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赤色依頼とギルドマスター禅師(ぜんすい)。

 ギルドの依頼掲示板に張り出されていた初めて見る赤色依頼を見て、俺は思わず声を上げてしまった。


「…おっ、赤色!!」

≪早く早く!!≫


 リーちゃんに早く取る様に言われて赤色依頼の紙を取る。俺はリーちゃんとその依頼の内容を見た。


 『妖精の森でのカイザーセンチピード退治』となっている。


 妖精の森で?カイザー…?超デカいムカデかw?リーちゃんと一緒に詳しい内容を読んでみた。


 妖精の森、北西付近で昨日からカイザーセンチピードの目撃情報あり。スラティゴの村に被害が出る前に、退治して欲しい。と書いてあった。


 スラティゴのハンターギルドからの依頼、となっている。しかし俺はすぐにおかしいと思った。


 妖精の森では、何回かモンスター退治をして周っている。そんなデカいのがいれば、遭遇していてもおかしくないはずだ…。


 依頼の紙には昨日から、となっている。


 森での戦闘とスキルの訓練、盗賊退治、そしてスラティゴを訪問していた数日間の間に、森をパトロールしている妖精達から、そんな情報は入っていない。


 世界樹を留守にしている間に、突然そんなのが現れたのか?俺は急いでリーちゃんに、ティーちゃんとシーちゃんの二体と連絡を取って貰った。


 赤色依頼のカイザーセンチピード退治とその内容を伝える。その瞬間、遠距離で密談が飛んできた。


≪…ふむ、確かにおかしいのぅ…≫


 リーちゃんは、森の妖精達に連絡をして確認を取っていた。


≪何年かに一度くらいは変異種として、大きなヤツが現れる事はあるがのぅ…。しかしそういう時は前兆があるんじゃが…≫

≪うーん、森が心配でしゅね。早く依頼受けていってみるでしゅ≫


 シーちゃんの意見に皆、賛成だ。妖精達に確認を取っていたリーちゃんが森の状況を教えてくれた。


≪確かに、スラティゴ方面の森の北西辺りで巨大センチピードがいるって…≫

≪じゃあ依頼受けるからすぐに行こう。宿屋で合流ね…≫


 そう伝えて、俺は赤色依頼の紙を持ってカウンターに向かう。途端にギルド内がざわつき始めた。ひそひそと冒険者やハンター達が話している中、俺は構わずそれをカウンターに出した。


「この依頼を受けたいんですけど…許可はギルドマスターが出してくれるんでしたっけ…?」

「…え、ええ、そうですが…ホワイトさん、その依頼受ける気ですか?」

「うん、マスター呼んで貰えます?」


 その言葉の直後に、受付のお姉さんの顔が緊張する。俺は、後ろに気配を感じて振り向いた。


「…マスター。ホワイトさんが、今朝入った赤色依頼を受けたいそうです…」


 呼んで貰うまでもなく、階下のざわつきに気付いて下りて来たようだ。


 俺の目の前に、『禅』と書かれたTシャツとスウェットを履いた老人が立っていた、シルバーの長髪を先で結び、いかめしい顔をした眼光鋭い爺さんだ。


 日本人かな?なんかそれっぽい気はする。釣り上がった眉毛が白くもさもさしていた。


「お主が、ホワイトか?グレン達から聞いておるぞ?」

「…はぁ、あなたがギルドマスターですか…。お初にお目にかかります、アンソニー・ホワイトです…」


 軽く挨拶をする。ギルド内のざわつきが収まらない。


「今はSランクもAランクのヤツらも出払っておってな。かなりの人手不足じゃから、その赤色依頼に許可を出してやりたいところなんじゃが…ワシはお主の実力を知らん。実力が分からんうちは許可は出してやれんな…」

「…ふむ、そうですか…。ではどうすれば許可を出して貰えますかね?」


 俺の質問に、お爺が答える。


「ギルドの規定では、ランクSかAのヤツと訓練場で戦い、実力を測ってもらうんじゃが…。さっきも言うたが、今はタイミングが悪くてな。どちらもこの街に滞在しておらん」

「…困りましたね。ではどうすれば…」


 俺が聞くとお爺が(きびす)を返し、ギルドの奥へと進んでいく。


「付いてくるんじゃ…」


 そう言われたので、お爺に付いて訓練場に入って行く。他の冒険者も興味があるのか、ゾロゾロ付いて来た。


「SとAランクハンターの代わりにこのワシがお主の実力を見てやろう」

「…えっ?お爺さんが?…ですか?」

「ワシは元Sランクじゃ、不足はあるまい?」


 そう言われてもなぁ、老人虐待にならんか心配だわ…。


 そんな事を考えていたが、Tシャツの下から見える首、手首、足首などを見ていると、かなり太い。元Sランクというのは冗談ではなさそうだ…。


 いつの間にかギャラリーが増えていた。どうやらギルドマスターが闘うという事で、冒険者やハンターだけでなく、街の人達も集まっていた。


 ティーちゃんとシーちゃんも、騒ぎを聞いて駆け付けた。


「アイツ気の毒だな」

「先生の技が見れるぞ?」

「あの兄さん、ボコボコ決定だな」


 ギャラリーからそんな声が聞こえる。…なんかヤバそうな爺さんって事だけは分かったわw


 すぐに最高レベルの鑑定スキル+5を持っているティーちゃんから密談と共に、禅師爺さんの人物鑑定が送られてきた。


 ティーちゃんは鑑定メガネを掛けているとプラスが三つ、付くそうだ。人物、モノ、動物、モンスターなどあらゆる鑑定が出来る。


 俺は送られてきたログを読んでおいた。予習は大事だからなwお爺の名前は、禅師(ゼンスイ)というそうだ…。



 禅師(ゼンスイ)。アジア出身、77歳。獅子咆撃拳(ししほうげきけん)の使い手、武術家。アジアのある国で道場を開いていた。幼い頃より著名な武術家の弟子となり、長年研鑽を積む。


 四十歳を過ぎた頃、師に認められ独自の流派を立ち上げ道場を開く。末端の弟子が、マフィアに関わった事から抗争に巻き込まれ、一番弟子と共に射殺され死亡。


 弟子を救えず一番弟子をも巻き込んで死なせてしまった事から、強い念をもって魂のまま現世を彷徨っていた。その強い念が天使の目に留まり、一番弟子と共に異世界に転生する。


 転生後、弟子と共に異世界の各地を修行で放浪し、王都にてハンターギルドに所属する事となる。

その実力から弟子と共に一気にSランクまで駆け上り、獅子拳聖と呼ばれた。


 引退後は各地のギルドマスターを勤める。現在、ベルファの街のギルドマスター。スキル『獅子咆撃拳』『闘気』と、なっている…。俺のオヤジと同い年だ…。


 …しかし、こりゃまた強そうな爺さんだな…。


 俺は、禅師爺さんの人物鑑定のログを読んで正直にそう思った。武術家か…。闘いのプロみたいなものだな…。俺の不安が伝わったのか、ティーちゃんが再び密談を送ってきた。


≪アンソニーよ、その爺ちゃんは相当の手練れじゃ。しかし勝たなくて良いんじゃ、アンソニーの実力を認めさせればよいんじゃからの≫

≪そうでしゅ、ここに来た目的は強い人間を探して経験をつむことなんでしゅから、ちょうどよかったでしゅね≫


 シーちゃんからは、そう言われたが、俺は苦笑いしか出てこない…。ゴミ盗賊から戦闘のプロとか、いきなりハードル上がりすぎじゃねーかw?


 まぁ、ここに来たのは戦闘経験を積むのが目的だったから、とりあえずやってみるか…。俺は訓練所の中央で禅師爺さんと向かい合った。


「では、よろしくお願いします」


 俺は拱手して頭を下げる。


「うむ、グレン達からお主の事を聞いておるからのぅ。精々、落胆だけはさせてくれるなよ?」


 その言葉に、俺は半身で構えた。


「では行くぞッ…!!」


 瞬間、禅爺が動く。


 俺は慌てて『龍眼』に切り替えた。拳と脚に闘気を纏った禅爺が、一気に間合いを詰めて来た。かなり速いな…。


 やり過ぎたらまずいと思っていたので、神速は使わないつもりだったが、お爺の動きが予想以上に速い。こりゃ神速を使わざるを得んな…。


 まずは、禅爺の攻撃を受け流していく。想像以上に攻撃が強く、激しい。当たったらかなり痛そうだ。


 …というか軽い殺気すら感じる…w

 

 俺は、少し神速のスピードを上げる。とにかく禅爺の攻撃を観察した。掌底を使う攻撃が多く、しっかりと踏み込んで打つ、といった感じだ。


 歩法はどちらかの足を軸にして前進してくる。いくつかの型を組み合わせて、それを高速で流れるように繰り出してくる。


 時折、手刀を振り下ろす動作や、震脚と呼ばれるような足技も組み込まれていた。肘打ちや、拳を打ち下ろしたりなどの動きもあり、バー〇ャファイターの主人公のような動きに近い。


 アレなんだっけ?八〇拳だったかな…?


 禅爺の一つの型と型の間に俺は飛び退きざま、床に範囲スキルをセットする。時間差で籠手のスキル『パラライズボルト』を発動させて、禅爺の動きが乱れた隙に背後に周り込んだ。


 すかさず、サンダークラップを発動しようとしたが、発動前に裏拳で弾かれた。


 …げっ、反応が早い!!


 俺はすぐにバックステップで飛び退くが、すぐに禅爺が追撃して来た。俺は続けて範囲攻撃を設定し、攪乱を狙う。その隙に後ろに周り込み、サンダークラップを発動させたが、何回やっても攻撃のタイミングで弾かれてしまった。


 …クソッ、向こうの攻撃は受け流せるけど、こっちが攻撃しようにも禅爺の手足の反応が早すぎて攻撃が全て発動前に封じられてしまう。


 いくら速く背後に周っても、籠手からの攻撃スキルが発動前に弾かれてはどうしようもない。 仕方なく離れての攻撃に切り換えた。


 飛び退きざま、接近してくる禅爺に旋風掌を喰らわせる。怯んだ隙に、俺は籠手からの範囲攻撃を設定する。


「ホレホレッ!!攻撃をせんと許可は出してやれんぞぃッ!!」


 何とか攻撃を凌ぎつつ、中範囲で設定した『フェザーサイクロン』を発動させた。そこに禅爺が足を踏み込む。強風をまともにを受けた禅爺の動きが止まる。


 その隙をついて、ズラして設定しておいた中範囲『サンダーチェインズ』を連続発動させる。とにかく、お爺の動きを止めないとこっちが攻撃出来ない。


 フェザーサイクロン、サンダーチェインズによる時間差範囲攻撃で禅爺の動きが完全に止まった。サンダーチェインズの麻痺の効果だな。よしッ、この隙に攻撃…!!そう思った瞬間、俺の前で禅爺が叫んだ。


「カアァッッ!!」


 発気を使い、サンダーチェインズの麻痺効果を弾き飛ばした。


 …マジかよ…。


 そして再び、間合いを詰めてくる。禅爺の連続攻撃を、俺はとにかく必死で受け流していく。ダメだ…攻撃させて貰えない…どうすりゃいいんだ…。


「…あの兄さん、先生の攻撃よく(さば)いてるな…」

「けど、さすがに捌くのが精一杯か…?」

「…かなり押されてるしなぁ、あの兄ちゃん…」


 そんな事を言い合うギャラリーの中に、一人の少女が姿を現した。


「あっ、アイリス!!来てたのかよ?」


 冒険者の一人に声を掛けられた、アイリスと言う少女が答える。


「今、着いたところよ…。それより、アナタ達の目には、あの人がそう見えるのね。…フフ、Aランク魔導師で鑑定持ちのわたしが見た所だと…」


 その少女は不敵に笑いながら、言い放った。


「…あの人はお兄さんじゃないッ!!オジサンよッ!!」


 ドヤ顔を見せる少女。一瞬、ギャラリーの目が点になった。


 …そっちじゃない…。

 …そっちじゃなくて…。

 

 少女の発言にギャラリー達が沈黙していた。


 しかし、俺にはそんな事を気にしている余裕はなかった。とにかく飛び退き、範囲を発動させ続けて動きを乱していく。俺は動きながら、必死に考えた。

 

 発動前に封じられるなら、発動させてから当ててみるか…。少し離れた場所で電撃を発動し、接近してから至近距離で当てる。


 しかし、今度は俺の電撃自体を闘気で弾きやがった…。クソッ、こんな爺さんにどうやって勝つんだよぉっ…!!

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