表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/58

配線コードのジャングル

「例の法術発動パターンデータシステムが出来れば誠ちゃんの法術運用も効率化……できるのかな」 


 シャムの言葉にレベッカは悲しそうな目をして首を横に振った。


「あくまでも発動パターンをデータ化してパイロットの意思の負担を減らすのがシステムの目的ですから」 


「パイロットの負担?アタシはあまり感じないけど」 


「そりゃあお前の法術のキャパシティーが尋常でなくでかいだけだろ?」 


 突然の声に見上げれば吉田がコックピットの開いた隙間から顔を出していた。


「とりあえず、ご苦労さん。シャム、アンのシミュレータの結果を見てやってくれ」 


「うん」 


 吉田に言われてそのままシートの縁に足をかけてコックピットから這い出すシャム。その様子を神妙な顔でアンが見つめているのが目に入った。


「そんなに硬くならなくてもいいよ。あれでしょ?先週の小隊内模擬戦の……」 


「そうです!お願いします!」 


 いつものアンとは違って明らかにシャムに緊張して顔をこわばらせている。その様子に苦笑いを浮かべながら島田か小柄なアンの肩を叩いた。


「遼南屈指のエースの指導を直接受けられる。緊張するのもわかるがいつもどおりやれよ。その方が覚えることが多いぞ」 


「はい!」 


 島田の助言にもかかわらず相変わらず緊張した表情のアン。シャムはコックピットに頭を突っ込んで中のレベッカとシャムの割って入れないような専門的な話を始めた吉田を置いてそのまま通路を進んだ。


 現在全機オーバーホールとデータ整備を行っている為、隣の吉田の『丙式』ばかりでなく、第二小隊の三機のアサルト・モジュールからも同じように太いケーブルと何本も走るコードが道をふさいでいた。


「中尉、切らないでくださいよ」 


 島田が後ろからこわごわ声をかけてくる。小柄なシャムでもようやく通れるかどうかという隙間をゆっくりと進む。


「これだと神前先輩とかは通れませんね」 


 アンの言葉にシャムは苦笑しながら進んだ。人の胴体ぐらいある太さのケーブルをくぐればその端子から伸びたコードが行く手を阻む。それを迂回すれば足場の手すりには多数の部品発注のメモが貼り付けられていて、それをよけて通ればまるでジャングルの中を進むように感じられた。


「誠ちゃんの機体は……」 


 シンプルなグレーのカウラの第二小隊隊長機のコックピット前のコードの群れを抜けたシャムがケーブルとケーブルの間を見つけて頭を上げるが、その隣にあるはずの誠のアニメキャラが全身に描かれた痛特機の姿はまだ見ることが出来なかった。


「シャムさん、足元!」 


 島田の声でシャムは下ろそうとした左足の下を見た。何本もコードが連なっている集合端子が見えて思わず隣のケーブルに足を掛ける。


「本当に注意してくださいよ。ケーブル一本で俺達の給料一か月分なんですから」 


「ごめんね……でもヨハンはここを通るの?」 


「あの人の場合はまず最初から入れませんから。俺達がデータ出力端子を引っ張って入り口の端末でデータ処理をするんですよ」 


「ああ、なるほど」 


 シャムは巨体の持ち主のヨハンを思い出してなるほどと思うとそのまま目の前の中で何かが流れているらしいパイプを潜り抜ける。そしてようやくそこには巨大なメイドのイラストが描かれた誠の専用機のコックピットが現れた。


「島田君。疲れたよ」 


「毎日8キロ走っている人がよく言いますね」 


「こんなところ通るくらいなら8キロランニングのほうがましだよ」 


 シャムは無理をして曲げた腰を抑えながらコックピットの前の空間に腰を下ろした。後ろでもアンがあきれ果てたというように余裕でパイプをくぐってきた島田の顔を見つめていた。


「まあ俺達は慣れてますから。さあ、あと15メートルくらいですよ」 


「はいはーい」 


 島田に急かされて立ち上がるシャム。コックピットの隣に据え付けられたデータ解析用端末の隣はすでにコードのジャングルが始まっていた。シャムは再びその中をくぐる。緑、赤、黄色。色鮮やかなコードのトンネルをくぐるシャム。次第にコツがつかめてきて先ほどよりも早くかなめの愛機の二号機のコックピット前の広場にたどり着いた。


「はい!次はかえでさんと御付の人の機体を越えて!」 


「うん!」 


 シャムはそのままコードの森に突入した。後ろではうんざりしたという表情のアンが、楽しげに森を進むシャムに呆れながらその後ろに続いた。コツがつかめれば意外なほど早く進めることに気づいてシャムは少しばかり楽しくなってきていた。さまざまな色のコードの縞々。端子に付いたセンサーの光る様。時々何かを流しているパイプの中から響く不思議な音。シャムはそれらを楽しみながらどんどん進んでいった。


「あのー、シャムさん。そこには入らなくて良いですから」 


 吉田の声を背中に聞いて、自分が第四小隊の機体に向かう通路に向かっていることに気が付いたシャムは照れたような笑みを浮かべながら疲れ果てたアンを見て苦笑いを浮かべていた。


 アンの機体は東和宇宙軍の制式色である灰色の一般的な機体の色だった。マーキングも特になく、実戦経験の無い彼らしいプレーンな機体に見えてシャムには好感が持てた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ