朝の司法局実働部隊
シャムが部隊の入り口のゲートに到着するといつもは徹夜で警戒しているはずの警備部のメンバーがいる詰め所に人影がなかった。少しばかり不安に思いながらシャムは周りを見渡した。
「誰かいないの?」
バイクのスタンドを立ててそのまま警備室を覗き込む。静かに時計が時を刻んでいるばかりで人の気配はなかった。仕方なくシャムはバイクを押しながらゲートをくぐろうとした。
「何してるんですか?」
突然暗闇から出てきた金髪の大男の言葉にシャムはどきりとして傾いていたバイクを転がしそうになった。
「なによ!びっくりしたじゃない!」
「びっくりしたのはこっちですよ。そこに呼び鈴があるじゃないですか」
そう言いながらこの寒い中タンクトップに作業服という姿の古参の警備班員のイワン・シュビルノフに苦笑いを向けるだけのシャムだった。
「だって……」
「いいですよ。ゲート開けますから下がってください」
イワンはそう言うと警備室に頭を突っ込んでボタンを操作した。ゲートが開き、シャムもバイクを押して部隊に入る。
「でも誰もいないのね……なんで?」
自分よりもふた周りは大きいイワンを見上げながらシャムがたずねた。イワンはしばら頭を掻いた後困ったような表情を浮かべながら口を開いた。
「うちの馬鹿三名が……夜間戦闘訓練装備の装着訓練で暗視ゴーグルを踏み潰しましてね」
「あちゃー。あれって導入の時に予算でもめてたやつでしょ?それはマリアは怒ったでしょ?」
あまりの出来事にシャムですら唖然とした。
法術の存在を知らしめることになった『近藤事件』以来、寄せ集め部隊の名で呼ばれていた遼州同盟司法局実働部隊は著しく評価を上げることとなった。そしてその作戦遂行能力の高さと人材育成能力を買われて発足時からの隊員や部隊長の引抜が続くことになった。
すでに管理部部長、アブドゥール・シャー・シン大尉が新設の同盟機構軍に引き抜かれた他、隊員達も次々と出身国の軍に破格の待遇で異動することが多くなっていた。
特に非正規戦闘を得意とする警備部のメンバーの入れ替えは激しく、年末に半分の隊員が入れ替わるという異常な状況を呈していた。そして隊内の明らかな練度不足に部長のマリア・シュバーキナ少佐が頭を抱えていることはシャムも承知していることだった。
「それで……訓練中の新兵君達は?」
イワンはバイクを押しながら歩いているシャムに付き従った。
「ああ、連中はグラウンドでランニングですよ。隊長の気の済むまでこき使われるでしょうね」
「かわいそうに……」
冬の遅い日の出を待ちながら薄暗いグラウンドを走っている警備部員を想像してシャムもしみじみとうなづいた。
「あまりいじめるのもかわいそうだから草取りでも手伝ってもらおうかしら」
「それはいいですね。部長に伝えてきます」
シャムの思いつきに笑顔でそう答えるとイワンはそのままグラウンドに向かう畑の道を走っていった。




