異世界よ、こんにちは。
今度は最初から見直しして行きます。更新情報が流れるかもですがご了承下さい。新たなエピソードは毎週金曜日の18:30頃です~。
なんなんだコイツは…!!
俺は目の前で暴れている巨大なムカデを見上げて驚いていた。
俺はアンソニー・ホワイト。日本人だがこの世界ではオンラインゲームのハンドルネームを名乗っている。今、俺は異世界にいる。退治依頼を受けて妖精族三体と『妖精の森』の北西部にいた。
俺と一緒にいるのは双子の『妖精女王』ティーアとシーア、そして妖精リーアだ。
ティーちゃんとシーちゃんは、俺の膝丈程のちびっこだ。妖精女王だから二人とも他の妖精達より大きい。しかし妖精族だからか人間の幼児より小さかった。二人とも転生から三百年程と聞いたが一~二歳児にしか見えなかった。
ライトピンクでウェーブのロングヘアがティーちゃん。ライトグリーンでウェーブのショートヘアがシーちゃん、そして俺がこの世界に来るきっかけとなった金髪ポニテの妖精がリーちゃんだ。
俺は三体と共に、カイザーセンチピードに奇襲作戦を仕掛けたが失敗した。俺の両手には『ベルファ』という街でカリパクした壊れた木小剣があった。
目の前で暴れているのは、体長五十メートルのカイザーセンチピード(巨大ムカデ)だ。
カイザーセンチピードは今まで戦ったどのモンスターよりもデカくて硬い。俺はすぐに壊れた木小剣をアイテムボックスに放り込むと、腰に下げているタガーに持ち替えた。
異世界に来るにあたって、俺はこの世界の神様によってアバターを創って貰った。地球にいる自分と寸分違わない身体だ。ティーちゃんによると肉体ごと運ぶのは質量的に難しいんだそうだ。
それで魂だけを転移させて、この世界では神様が創ったアバターに入って活動していた。
俺のアバターには、オンラインゲームの情報が神様によってインプットされている。更に脳のリミットが外れて、ステータスが完全に振り切れていた。ティーちゃんに聞いたのだが二度ほど、頭を強くぶつけた事が原因らしい…。
しかし、そんな俺の振り切れた力と妖精女王二体の魔法をもってしても、目の前のカイザーセンチピードには、全く歯が立たなかった。
ティーちゃんは基本の元素魔法から精霊魔法まで幅広く魔法行使が出来る。シーちゃんは無属性魔法しか使えなかったがそれを戦闘に生かして『魔導格闘』を確立させていた。
特殊効果を持つ俺の三本のタガー、アイスエッジ(凍結効果)、腐蝕のタガー(腐蝕効果)、気脈逆流タガー(気脈爆発効果)での攻撃も効かず、ティーちゃんの精霊魔法も効かなかった。唯一、シーちゃんの魔導格闘が、センチピードをグラつかせるものの、ダメージを与える迄には至っていない。
今は俺が動き回り、センチピードの気を逸らしている。その間に、ティーちゃんの精霊魔法とシーちゃんの魔導格闘で何とか押して貰っていたが一向にダメージが入らなかった。
俺も隙を見てセンチピードの節を狙い、タガーを突き込むものの硬い甲殻に阻まれて特殊効果はすぐに消えてしまう。油断していると巨大センチピードが俺を狙って頭からドッカンドッカン突っ込んでくる。土埃が舞い上がり、俺は視界を遮られてしまった。
俺の周辺にサッと影が差す。慌てて上を見るとムカデの頑強な顎が見えた。
ヤバいィィッ…!!
その瞬間、シーちゃんが俺の横を高速で通り抜ける。シーちゃんが巨大ムカデに高速弾丸ドロップキックを喰らわせた。
シーちゃんのドロップキックで巨大ムカデがグラついて仰け反る。
その間に俺は急いでそこから離脱した。シーちゃんが巨大ムカデに連続攻撃を仕掛けている間に、俺はティーちゃんに言われてアイテムボックスの中から弓を取り出した。
俺が手に持っているのは、三本のタガーと同じく、ゲーム内で使っていた最高ランクの武器『龍神弓』だ。
俺は再び、目の前のカイザーセンチピードを見上げる。
硬すぎる甲殻と魔法が効かないこんなヤツ、どうやって退治すりゃいいんだよ…。弓を持ったまま考えている俺に、ティーちゃんが密談を飛ばしてきた。
≪アンソニーよっ、後ろじゃっ!!後ろにコムスメがおるぞっ!!≫
その密談に、俺は慌てて後ろを振り返った。確かに叢の中からこっちに向かって手を振っている黒髪ツインテの女の子がいた。
なんでこんなタイミングでここに女の子がいるんだよぉぉっ!!
俺は大きな声で後ろにいる女の子を村に帰そうと必死に叫んだ。女の子に気を取られて攻撃が止まったその一瞬のタイミングで、カイザーセンチピードが物凄いスピードで女の子に接近する。
俺はスキル『神速』を使って間に割って入る。そして女の子に襲い掛かる寸前のカイザーセンチピードの顎を思いっきり横から殴り飛ばした。
瞬間、センチピードの頭がズレて吹っ飛ぶ。
「…イッッテェェェッッ!!」
俺は余りの拳の痛みに声を上げた。幾らステータスが振り切れてたとしても、痛覚耐性がないから痛いものは痛い。クソッ、闘気を纏わせて殴りゃ良かった…。俺には龍神の加護が付いた『龍神闘気』という特別なスキルが付いている。神様からスキルなどの説明は受けていたが、戦闘の素人だからこういう時に肝心な事を忘れてしまう。
「…ぉ、オジサン…ぁ、ありがと…」
「そんな事は良いから、早く帰って…。ここは危険だからっ…!!」
俺が膝を付いて拳の痛みに耐えていると、既にセンチピードが体勢を戻していた。マズイッ…俺はすぐにシーちゃんを見る。
俺の意図を汲んだシーちゃんが、すぐにセンチピードの顔にドロップキックをお見舞いする。その攻撃で再び吹っ飛んで倒れるセンチピード。
「…今のうちに速く逃げてッ!!」
叫ぶ俺の前でその少女は、慌てて赤色依頼の紙を見せた。
「…オジサンッ、わたしもコレ持ってるのよ!!」
は?何で中学生くらいの女の子が赤色依頼(危険度マックス)の紙もってんの?俺は一瞬、何が何だか分からなかった。…全く、なんでこんな事になってるんだか…。
全ての始まりは、数カ月前に遡る。
◇
俺は酒とオンラインゲームが好きな四十代後半で独身のオッサン。二日酔いのまま、洗濯物を片付けようとして、引き出したタンスの角に頭をぶつけてしまった。
その日から視覚に異常を感じるようになった。そしてたまたま地球で俺の家を拠点にしようとしていた妖精のリーちゃんが視えるようになってしまったのだ。
俺の家は山の上の人家の少ない場所にあり、周辺に神社が多くあった。そのせいか魔素が無い地球でも、この辺りは魔力溜まりがかなりあるそうだ。
そこでリーちゃんが地球に来た時、一番に俺の家に目を付けた。リーちゃんは七銀河離れた遠い星から多くの拠点を繋げてここまで来たらしい。
いつも仕事から帰ってくると、リーちゃんにおやつのチョコを上げて、俺はサワー缶にストローを刺してチューチュー飲む。初めてチョコレートを食べて以来、チョコ好きになったリーちゃんは、『物質透過』スキルを使って冷蔵庫の中からチョコを引っ張り出して食べるようになった。
リーちゃんと生活するうちに、転生したばかりでちびっこな双子の妖精女王ティーちゃんとシーちゃんも来るようになった。
リーちゃんに二人を紹介して貰う。
「妖精女王であらせられるお二人は転生を果たされてから三百年程しか経っていないので未だ幼生体なのです」
「ティーアじゃ、アンソニーとやらよろしくじゃ」
「シーアでしゅ。アンソニーよろしくでしゅ」
その日から、妖精族とおやつを食べながら、一緒に本を読んだりゲームをしたりする。三体の目的はチョコレートを始めとしたおやつと、漫画を含むこの家の本を読む事だった。
ある日、俺が仕事から帰ってくると、三体がベッドの下の床に転移魔方陣を書いていた。
「ほれっ、アンソニーよ。ベッドの上に寝るんじゃ!!」
いきなりそう言われても訳が分からないので、ティーちゃんに説明をして貰う。
「むこうの神様から、アンソニーを連れて来るよう言われたんじゃ!!」
…いきなりそう言われてもなぁ。
俺は迷いつつも異世界のお酒に興味を惹かれ承諾した。そして地球に戻って来れる約束をしてから、ベッドの上に寝る。直後にリーちゃんが『超長距離高位次元転移』の魔法を発動させた。
その瞬間、俺の肉体から霊体のみを魔法陣が吸い込む。ワームホールの様な長いトンネルを一瞬で抜けた俺は広い空間へと放り出された。