き合わされてたんだったな…。


 眠気と二日酔いで思考が回らない…。そんな時、静かにドアがノックされた。


「…ホワイト様、早朝に申し訳ありませんが、ギルドの職員がお話があるそうで参っておりますが…如何致しますか?」


 宿屋の従業員の様だ、下にギルドの職員が俺を訪ねて来ているという。こんな朝早くからなんだろう?


 俺は、すぐ下りると言って、フラムを連れて洗面所へ向かう。顔を洗ってうがいをしてから、身だしなみを整えた。


 フラムに付いて来るか?と聞くと、「あぅっ」と頷いたので抱っこして、皆を起こさない様に静かに部屋を出た。


 階下に降りると、確かにベルファギルドの当直職員が宿屋の一階、食事処の隅で待っていた。

ギルド職員は、俺を見ると慌てて立ち上がり頭を下げる。


「朝早くから大変申し訳ないです。緊急でお伝えしなければならない事態が発生しまして…」

「…ふむ。こんな朝早くから緊急ですか…」


 俺は話しながら、席に座る。


「実はマスターに先にお伝えするはずなんですが…昨日呑み過ぎたようで呼んでも一向に起きて来る気配がなくてですね…」


 まぁ、そりゃそうだろうなw夜更けまであれだけ飲んでりゃ、そうそう起きては来れないだろう…。


 ギルド職員は、その緊急事態が俺に関係する事だと言うので、禅爺の代わりに先に話を聞く事にした。



「…はぁッ?何でこんな朝早くから…」


 ギルド職員の話を聞いた俺は思わず驚いて声を上げてしまった。


「…ホワイトさん、声が大きいです…」


 そう言われたが、幸いにも婚約発表の晩餐会の後で、街の皆も呑んでいたらしく早朝という事もあり、宿屋の食事処には客は誰もいなかった。


 厨房に料理長と、手伝いのおばちゃんがいるだけだ。


 職員が話してくれた緊急事態とは、今朝方、ブレーリンギルドから届いた伝書の内容だった。どうやら、ブレーリンの北東すぐの所にあるレクスター農場にエミルが仲間と共に現れたそうだ。


 農場の家族を人質に取り、俺を呼び出せと言っているらしい…。…頭痛い。

何でこんな朝早くに来るんだよ…アホか、全く…。


 それだけではなく、Aランクハンターが農場主の家族開放と交換条件で人質になっているらしい…。


 俺はAランクと聞いて、もしかしてもしかせんでも…と思った。この王国内で国境防衛に出ていないAランクなんて一人しかいない…。


 …アイちゃんだな…。あの子も朝っぱらから何やってんだか…。


 俺は深い溜息を吐くと、気持ちを切り替える。


 緊急伝書の内容を伝えてくれたギルド職員にお礼を言ったあと、俺はすぐにメイヤーズ邸にブレーリンのテンダー卿とロメリックが宿泊しているので、二人にもこの事を伝えるように指示を出して向かわせた。


 俺は朝食の準備中の厨房のおばちゃんに無理を頼んで、俺とフラムの朝食に柔らかいバターを練り込んだパンを二つとハムを二枚貰う。


 俺はすぐに部屋に上がると、出掛ける準備を始める。朝早いので、皆はまだ寝ていた。

 

 パンだけだとフラムがお腹を空かせるかもしれないので、リーちゃんに持ち込んで貰った幸せターンとフルーツ牛乳をアイテムボックスから出して、フラムの鞄に入れてやる。


「フラム、すぐお出掛けするぞ…」


 そう言って鞄を肩から掛けてやると、ベッドの上に座らせる。


「パパも準備するからちょっと待っててな…」


 俺の言葉に、頷いたフラムは鞄から妖精人形を取り出してぎゅーっと抱っこして大人しく待っていた。

その間に、俺はこっそり、幾つかの木製水筒の中にお酒を何本か移し替えて、アイテムボックスに放り込んだ。


 二日酔いで寝不足だし、頭痛いから迎え酒でもしながら行くか…。クレア、ティーちゃん、シーちゃんはまだ寝ていたが、暫くしてリーちゃんが起きた。


「…こんな早くからどこか行くの…?」


 眠い目を擦りながら、リーちゃんが聞いてくる。俺は先程ギルド職員から聞いた情報を簡単に説明した。


「…ハァ?…何でこんな朝早くに来るのよ…」


 …リーちゃんも俺と同じ事を言っている。


「…けど、どうして王都にいるはずのアイが人質になってんのかな…?」


 すぐにリーちゃんが、アイちゃんの監視をしている妖精に確認を取ってくれた。俺も、宿泊用インナー装備から、戦闘用装備に着替えつつ、アイちゃんのここ最近の動向をリーちゃんから聞く。


 監視についている妖精によると、どうやら王都近くでは採集クエストなどが少ない為に、ウェルフォード村を経由してブレーリンまで来ていたようだ…。


 その翌日にタイミング良くと言うのかタイミングが悪いと言うのか、この事態が発生した。家族を人質に取られ、連絡として一人解放された農場主がブレーリンギルドに駆け込んだらしい…。


 ギルドの当直職員が農場主から話を聞きつつ、慌てて緊急伝書を作成している所に、たまたま早起きして依頼用掲示板を見にきていたアイちゃんが、その話を聞いて人質の身代わりを買って出たようだ…。


 …ハァ、どいつもこいつも何やってんだか…。


 全く、お人好しにも程があるな…。どっちにしても俺が行くんだから身代わりなんかしなくてもいいのにな…。

 まぁ、その心意気は買うけど…。


 更に、ギルド宿舎にいた融真、ギャル子、クライが慌ただしく伝書を書いているギルド職員に俺の代わりとして農場に行こうか?と提案したようだが、まだ亡命の認可が下りていないので三人は動けなかったようだ。


 話を聞き終えた俺は準備を終わらせると、寝ている三人を起こそうとしたリーちゃんを止める。

 

「…まだ朝早いし、俺が先に行ってるから三人はまだ寝かせてあげといて良いよ。起きたら事情を話して来るように伝えといて…」


 リーちゃんに皆への伝言を頼むと、俺はフラムと一緒に転移でブレーリンに向かった。



 ブレーリンの北門に到着すると、緊急伝書の内容を聞いた(ホワイト)が来たと、衛兵からブレーリンギルドに伝えて貰う。


 まだまだ朝早い時間なので、ブレーリンの門前に並ぶ人はかなり少ない。


 連絡の為に、すぐ衛兵がギルドに向かってくれた。俺は木製水筒の中の秘密の飲み物を少しづつ飲みながら待つ。


 暫くしてブレーリンのギルドのサブマスター職員が北門まで来てくれた。


 問題のレクスター農場はここ、ブレーリン北門から北東に森を抜けた場所にあり、山際から開けた土地と、草原を囲うようにしてあるそうだ。


 牧畜と耕作のどちらもしているしている、かなり大きい農場らしい。今は農場主の家族は開放されて、代わりにアイちゃんが人質として残っているとの事だった。


 状況を聞き終えた俺は、取り敢えず行ってきますとギルド職員に敬礼する。


「…相手はエミル本人の他に、教皇領から太った大男と少女の二人も来ています。恐らくその二人も戦闘要員かと思われます。気を付けて下さい」

「解りました。気を付けて行ってきます!!」


 俺は再び敬礼をすると、フラムと一緒にパンとハムを食べながら、ゆっくり歩いてレクスター農場に向かった。


 パンとハムを食べ切った俺は、歩きながら木製水筒を開けて酒を飲む。抱っこしているフラムも、もしゃもしゃと齧ってパンとハムを食べ切った。


 このパンはバターが練り込んであり、味が付いていて柔らかいので食べやすいし美味しい。


 フラムはパンを食べ終えると、鞄から大好きなフルーツ牛乳を取り出す。キャップを捻って空けると、ごきゅごきゅと豪快に飲んだ。


 フラムは半分程フルーツ牛乳を飲むと、キャップを閉めて鞄にしまい込む。口の周りに付いたパンくずを拭いてやりながら森の中を歩いて抜けて行くと、大きく開けた草原に出た。


 草原を簡素な木製の柵が囲っている。どうやらここがレクスター農場の様だな。

俺は周りを見渡す。


 今の所、誰も見当たらない…。よく見ると農場の奥の奥、山際に家?と牛舎の様な物が見えた。俺は遠くに小さく見える農場主の家へ歩いて向かう。


 途中、木製水筒の中の飲み物をちょいちょい呑む。少し酔いが回ってきたせいか、頭が重いのは軽減した。


 …俺はひたすら家に向かって歩いた。


 …全くこの農場、一体何ヘクタールあるんだ…?広すぎにも程があるだろう?まるでアメリカの巨大農場の様だ。


 歩いて二十数分程だろうか…?(ようや)く家と牛舎の傍まで近づく。途中、罠とか急襲されるのを警戒して歩いていたが、特に何もなかった…。


 あと百メートル程の所まで来ると、俺は大きく息を吸い込んだ。


「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!!来てやったから、はよ出て来んかいッ!!」


 フラムも俺の真似をして、息を吸い込むと叫んだ。


「あうぅーっ、あぅあぅーっ、あうっ!!」


 俺達の叫びに、家の中でガタガタと音がする。暫くして戸が開くとエミル、大男、そして小さな四歳程の女の子が外に出て来た。


 その後ろから、アイちゃんもそーっと顔を覗かせて出て来た。

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