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刺客なのに丸い。

 俺はてっきり黒い球のまま戻って来るかと思っていたので、人間が出て来て少し驚いた。目の前の男は顔を真っ赤にして目を血走らせている。


「…酔っ払いがッ…舐めたマネしやがって…」


 男はプンスカ怒っている。俺はそれを気にする事なく、黒い球の事を聞いてみた。


「もしかしてさっきの黒い球って…お前の能力か?アレ、凄いな?どうやったんだ?」


 適当に煽ててみると、男の怒りが一瞬鎮まった。


「…え?俺、凄いか?そうか?いや~照れるな~…って、うおぉぉぉいィッ乗せるんじゃねェッ!!テメェは誰だって聞いてんだろうがッ!!」


 照れたり怒ったり、忙しいヤツだな。面白いからもうちょっと遊んでみようw


「いや、一人で攻め込んで来るなんて凄いぞ?是非、お前の所属と名前を教えてくれ」

 

 そう言うと、男は一瞬ん?という顔になった。


「…えッ?や、やっぱそうか…?俺やっぱ凄いからな~。俺の名前教えちゃおうかな~なんて…うおおぉぉぉぉィッ!!テメェ、乗せるんじゃねぇよッ!!いい加減にしろッ!!」

「いや、とりあえず俺はこの王国の人間なんだから、攻めてきたお前が先に名乗りを上げるのが筋ってもんじゃないか?」


 俺の真面目な言葉に、男は一々考えている。


「…そ、そうか。そうだな。まずは俺から名乗りを上げさせて貰うぜッ!!俺は…イシュニア帝国、生物兵器開発研究所に…しょ、所属する…」


 さっきまで怒ったり照れたりで忙しかった男は、息を切らせつつ自分の所属と名前を話そうとする。


「…あ、そんなに慌てて喋んなくていいよ。お前の所属と名前は落ち着いてからもう一回教えてくれ…」

「…ぁ、あぁ、す、スマン…」


 そう言うと男は数回、深呼吸をする。そして再び名乗り始めた。


「…俺はイシュニア帝国、生物兵器開発研究所に所属する…」


 男かそこまで話すと、俺の後で門が開く音が聞こえた。振り返って見ると、開いた門の中から源さんが出て来た。


「…ん?源さん?どうして外に?これから戦闘するから危険ですよ…?」

「あぁ、俺も一応、戦闘スキル持ってるんだ。アンタの奥さんが、暫く闘う事が出来ないって言うから、代わりに俺が出て来たんだよ。アンタはお偉いさん達と話してたんじゃなかったのか?」

「あぁ、そうだったんだけど、皆で気持ち良く酒を呑んでるのに、このタイミングで襲撃に来やがったバカがいるから叩き潰してやろうかと思って…」


 そこまで話した俺は、名乗りかけていた男を思い出した。


「…あっゴメン!!えーっと、イシュニア帝国の…誰だっけ?悪いけどもう一回教えてくんない…?」

「…あ、あぁ、解った。良く聞けよ!?俺はイシュニアてい…」

「オイ、アンタ何やってる?何で早く敵を倒さないんだ!?ていうか呑み過ぎじゃないのか?顔が真っ赤だぞ…そんなんで闘えるのか?」


 三度、名乗り始めた男の言葉を遮って、源さんが俺に聞いてくる。


「…あぁ、たぶん大丈夫っス。いやね、コイツの反応が凄く面白いから…ちょっと遊んでやろうかなって思って…」


 俺の言葉に溜息を吐く源さん。


「いや、アンタなぁ…面白いからって敵をおちょくってる状況じゃじゃないだろ?街の住民が不安がってるんだぞ?俺も手伝うから、さっさと倒すぞ?」

「…あぁ、そうっスね。じゃあさっさと片付けますか。ところで源さんは鑑定持ってますよね?」


 そう聞いた俺は、敵であるブラックメタルくんのスキルが視えていた。


「あぁ、持ってるぞ?そう言うアンタも視えてるみたいだな…。色々聞きたいことがあるがそれは後にする…」


 源さんは、鑑定スキルで目の前の敵のスキルも視たが、恐らく俺の持っているスキルも視たのだろう。そのスキルの多さが気になっているようだ。


 能力者の中でも俺程スキルを持っているヤツはそうそう居ないはずだからな…。

取り敢えず敵のスキルが視えているなら、源さんが戦闘で後れを取る事はないだろう…たぶん。


「…まず様子見で俺から行きますよ。コイツのスキル見たいんでね…」


 そう言いつつ、俺はブラックメタルくんを見る。メタルくんは顔を真っ赤にして拳を握り、怒りでプルプルと震えていた。


「…テメェ、俺をおちょくってたのかッ!!許せねぇ!!お前ら二人とも死亡決定だからな!!」

「あぁ、スマンな。お前の反応が凄く良いからさ、ちょっと遊んだけど、ここからは真面目に行くわ…」


 瞬間、メタルがダッシュで接近、アーマーの首の部分が変形して頭を覆うと、大きな角が形成された。


 ふむ。これがコイツの持つ能力『シェイプチェンジアーマー』か…。フルメタルを纏っていてこのスピードは速いとは思うがこんなのすぐに避けられ…。


 そう思っていた瞬間、ブーストが掛かった様にメタルが高速突進して来た。


「…おっと、あぶねぇ…」


 俺はすぐに神速で避けたが…。その瞬間しまったと思った。後ろには源さんがいたんだった。


「源さんッ!!」

「この程度で心配するな!!『見切り!!』」


 そう言うと、源さんはメタルの角が心臓を貫くそのギリギリの瞬間にスッ…と半身で避けた。


 そしていつの間に取り出したのか左手に刃渡り二メートル程の巨大出刃を持っていた。その出刃が、メタルの角に添えられている。その瞬間、


「『粗斬り!!』」


 一気に、メタルの角が切り落とされた。


 おおっ、なんか凄い!!


 俺が感心していると、源さんの右手に刃渡り一メートル程の柳刃があった。


 おおおっ、二刀流だったのか!!なんかの代行してた人の斬〇刀みたいでカッコいい!!


 メタルはそのまま源さんを通過すると振り返る。


「…やってくれたな。しかしこの程度じゃ俺のアーマーは攻略出来ねぇ…」


 メタルが言い放つと、切り落とされた角が瞬時に戻り、マーマーに吸収された。


「次は逃がさねぇ。今度こそ殺してやるぜッ!!」


 メタルが叫ぶと変形を始める。しかし、変形が終わるまで待つ気なんて更々なかった俺は『跳躍』を横に使い、メタルに頭突きを喰らわせた。


「おりゃっ、酔っ払いスーパー頭突きッ!!」


 瞬間、吹っ飛んでいくメタル。


「…クソッ、そういやもう一人いたな…めんどくせぇ酔っ払いだな。こうなりゃ二人纏めて殺してやるッ!!」


 そう言うとメタルはその場で(うずくま)る。そしてグルっと前転したかと思うと、最初に見た黒い球に変形していた。黒い球がその場で高速回転を始める。そしてブーストを掛けた様に源さんに突っ込んでいった。


「源さんッ、避けてッ!!」


 微動だにせず、突進してくる黒い球を迎え撃つ源さんが左手の巨大出刃を振りかぶる。


「『見切り!!』」


 振りかぶった出刃を、目の前に来た黒い球に振り下ろす。


「スキル『解体真魚(かいたいしんぎょ)!!』、『粗叩き!!』」


 黒い球に、出刃を振り下ろすと同時にジャンプして出刃で切り付けつつ、そのまま回転して飛び越えた。


「…ふむ。斬ったつもりだったが…予想以上に硬いか…」


 呟く源さんの前で、傷一つない黒い球が再び回転を始める。


「…オイ、アンタ。あの球に傷でも亀裂でも良いから入れる事は出来るか?」

「えぇ、まぁ出来なくはないですが…」

「じゃあやってくれ。小さな傷で良い。傷があれは俺の解体真魚でバラバラに出来る」

「…解りました。やってみますよ」


 黒い球が動き出す前に、俺は神速を使って接近する。この黒い球は真球の様になっているがどこかに継ぎ目があるはず…。


 ヤツはカラダを丸めて変形していた。だから俺にはヤツのアーマーが全身を覆ったのではないと確信があった。


 ゾーン・エクストリームで動けなくするのも考えたがそれだと面白くない。俺がギリギリまで黒い球を龍眼で観察していると、球体から黒い尖った針がウニの様に変形して飛び出してくる。


 俺はすぐに反応し、神速で一度離れた。


 …あった。俺はヤツの横側に継ぎ目を見つけた。この黒い球は恐らく、前転と後転しか出来ないと見た。ヤツが丸まってこの球を形成しているからだ。


 そうと解れば後は簡単だ。俺はアイスエッジと腐蝕のタガーを持つ。


「…源さん、後は頼みますよ?」

「あぁ、解ってる。任せろ!!」


 俺は高速回転で突進してくる黒い球の側面に、神速で移動。微かに見える継ぎ目に腐蝕のタガーを突き入れる。腐蝕のタガーの効果は遅効性なので、一旦離脱する。


 再び回転し、俺達を挽肉にしようと突進してくる黒い球の側面に再び移動した俺は、継ぎ目に腐蝕効果が出たのを確認、無数の針が飛び出してくる前に再び腐蝕を撃ち込み傷を拡大させた後、傷をアイスエッジで固めた。


「…源さんッ!!右側面だッ!!横からやっちゃって下さいッ!!」

「…おぅッ!!ご苦労さん、じゃ、やるぜ?」


 そう言うと源さんは、迫りくる黒い球を冷静に迎え撃つ。見切でギリギリを見極め横に躱すと、黒い球に出来ていた傷に、出刃の切っ先を突き入れる。


「スキル『解体真魚!!』」


 叫ぶと同時に出刃の切っ先がスッと傷に入って行く。そこへすぐに右手の柳刃の切っ先を突き入れる。そして一気に、出刃と柳刃を真一文字に薙いだ。


 一瞬、時間が止まった様に黒い球は回転を止める。


「…グハッ!!」


 瞬間に変形が解けて、メタルが姿を現した。


「『皮引き!!』


 源さんの柳刃が高速でメタルのアーマーを剥がしていく。そして…。


「『解体真魚!!』、『半月斬り!!』」


 柳刃を一振りした後、メタルのカラダに縦傷が入る。


「…ふむ。半月をギリギリで避けたか…」


 呟く源さんの目の前で、メタルが肩から血飛沫を上げていた。


「…やるじゃねぇか!!だがまだまだ…」


 叫ぶメタル。瞬間、引き剥がしたアーマーが無数の針の様に変形する。襲い来る無数の針の前で源さんは冷静だった。


 メタルの右側面に移動し、巨大出刃を振り下ろす。瞬間、アーマーから飛び出していた無数の針が全て切断された。


「…源さん、下がって!!」


 そう叫んだ俺は、背後からメタルの首を掴んでいた。


「…なッ?テメェッ、いつの間にッ!!」

「…じゃあなメタルくん。俺に会ったのが運の尽きだ。このスキル、俺が回収させて頂きます!!」


 俺は源さんがバックステップで下がったのを確認した直後、最大出力サンダークラップを発動させた。

激しい明滅と音が辺りに交錯する。使えば使う程、籠手のスキルも強力になっている。


 俺の右手に掴まれていたメタルは、つんつん頭がチリチリになってグッタリ、気絶していた。結局、最後までコイツの名前は解からず終いだった…。



「…ワハハッ!!おぬし、料理だけでなく戦闘まで手伝って貰ったのか?」


 禅爺が笑いながら、俺達を見ていた。俺は源さんを紹介しつつ、苦笑いを隠せなかった。


「いやいや、先生。ホワイトさんはこんな感じで良いんですよ。決して無理はしない。そういう所が良いんですよ(笑)」


 ロメリックがフォローしてくれるが、他のメンツは笑いっぱなしだ。俺は源さんと共に席に座ると、ウェイターを呼ぶ。


「源さん、ロックで良いですか?」

「あぁ、頼む」


 俺もついでにダブルの水割りをオーダーする。


「しかし、闘う料理人とは…面白いですね」


 ブラントの言葉に、ロックグラスを傾けながら源さんが応える。


「まぁ、こういう世界ですからね。俺は運よく戦闘スキルが付いて来たのでね。助かってますよ」

「…九坂くん…だったかな?君はこの国に所属する気はないのか?」


 ウィルザーが、それとなく源さんを勧誘している。


「…うむ。俺はパラゴニアで拾ってもらったのでね。恩があるからそうそう動く事は無いよ」


 きっぱりと断る源さんに、まぁ戯れだと思って気にしないでくれ、とウィルザーが笑った。


「…しかし見ていた衛兵の報告だと中々の手際だったとか…。戦闘もだが料理の方も中々良かったですよ。また機会があればこの国に来て欲しい」


 伯爵まで、源さんに興味を持っているようだ。まぁ、この国も人手不足だから、喉から手が出るほど欲しいってトコだろう。


「…クククッ、おぬし、今回は良いトコなしじゃったのぅ(笑)」


 禅爺はかなり酔っているのか、さっきから俺をイジってくるw俺は水割りを飲みながら、苦笑いで答えた。


「…禅さん、俺でもそんな時だってありますよ?まぁ、この件はこれくらいにして置いて下さい。さ、そろそろ皆で晩餐会に戻ってフレストさんとアマリアさんの婚約の祝いに行きましょう…」


 俺の言葉に、晩餐会の会場に戻るべく、皆席を立つ。歩く俺の後ろから再び禅爺が俺をイジる、


「…おぬし、上手く話をはぐらかしたのぅ(笑)?」


 このジジイ、もう良いっつーのw俺に絡む禅爺を見て皆、笑いながら会場へと戻り、改めて乾杯した。

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