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家畜小屋の風景

 朝焼けから朝の光へ変わる中でシャム達は黙々と草をむしり続けた。ハンガーの前ではシャム達の変わらない姿に飽きたのか、嵯峨の姿はすでになかった。


「隊長!」 


 遠くで呼ぶ声がしてマリアは腰を伸ばす。家畜小屋の掃除をしていた古参兵達。さすがに鍛えているだけあってまるで動じるところはない。周りの新入隊員が立ち上がったりしては腰を抑えている有様とは対照的だった。


「終わったのか?」 


「ばっちりですよ。先週生まれた子ヤギも元気いっぱいです」 


「それはいいな」 


 古参隊員の顔がほころぶ。自然とマリアも笑みを浮かべていた。


「シャム、すまないがうちの連中に食事を取らせたいんだが……」 


「うん、そうだね。みんなありがとう!」 


 小学生のようなシャムに頭を下げられて新入隊員達はどうしていいかわからないように顔を見合わせていた。


「おい、中尉殿の謝意だぞ」 


『こちらこそありがとうございます!』 


 外惑星コロニー出身者らしく時折発音がずれてはいるが日本語でシャムに敬礼する姿が展開された。


「またよろしくね!」 


 シャムの言葉に送られるようにして腰を押さえながら新入隊員達は畑を後にする。


「どうなるかねえ……あの連中」 


 その言葉とともに黒い塊がシャムの前に現れた。それは背中に吉田を乗せたグレゴリウス16世だった。


「大丈夫。みんな物覚えが早いから。すぐに慣れるよ」 


「いやあ……畑仕事に慣れられてもこま……うわ!」 


 吉田の叫び声が響いたのはグレゴリウス16世が二本足で立ち上がったからだった。どかりとサイボーグが地面に落ちる音が響く。


「グレゴリウス!だめじゃないの!」 


「わう!」 


 背中の吉田を振り落として軽くなったのがうれしいようでそのままシャムに近づいてくるグレゴリウス16世。その姿に苦笑いを浮かべながらシャムもまた歩み寄っていた。


「俊平……大丈夫?」 


 足元におとなしく頭を差し出すグレゴリウス16世を撫でながら倒れている吉田にシャムは声をかけた。


「大丈夫に見えるか?」 


「うん!」 


「だったら声をかけるな」 


 そう言いながら吉田は頭についた土を払った。


「こりゃシャワーでも浴びたいな」 


「じゃあ使えば?」 


 突然の女性の声に驚いて吉田が振り向くとそこにはすでに紺色のコートを着込んで帰り支度を済ませた技術部部長許明華大佐の姿があった。


「大佐、驚かせないでくださいよ」 


「それが軍用義体の使い手の台詞?たるんでるわね」 


「明華!もう上がりなの?」 


「ええ、今日は島田が早出だったから引継ぎも済ませたし……」 


 明華はそう言うと空を仰いだ。すでに朝の空。隣の塀の向こう側、菱川重工の社内を走る車の音がすでに響いていた。


「もしかしてタコさんとデート?」 


「タコさん?」 


 しばらくシャムの言葉の意味が理解できないというような顔をした明華だが、その『タコさん』が彼女の婚約者の司法局調整課長である明石清海中佐を指すことを知って笑い始めた。


「タコさん……タコさんて……」 


「大佐、笑いすぎですよ」 


 さすがの吉田も婚約者に爆笑されている明石のことを哀れに思って声をかけた。


「シャムの言うことは外れ。私も徹夜明けだもの。今日はおとなしく部屋で寝ることにするわ」 


「大変だね」 


 シャムの言葉にあいまいにうなづくとそのままグラウンドに向かう明華。それを見てシャムはゴミ袋を吉田に持たせた。


「どこかいくのか?」 


「だってシャワーを浴びるんでしょ?アタシはしばらくグレゴリウスの散歩をするから」 


 そう言うとシャムは足元に寝転んでいたグレゴリウス16世の背中にまたがる。グレゴリウス16世は大好きなシャムが背中に乗ったのを感じるとそのままグラウンドに向かって歩き始めた。


「金太郎だな……あれは」 


 吉田はそう言うと肩にもついていた土を払った後、シャムが置いていったゴミ袋を手に彼女のあとについていった。


 のんびりとした光景にシャムはほほ笑みながら吉田の隣につけた。


「俊平、シャワーは?」 


「隊舎だ。そこまでは一緒だろ?」 


 熊のゆっくりとした歩みにあわせて吉田も進む。まもなく隊員達も出勤してくる時間。ハンガーからは私服に着替えた警備部員と整備班員が談笑しながら歩き出していた。


「ご苦労さん!」 


 吉田の叫び声に隊員達は思わず敬礼をする。それを見てシャムは笑顔でハンガーに向かう吉田を見送った。



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