王女との婚約
翌日、王宮では王女レナスと、花婿に名乗りを上げた男との結婚式が行われるはずだった。
だが、前日、国王夫妻に謁見した屈強そうな男は、いつになってもこの場に姿を現さなかった。
「今回は、ずいぶんとイカツイ男だから大丈夫だと思っておったのだが」
国王が憔悴した顔で言った。
王宮の広間の巨大なテーブルには、豪勢な食事が並べられていた。
しかし、この場には王と后と王女の3人しか居なかった。
娘の婿となる男が次々と謎の死を遂げ、さらに、ここ最近に至っては婚礼の直前に花婿が次々と逃げだしている状況に、王は打ちひしがれていた。
同時にこれを「恥」とも考えており、今回も花婿がいつになっても現れないことにいら立ち、身内以外の者たちを退出させていた。
「ここのところ、レナスの婿に名乗り出ておきながら、いざ結婚式当日になると逃げだす者ばかりね。
一体、どうなっているのかしら」
国王の妻であり、王女レナスの母である后が不安げな表情を浮かべ言った。
「仕方ないわ、お母さま。
私と結婚した者が次々と、一日と持たずに死んでしまったのですもの。
昨日いらした方も、きっと恐れをなしたのでしょう」
そう言った王女レナスは、心なしか、花婿候補に会った前日より落ち着いているように見えた。
その時、国王の従者の一人が大きな扉を開け、広間に入ってきた。
「誰も入るなと言ったはずだぞ」
国王が激昂し、声を荒げた。
が、従者は怯まず、直立したまま、
「新たに王女さまの婿に名乗りを挙げる者が現れました」
王にそう伝えた。
「なんだと、それはまことか?」
王が問うと、
「はい、この若者です」
従者はそう答えたのだが、その言葉が終わらぬうちに、従者の背後からエリヤが姿を現した。
エリヤの姿を見た途端、王女はアッと声を上げた。
これに、エリヤのみならず、国王夫妻も驚いた。
「レナス、この方とお知り合いなの?」
后が娘である王女に尋ねると、王女は慌てて首を横に振り、
「いえ、ただ、この若者があまりにも凛々しかったので」
そう言って、うつむいた。
「たしかに見目麗しい若者だ。
これなら、どこに出しても恥ずかしくない。
どうだろう、王女が気に入っているなら、いっそのこと、今から婚礼の儀を始めては」
国王夫妻はすでにエリヤを気に入っているようだった。
王女は、すぐさま首を横に振った。
「ダメ、ダメです。
これから式を挙げるなんて、とんでもない。
それに、私の夫となった男たちは次々と死んでいるのですよ、1日ともたずに。
あなたは覚悟の上なのですか?」
王女はエリヤの方を向き、結婚を諦めさせようとした。
しかし、
「それは知っています。
そして、覚悟も出来ています。
しかし、それは死ぬ覚悟ではなく、レナス王女、あなたと結婚し、あなたを幸せにする覚悟です」
エリヤはきっぱりと言い切った。
これに国王夫妻は感激し、王女とエリヤとの結婚を勝手決めてしまった。
王女はどうにかして断ろうとしたが、決定を覆すことは出来なかった。
「ところで、王女さまの双子のお兄さまはどちらに?」
エリヤは広間を見回したが、目の前の3人以外、この場にはおらず、これを聞いた国王夫妻は呆気にとられた顔をしていた。
王女レナスは慌てて立ち上がるとエリヤの元に駆け寄り、彼の袖を掴んだ。
突然のことにエリヤが何も出来ないでいると、王女はエリヤの腕を掴み、
「婚礼の儀は3日後に行いますわ。
あなたと結婚できることを、心から嬉しく思います」
大きな声でそう言いながら、巨大な扉を開け、広間の外へとエリヤを連れだした。
国王夫妻はただ見守るしかなく、また、エリヤは、王女に引かれるままについていった。
「本当ですか?」
エリヤが尋ねると、王女はうなずいた。
「本日予定されていた結婚式が、行われず、続いてあなたとの結婚が急遽決定し、私は大変疲れてしまいました。
しばらくの間、一人になりとうございます」
王女はそう言うと、連れ出したエリヤのことには構わず、そそくさと自室に引っ込んでしまった。
一方、王女との婚姻が決まったエリヤは、意気揚々と王宮を引き上げた。