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SIDE-R(1)

 校庭の隅に植えられた銀杏が、西日を浴びて黄金色に輝いている。校門から校舎に沿って植えられた桜の葉は赤茶色になって全て落ち、寂しく見える枝の間から茜色に染まった冬空が見えた。

「ふぁあぁああ……暇だっつーの! 今年は新人戦も記事にするほどじゃ無かったモンなぁ……学園祭も体育祭も終わっちまったら、新聞部に仕事は無い!」

 部室で気持ちよく小春日和を堪能していた俺はアクビと共に大きく背を伸ばし、吹き込む風が肌寒くなってきた窓を閉めた。

 すると中央に置かれたスチール製事務机でノートPCのキーを叩いていたリリ子さんが、銀縁眼鏡をクイッと上げる。

「暇だなんて、余裕ですねルイくん。来週には期末テストが控えているのに?」

 成宮凛々なるみや りりこ。大学受験のため三年生が引退し写真部の新部長となった彼女は、長い黒髪を二つに束ね前に垂らし、銀縁眼鏡を掛けている一見すると地味な女子高校生だ。

 しかし俺は、彼女の魅力を熟知している。

 公立高校としては自由な校風の我がK高校でノーメイク! 平凡なブレザー制服もアレンジなし! スカート膝丈! で、ありながら校内一番の清楚系美人なのだ!

 密かにリリ子さんに想いを寄せて新聞部に入ろうとした男子生徒は数多いたが全員あの手この手で追い払い、作戦通り現在の部員は二年生のリリ子さんと俺の二人だけ。

 学年違いでアプローチするには、これくらいしなくては。

 俺は必ず、リリ子さんの恋人になるんだからな。

「もちろん部活停止中の部室に通っているのはテスト勉強のため……というのは建前で、実のところリリ子先輩に会いたいからに決まってるじゃないですか! 先輩も、そんな難しい顔でパソコン弄ってないで晩秋の美しい夕焼けを俺と眺めましょ? ほら、銀杏がすごく綺麗ですよー!」

「あのねぇ、ルイくん。我が部は現在、部員が二人しかいないの。だから来年五月発行予定の紙面レイアウトや記事内容を、今から考えておかないと編集が間に合わないのよ? 幸いなことに写真はルイくんが自前のカメラで撮ってくれるから助かってるけど、卒業式インタビューする先生や三年生も決めなきゃならないし……」

 リリ子さんは小さく溜息をついてノートPCをシャットダウンした。帰り仕度を始めた彼女にあわせ、俺も急いで形だけ広げていた教科書やノートを鞄に突っ込む。

「じゃあさ、その事相談しながら駅まで一緒に帰ろうよ? 俺も少し企画考えてるから、聞いて欲しいんだ」

「……そうね、いいわ」

「やった!」

 今日は忙しそうなリリ子さんを邪魔して心証悪くしたらマズいので、あまり話せなかった。帰り道では綺麗な銀杏を眺めて、駅前に出来た流行のタピオカ店に寄って、距離感を縮める作戦だ。最近はホットメニューもあるから、きっと気に入ってくれるはず!

 そして期末テストのあとは球技大会。得意のバスケで格好いい所を見せて、点数を稼いだらクリスマスにデートに誘おう。

 初詣は二人で行けるくらいに親密になって、二月のバレンタインにチョコをゲットできたら……。

 成宮凛々子。恋人になった君を俺は、たくさん苦しめよう。

 苦しめて苦しめて、それから……。

 殺す。

 これが俺の、本当の目的。




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