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十二話


 俺の名前は斎藤蓮、ごく普通の高校生......ではない。俺には他の人には見えないような幽霊が見えてしまう。そして、訳あって『腐った根性を叩き直す』という名目で現在、鬼神寺と呼ばれる寺にて修行をしている毎日を送っている。

 とは言っても、学校がある日にはちゃんと通っている訳で、現在は夏休みである為、修行の日々を送っていたのだが...。


 「お前、坊主にしてないな...。新入りか?」


 廊下を雑巾掛けをしている最中の事、見知らぬ坊主頭の青年に声を掛けられてしまった。その男性の格好は他の修行僧と同じような格好をしているものの、背が高く、体つきの体格をしていて、随分と服装が似合わないなという印象を受けてしまった。

 年齢的に見た感じだと高校生ぐらいで、背丈は鬼条先輩よりも背が高く、明らかに180cm以上は確実にありそうだった。


 「はい、七月にここで修行させてもらってますけど...」


 「そうか...。確かにまだ将来を見据えていないガキが頭を丸める訳にもいかないわな

 どういう理由でここでいんのかは知らねぇけど、まぁ、頑張れよ。世の中、そんなに悪い事ばっかじゃないからよ」


 彼はそう言うとそのまま、この場から去ってしまった。俺自身、彼が誰なのか分からないし、ここに入ってからそんなに時間は経過していないものの、見掛けた事もない。


 「誰だったんだろ?」


 そんな疑問が浮かべながらも、とりあえず、いつもの日課を終わらせるべく、体を動かす。俺の朝は早く、そして、慌ただしく、忙しい。その為か、慌ただしくしている中で、今日出会った人物の事を忘れてしまっていた。

 その人物を思い出したのは昼下がりの相変わらず、太陽が照り付ける正午を過ぎた頃の事だった。


 「いつまでお前は自分の夢を追っているんだ。お前は寺の子供なのだから、もしかしたら、お前が継ぐかもしれないんだ。いい加減、現実を見たらどうなんだ?」


 縁側の廊下を通る際に住職の声が聞こえた。住職とは言っても、現在は80歳程の年寄りで跡継ぎの息子は現在、行方知れずらしい。そんな住職にも孫が二人いる。話によれば、大学生と高校生らしいのだが...。大学生の方は美大へと出て、戻ってきておらず、高校生の方も家を出て、戻ってきていないと聞いた。

 もしかしたら、今日、出会ったのが住職のお孫さんなのではないかと、思い出すように思い浮かぶ。まぁ、確認してないから確証がない為、何とも言えないが...。


 「別にじいちゃんには関係ない話だろ。それにこれは俺の人生だ、口出しされる筋合いもない」


 何やら、揉めてしまっているようだが、まぁ、俺には関係ない事だ。だって、そうでしょ?俺は確かに授業しに来ているだけであって、自分自身はこの寺の子供ではないし、坊主になるつもりもない訳で、口を挟めるような立場でもない。

 だけど、俺でもこの寺を継ぎたいなんて思わない。自身が選べる筈の自由を縛られ、飛び立つ事も出来ず、そうやって生きていくなんて俺には御免だ。今は夢も将来も形を成さないけれど、それでも、俺はこの寺でなくとも、僧侶という道を選ばない。いくら、霊が見えようとも、それは変わらないだろう。

 全てが終わった夕食を終えた晩、部屋に戻った際の事、「ご苦労さん」と声が聞こえ、目をやるとそこにいたのは今日の朝、顔を合わせた彼の姿があった。


 「何で...」


 唖然として、思わず、そう言葉を溢れてしまっていた。というより、本当に『何で』だ。どうして、彼がここにいるのか検討が付かない。


 「お前さ、霊視(みえる)んだろ?」


 彼は俺の顔を見るなり、そう口を開き、「俺、荒谷(あらや)(かい)、ここの住職の孫だ」と自己紹介した後に「そんで、お前は?」と図々しく、そう尋ねてきた。

 「俺は斎藤蓮です」と一応の自己紹介をしておく。


 「そうか。蓮、明日辺り、お前に手伝ってほしい事がある」


 「手伝い...ですか」


 それを聞いて、不安になる。彼とは顔を合わしたばかりだし、人柄なんかもよく分からない。彼自身が良い人間なのか、悪い人間なのか、そういう事さえも分からない。


 「まぁ、何だ、質の悪い悪霊を退治しに行くのに、お前に同伴してもらうだけの事だから、安心しろ」


 「悪霊を......、退治って!!俺には無理です。無理ですって!!だって、俺には見えるだけで何も出来ないです」


 思わず、拒否をしてしまった。それもそうだ。俺には霊視(みる)力はあっても、祓うなんて事も出来ない。鬼条先輩や刄さんのように立ち向かう力なんて持っていない。


 「それで十分だ。別に何かしてもらおうとは思ってねぇよ。そういうのは寺生まれの俺と専門家に任せとけばいい。つっても、まだまだ未熟者らしいけどな

 それでもいないよりかはマシだろ」


 そんな事を言うけれど、俺を連れていく理由ないだろう。それでも彼自身、どういう訳か連れていくつもりでいる。俺なんかを連れて、どういう得があるというのだろう。寧ろ、足手まといになってしまうと自負してもいい。


 「まぁ、安心しろ。俺、強いし、幽霊でも妖怪でも拳一つで対処は出来る」


 それはどういう理屈だ。そんな脳筋理論なんて聞いた事がない。拳一つで解決出来るなんて思えない。


 「相手は確か、百幽霊行(ひゃくゆうれいこう)って言ったっけ?ここ、最近じゃ、突如、現れてはその町の道路なんか荒らしてるって話らしいんだが

 この町にも来るっていう噂を聞いてな。相手にとっては不足も糞もねぇだろ」


 あー、この人、おバカさんだぁー。喧嘩は娯楽だと勘違いでもしてるのか?もう、嫌...。自ら、首を突っ込みに行くなんて、どうかしてる...。生きてたら、絶対に鬼条先輩に愚痴ってやる。

 荒谷戒との邂逅を済ました後の事はほとんど、覚えていない。おそらく、布団の中で寝てしまったのだろう。翌日の朝もいつも通り、目を覚まし、いつも通りに雑巾掛けをする。

 何もかも忘れて、朝食を食べている最中の事だった。


 「押忍、夜はよく眠れたか?」


 などと声が聞こえ、横へと顔を向けるとそこにはあの彼の姿があった。どうやら、昨日の出来事は夢ではないようだ。


 「......お陰様で」


◇◇◇◇


 八月の中旬、相変わらず、蝉達が騒がしくも、忙しく、鳴いていた。彼らにとって、この夏は最期なのだ。だからこそ、必死になって、鳴いている訳で、そして、現在、学生達も必死に頑張っているのだろう。夏休みの宿題という試練を...。俺も覚えがある。夏休みというのは何か期待させてくれるワクワクがあって、だけど、そんな実の所、何もない訳だ。そうして、ダラダラ、過ごしている内に夏休みが終わりに近付き、夏休みの宿題という試練を乗り越えてない事に気が付かせられる訳だ。徐々に迫り来る期限と焦燥感と戦いながら、宿題を終わらせるという、まぁ、夏休みの最期になっても宿題が終わってなかったりするんだけど...。

 薪君というと、夏休みの宿題は七月に既に終わらせているようで、宿題の事などもう既に頭にはない。

 すげぇーよなぁ、俺もあの時、見習えば良かった...。何て思うものの、まぁ、過ぎ去った事なのだから、どうしようもない。

 現在、鬼条焔、彼の祖父母で俺の養母の家に来ている。理由として強くなる為、鍛練の為である。

 彼女の家の敷地は広く、そう言えば、ここで蠱毒に落とされた事を思い出す。あの時は最悪だったなぁ...。それより、あのじいさん、元気にしてんだろうか?まぁ、どうでもいいか。

 俺が今、やっているのは天狗の秘技を自分の物にするべく、鍛えている。とはいっても、俺がやっているのは『駆跳隠』の『駆』と『跳』である。

 俺に必要なのは機動力だ。俺にはこの刀しかない持ち得ない。というより、これが本体でこっちの体は作り物なのだ。この体はこれ以上に作り変えるなんて事も出来ない訳で、だから、今は天狗の秘技をマスターするべく鍛練している訳だ。

 意識するは自身の力の循環と、それに合わせた力の溜め。そして、烏天狗達に教えられた感覚、その他諸々を組み合わせ、秘技を発動させる。

 確かな機動力を得られる訳ではあるが、それでも力の大幅な揺れが存在している。


 「これじゃないんだよなぁ...。どうして、揺れる。やっぱ、あれか。俺が自身をマスターしてないけぇか」


 烏天狗達は力の揺れなど感じさせる事もなく、技を見せてくれた。

 「はぁあ~...、たいぎーのぅ」とそう口にしようと、何も変わらない。とにかく、鍛練あるのみで棚からぼた餅など落ちてこない。

 まぁ、それでも何回も重ねて、やっていればどうにかなると信じて、俺はこれを繰り返しにやる以外の他はなかった。最初から持ち得ないのだから、努力せずに得られる訳もない。それに前よりかは幾分、マシにはなったと思うし、思いたい...。

 そんな鍛練を続けて、いつの間にか正午の時刻になってしまっており、「お昼ご飯にしましょう、刄」と焔さんに声を掛けられて、昼食を取る為に彼女の自宅へと上がらせてもらう事となった。


 「よく来たな、薪。灯は元気にしているか?」


 自宅へと上がり、居間へと行くとそこには鬼条進一郎、彼の祖父であり、俺を蠱毒へと突き落としたジジイである。どこか、血色が悪いように感じさせられるのはきっと、気のせいとかじゃないだろう。

 「まぁ...、元気にしていますよ」と彼は自身の祖父に口を開き、「それより...、顔色が悪いみたいだけど、大丈夫なのか?」と尋ねる。


 「あぁ、私は大丈夫だ。悪い夢を見ただけだ。気にする事じゃない」


 そう言うも、この老人の目には隈が出来ており、明らかに眠れておらず、不眠になってそうな疲れた顔をしているのは確かだ。彼の身に何が起きたのか知らないが、もしかしたら、精神的に追い詰められているのかもしれない。

 多少の恨みはあるものの、それでも、今、この場において、この老人の事を心配してしまうのは、俺自身がお人好しのバカだからなのだろう。

 それとも、焔さんに色々と言われたからとかだったりは......、しないな。非人道的な事をしていた人間が自身の妻に怒られたからといって、そう簡単に反省するとも思えない。

 「お久し振りです」と俺は一応の礼儀のつもりでそう挨拶をしておく。


 「刄といったか、薪の事を頼んだぞ」


 彼はそう言った。頼まれなくとも、彼に手を貸すし、友として慕う事の変わりはない。まぁ、そんな事を相手に言っても、何が変わるという事もないだろうから、「はい」と応えておく。


 「あなたが偉そうに言える立場ではないでしょ。それより、体調の方は大丈夫なの?」


 そう焔さんがこの老人に対して、心配そうに尋ねる。


 「心配はいらない。あまり寝れないだけだからな」


 そう応えるが、それはよろしくないように思える。睡眠は生活するにおいて、必要な重要な物である。寝なくても大丈夫だと道理が通る事なんてないだろう。

 「はぁ...」と焔さんはため息を吐いた後、


 「全然、大丈夫だとは思えないわ。今度、一緒に病院へ行きましょう。嫌って、言っても、聞きませんからね」


 この老人の性格はともかく、どうやら、自身の妻からは愛されているようだ。それが何となく仲睦まじく感じさせられてしまう。何だかんだ夫婦仲は良いようだ。


 「分かった。また、今度な...」


 進一郎はそう返事をする。何かを抱えて、患っているのならば、診てもらうべきだ。相手がどうだろうと、何だろうと、この老人は彼にとって大切な身内なのだ。恨み言を抱えようと、流す事が出来なくとも、それでも、許容すべきなのだろう。

 内心でため息を吐いしまうが、俺の器は大きくはない。さっさと忘れてしまうのが吉という事か...。

 昼食の後の事、焔さんに声を掛けられ、彼女の部屋へと連れ込まれてしまった。


 「これを......俺に?」


 連れ込まれた部屋で俺はある物を渡される。それはというと、紺色の外套であり、バンカラのマントといった感じで、丈の長さは膝下まであった。


 「これはあなたの妖力と霊力で編まれた物よ。あなたが寝ている時に拝借させてもらったわ」


 寝ている時?......それって、刀身を砕かれた時にって事か?


 「暑い日は通気性が良くて、寒い日には保温性に優れている。おまけに高い耐久性を持っていて、もしも、破れたり破損してもあなたの妖力と霊力があれば、すぐに修復する優れものよ

 普段は霊体だからとはいえ、流石にその格好はよろしくないわ。それにあなたは薪の付き物だもの。ちゃんとした物を持っていても、損はしないでしょ?」


 「ありかどうございます」


 俺は礼を言って、ありがたく受け取る事にした。霊体では他に着る事が出来ず、この一着しか持っていなかった。だから、こういう物を貰えるのはありがたい。

 俺は早速、着てみる事にした。着心地はフィットした感じで、そして、自身の力の大元から作り出したおかげもあるのか、外界から身を守られているといった感じの感触を感じさせられていた。


 「似合っているわよ」


 と言われ、


 「...どうも」


 少しながら照れしまう。こういうのはあまり言われ慣れていない。


 「百幽霊行(ひゃくゆうれいこう)?」


 時刻は午後の五時の時の事だった。俺達は帰る前に居間にてお茶をしていた。


 「百鬼夜行とかじゃなくて?」


 俺は焔さんへとそう尋ねる。百鬼夜行なら聞いた事はあれど、そんな物は聞いた事がなかった。


 「えぇ、ここ最近、表立って暴れてるグループよ。名前通り、全員死人の幽霊なんだけど、生前はやんちゃしてた子達が集まって、次第に大きくなっちゃったみたいなのよ。それに妖力とかも手に入れたみたいでね、勢いに乗ってるみたいだから、他所でも手を焼いてるみたいなのよ」


 そう彼女はやれやれといった感じの反応を見せる。どんなグループなのか、気になるが、出会したくないとも思ってしまう。きっと、厄介事でしかないのだから、首を突っ込まない方がいい。


 「それでこの町に来るみたいでね。今日は鍛練の後だから、無理強いはしないけど」


 .........おっと、嫌な流れになってきたぞ...。


 「明日の晩から見回りをしてほしいのよ。力試しぐらいしたいでしょ?

 心配しなくとも、三羽烏のあの子達とか鬼神寺の息子さんと、修行僧の皆さんも参加するから大丈夫よ」


 いえ、俺は参加したくないです。俺はいつだって、堕落したいです。...なんて言える筈もない。


 「分かった、参加する。俺は未熟のままでいたくないし、自分の力を知る為には相手は必要でもあるし、不本意であまり誉められた相手でもないけど」


 「分かった。参加すりゃええんじゃろ」


 薪君って、おばあちゃんっ子か?

 大体は予想できていた。彼ならきっと、そう言うだろうと。それなら、俺も行かない訳にもいかない。面倒事は嫌いだし、労働も嫌いだ。だけど、生まれた責任はちゃんと背負わないといけない。

 大人になるのって、面倒臭い事だよなぁ...。

 参加する事となってしまった。確かに自身の力がどこまで通用するのかは知っておきたい。それに複数人参加する訳でもあるし、力がない者が参加するという訳でもないのだから、別に心配しなくともいい筈だ。

 翌日の晩の事、鬼神寺の階段下まで集まっていた。


 「鬼条先輩と刄さん、参加するんですか?」


 見知った声が聞こえたと思うと、斎藤の姿があった。どういう訳か、彼も参加する事になってしまったようだ。


 「ていうか、お前、見えるだけじゃないのか?」


 そう薪君が尋ねると、彼はガックリと肩を落とし、「いえ...、ちょっと巻き込まれただけです」と自身の横を指差す。そこには背丈の高い僧侶がいるものの、体格が良すぎて、どことなく服装が似合ってないようにも思えてしまった。


 「成る程、お前が鬼条家の倅か」


 その僧侶にそう言われ、「鬼条薪です」と自己紹介をする。


 「俺は荒谷戒。鬼神寺のどら息子だ

 好きな事はボクシングで、リングの上で汗を流す事だ」


 成る程、確かに僧侶らしくない受け答えだ。僧侶にボクシングという組み合わせは中々に奇っ怪に感じさせてくれる。どちらにせよ、ストイックな物でもある訳だし、何か通じる物があったりするんだろうか?

 ただ、彼から霊力と妖力の両方を感じさせられる。彼はただの人間ではない事だけはよく分かる。


 「んでお隣さんは...、彼女っていう訳でもなさそうだな。付喪神の類いか?

 いや...、違うな」


 「鬼条刄です」と一応、自己紹介をしておく。


 「鬼条...か。そういや、じいちゃんから聞いたな。ここ最近、鬼条のじいさんの様子がおかしいって

 まぁ、俺にはかんけーねぇし、どうでもいいか

 にしても、妖怪を養子を取るとか思いきった事をしたな」


 そう言いながら、こちらをじろじろと見る。確かに妖怪を養子に取るとか、結構、珍しいというか、まぁ、あのじいさんが仕出かした事だ。俺自身、養子に迎え入れられるなんて思ってもみなかった。

 この場にいるのは何人かの僧侶で彼らから幾分かの霊力を感じさせられる。これなら、徐霊ぐらいは出来るかもしれないが、戦力だと思わない方がいいのかもしれない。


 「薪坊と刄、お前達も参加するんだな」


 「相手はたかが、幽霊だ。気負う必要はない」


 「だけど、無理はするな。困ったら手ぐらい貸してやる。私達は友達だからな」


 あの三人も来ていた。この三人がいてくれるのなら心強いだろう。


 「あぁ、その時は頼む」


 薪君は彼らに対して、そう言葉を返す。

 他に背丈が2mもある、あの『河童相撲千試合』の優勝者でもある河童、津之助がいる。彼から感じる力はとても大きく鈍重のように感じさせていた。


 「皆さん、お集まり、ありがとうございます。体調の方は大丈夫でしょうか。体調が悪いようでしたら、無理なく、離脱していただいて構いません

 ここ最近では『百幽霊行』と名乗る幽霊群が暴れまわっているようで、他の地域では手を焼いているそうです

 皆さんに集まってもらったのは他でもありません。彼らの討伐をする為です

 寺の坊主がこのような言葉を使うなど、許されるような事でもありませんが、それでも、相手は力を付けているようで、それに対抗するには皆さんのお力をお借りする他ありません

 どうぞ、よろしくお願いいたします」


 鬼神寺を代表とする僧侶が挨拶をする。彼らの服装は僧侶が身に付ける服装に加え、笠を被り、手には錫杖を持っている。僧侶が戦闘するようなイメージが浮かばない。お経でも読んで、攻撃でもするのだろうか?

 まぁ、何にせよ、『討伐』と言っているのだ。躊躇も遠慮も、必要がないという事は斬り捨てても構わないという事なのだろう。

 そんなこんなで夜の見回り、巡回が始まった。各々が別れ、『百幽霊行』との対処の為に赴く。


 「百幽霊行...ねぇ。多分、百鬼夜行と掛けてるじゃろうね」


 「だろうな...。そういう名乗りを上げる幽霊なんて、聞いた事はないけど、というか、どこの漫画に出てくるヤンキーだ......

 まぁ、でも、図に乗ってるみたいだから、さっさと始末しないとな」


 そんな会話をしている夜道の事、ブゥウウウウウンといった騒音と共に前方からバイクの集団が走ってきていた。

 暴走族なのだろう。だが、ただの暴走族ではない事は離れていても俺には分かった。それは俺に霊感があるからなのだろう。そして、妖力さえも感じてしまう。相手は決して、生きてはおらず、幽霊というのが瞬時に分かった。

 こっちへと突っ込んでくる相手に対して、俺は構えを取る。

 「ヒャッハー」と何やら、気違いのように声を上げて、走っているものの、薪君はそれに対して、手を前に出した。手を出した直後に一直線に炎が走る。その炎は霊炎であり、彼らを焼き払う。

 火炎の中を突っ切る感じで彼らは炎の中から飛び出してきた。どうやら、彼らは霊力じゃ止まらないようだ。

 俺は飛び出した相手に対して、自身の最速である居合いを繰り出すも、自身が乗っているバイクを盾にされ仕留める事は叶わず、その代わりにバイクを真っ二つに切り裂いてしまった。


 「らぁあああああああああ」


 そのバイクの乗り主はバイクが切り裂かれたあの瞬間に、バイクを踏み台に頭上へと飛び掛かり、上から襲い掛かる。

 他のバイク乗りは俺達の横を通り過ぎていく。

 俺へと襲い掛かる相手に対して、彼の目の前で爆炎が発生する。その爆炎に飲み込まれ、彼は落下するように落ちていく。それを狙い目に刀を振るう。

 しかしながら、切り裂いたような感触もなく、俺が見たのは俺の刀身を真剣白羽取りのように落下している最中にやってのけ、見事に俺の攻撃を回避してしまい、地面へと転がっていった。

 「チッ」と転がっていった相手は舌打ちをして、立ち上がる。相手の格好はモヒカンにジャケットを着た男性でいかにも、ヤンキーといった感じだった。


 「やるじゃねぇか。こうじゃねぇと、楽しくねぇんだよ」


 そうモヒカンヤンキーはにたーっと笑みを浮かべる。気が付けば、俺達の周りには円を描くようにバイク乗り達に囲まれてしまっており、ブゥンブゥンと鳴らしている。

 そんな相手に対して、容赦も遠慮もなく、囲っている相手に対して、彼もまた円を描くように炎の壁を発生させて、炎の中へと飲み込んでいった。

 今度は霊力のみではなく、妖力も混ざっており、「ギャーーー、熱い、熱い」と悲鳴を上げている。


 「てめぇ......」


 「悪いけど、討伐対象の相手に容赦はしない。もしかして、正々堂々に戦えなんて、言わないだろうな?」


 相手に対して、そう口を開き、炎が消える頃には周りを囲っていた彼らは真っ黒に焼け焦げとなり、そして、「兄貴ィイイ、兄貴ィイイ」と怨念が湧き出していた。


 「てめぇらの敵は俺が討ってやる」


 そう言って、彼は薪君を睨み付ける。まるで俺達が悪役のようにも感じてしまうが、それでも成仏していないのだ。だから、こうするしかない。


 「安心しろ。お前の仲間はまだ逝っていない。まだ、多少は残ってるが、後は輪廻に引き渡すだけだ

 死者がここにいていい道理などない。お前らには坊主の説法を聞いてもらう」


 「うるせぇ...。てめぇに俺らの何が分かる。何を分かって、口を開いてやがる

 俺達のオーバードライブを見せてやる!!」


 そう言うと彼自身から一気に妖気が溢れ出してくる。その漲る力を拳へと収束させていく。そうして、その妖力はメリケンサックへと形を変えてしまう。


 「刄さん、下がっておいてくれ。俺がやる」


 そう言われたので、俺は仕方なく、「分かった」と応えて、後ろへと下がる。

 目の前の相手は妖力を持った妖怪の類いに属する幽霊だ。ただ、今までに対峙してきた相手と比べると大した事のない相手だと思えてしまう。それは相手から圧倒的な力をという物を感じない。あの海の家で現れた悪霊よりかは力を持っているだろうが、それでも、強そうだとは全然、思えなかった。


 「オラァアアアア、死ねぇええ」


 そう相手は拳を薪君へと振るうも、薪君は構えもなく、軽々と回避してしまった。

 薪君の力の循環は落ち着いており、揺れ一つもない様子で、俺が目指す完成形がそこにはあった。

 それでも、相手は手を休めず、攻め続ける。それを息を一切、切らさずに見切り、かわしにかわしていく。その突如として薪君の姿が消えたと思うと、モヒカンヤンキーの背後に彼の姿があり、指先に霊炎を灯して、相手の後頭部を指差していた。

 「もう終わりか?」と彼は相手を煽るようにそう口にする。

 「んな訳あるか」と煽られた相手は振り向くように裏拳を繰り出すも、やはり、相手に当たらず、一瞬にして元の定位置に戻っていた。


 「畜生...、畜生...、畜生がぁ!!

 まだ、終われねぇ。終わって堪るか...」


 先程、俺らより力が低いと感じていた筈の力が上昇していくのが分かる。それはメリケンサックへと向かい、集中し、濃厚な塊へと変えていく。

 その異変を感じ取ったのか、薪君は後ろへと跳ぶように下がるも、遅かった。

 彼のメリケンサックを握っている右の拳から繰り出されるのはただのストレートではあるが、後ろに跳んだ相手には届かない筈だった。しかしながら、その届かない筈の拳の一撃は薪君へと届いたようで、胸を押さえる。


 「はぁ...」


 その一撃に苦悶の表情を表し、相手は「シャッアー」と気合いの声を上げる。

 そして、彼の目付きが変わる。先程まで余裕のある表情とは打って変わって、少し相手へと意識を向けたような本気の表情になっていた。

 空間に彼自身の妖気が漂い、指先を相手へと差した直後、炎が噴射され、火炎放射となって襲い掛かる。

 それを割るように、拳の一発で相手は防いでしまっていた。相手の能力は力の塊を放つタイプの能力でシンプルな物で分かりやすいが、足元に炎柱を発生させるも、地面を殴り付けて、無理矢理、相殺させてみせる程の力を見せ付けてくる。


 「強いな、お前」


 薪君の口からそう言葉が溢れてしまった。


 「他にもいるんだろ。百幽霊行っていうのはお前らだけって訳じゃないんだろ?

 遠くで強い力を感じる」


 そう言いながら、自身の手から火で出来た赤蜻蛉を出現させる。


 「あぁ、俺は百幽霊行の中で一番下の幹部だ。俺より強い奴はいる

 お前なんか大した事ねぇんだよ、雑魚」


 そう彼は悪態を吐く。

 それに対して、彼は爆炎を引き起こすも、「効かねぇ!!」と調子を乗ったようにその爆炎すらも振り払う。

 その爆炎を薪君は連続的に引き起こすも、相手はそれに対応していくように振り払う。


 「アハハハハハハ、そんなモンかよ、格下ぁ!!」


 そう煽るような言葉を聞きながら、ため息を吐いてしまう。


 「強いとは言ったが、俺より強いとは言ってないぞ」


 「は?」と声を出すも自身の頭の上に赤い蜻蛉が止まっているのに気が付いてようでそれが一瞬にして炎へと変わり、頭を包むように燃え移る。


 「ぁああああああああああ」


 地面を転がりながら、悶え苦しむ。


 「楽にしてやる」


 そう言った後に炎柱へと飲み込まれ、焦げた炭へと変わり果ててしまった。


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