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元スパイ中学生の誕生日が3月11日な件

作者: 川里隼生

 私は春野はるの風花ふうか。内閣情報調査室海外特別派遣員候補生、つまり日本のスパイ候補者として育てられた人間。でも、スパイとしては実力不足だったから解放された、言わば払い下げの出来損ない。去年の4月からは千葉市立の中学校に通っている。


 私が生まれた日に、地震が観測された。その地震の震源は宮城県沖。マグニチュード9.0。最大震度7。10メートル級の津波が三陸地方を襲い、最終的な犠牲者は行方不明者と合わせれば2万人を超えた。東日本大震災と呼ばれる、戦後最悪の大災害だった。


 以来、私の誕生日は世間では鎮魂、慰霊、追悼の日とされた。テレビにはロウソクが映るけれど、それは決して私の生を祝うものではなく、誰かの死を悼むものだ。こういうことを考えてしまうのが、スパイとして落第認定された所以なのだと思う。


 ……なのに、どうして今年はこうなったんだろう。ソフトテニス部の練習に出るために着替えようとしたら学級委員長の亜美あみに呼び止められて教室に引き戻され、『誕生日おめでとう』と大きくカラフルに書かれた黒板と対面させられている。


 サプライズ。中学生がいかにも好きそうなこと。中途半端にスパイ成分が残っているせいで「エ〜ナニコレ〜ウレシ〜」みたいなテンションにはなれないけれど、たった今もらったこのハンカチは、大事に使おうと思った。今日は、3月11日は、他の何の日でもない、私の誕生日だ。

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