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いつもの雑談

「それにしても……今年もやっぱり被害は多いのか?猪の食害」 


 めんどくさそうにランがシャムを見つめる。シャムはしばらく考えた後口を開いた。


「今年は特にサツマイモがやられちゃったみたい。特に夏から秋は禁猟期だからその時期を狙って降りて来るんだよね」


「そーなのか?まあいいや。先週の起動実験のレポートまとめてくれりゃー帰って良いぞ」 


 だんだん投げやりになるランにシャムは頬を膨らませた。


「それってアタシが邪魔ってこと?」 


「邪魔だな」 


「邪魔としか……」 


 ランとそれまで黙って様子をうかがっていたロナルドが答える。その態度がシャムの怒りに火をつけた。


「じゃあかえでちゃん。アタシは行かないから」 


「え?僕と渡辺だけで行けと言うんですか?」 


 驚いたようにかえでが叫ぶ。隣の渡辺も困ったようにシャムを見つめている。


「いいじゃねえか。付き合ってやれよ」 


「そんなに言うならかなめちゃんが行けば良いじゃないの!」 


 シャムはそう言うとかなめをにらみつける。めったに文句を言わないシャムが怒っているのを見て吉田がいつでも止めに入れるように椅子に手をかけた。


 ふと気がついたように天井を見つめたランがつぶやき始めた。


「じゃあ先月の出張旅費の清算書。間違いが有ったよな」 


「中佐、それは俺が直しといたはずですけど……」 


「吉田に聞いてるわけじゃねーよ。再提出できるよな?」 


 ランの言葉にシャムは一気に目を輝かせて自分の端末を開いた。


「それじゃあ僕達は出かけます」 


「おー。がんばって来いよ」 


「お土産待ってるね」 


 かえで達が出かけるのをランとシャムが見送る。かなめは時々自分に熱い視線を投げてくるかえでを無視してそのまま黙り込んでいた。


「じゃあ……早速頼むぞ」 


 そう言うとランは自分には大きすぎる椅子からちょこんと飛び降りる。


「ランちゃんどこ行くの?」 


「会議だよ……ったくこう言う事はまじめにやるんだな隊長は……」 


 頭を掻きながら113cmの小さな体で伸びをしながら部屋を出て行くランを部隊員はそれぞれ見守っていた。


「会議?」 


「あれじゃねえか?来月の豊川八幡宮の時代行列の警備とか」 


 不思議そうなロナルドにすっかりオフモードのかなめが答えた。だがそれでも理解できないと言うようにロナルドは首をひねる。


「うちね、去年部隊が創設されたときに隊長が自分の家の鎧とか兜とかを着て見せて祭りを盛り上げる約束をしたの」 


「そう言う事だ。まあ実際嵯峨家の家宝の具足は今一つ叔父貴の趣味にあわねえとか言って全部叔父貴のポケットマネーで隊のほとんどの鎧兜は新調したんだがな」 


 かなめの言葉に瞬時にロナルドの目に輝きがともった。それを見てかなめはまずいことをしたと言うように目をそらした。


「それは……俺達も鎧兜を?」 


「うん!多分みんなの分も作ってくれるよ」 


 元気に答えるシャム。ロナルドも思いがけない思い出作りができるとすっかり乗り気でシャムに質問を続ける。


「侍の格好か……あれかな、キュードーとかも見れるのかな?」 


「キュードー?」 


 突然英語のような発音で言われてシャムは戸惑う。めんどくさそうにかなめは手元の紙に『弓道』と書いてシャムに手渡した。


「弓だね!それは名人がいるよ!」 


 シャムの言葉に気分を害したと言うようにかなめがうつむく。


「もしかして西園寺大尉が?」 


「違うよ、隊長。隊長の家の芸が流鏑馬やぶさめなんだって」 


「やぶさめ?」 


 不思議そうでそれでいて興味津々のロナルドに嫌々ながらかなめが口を開いた。


「馬を疾走させながら的を射抜くんだ。結構慣れとか必要らしいぞ」


「隊長が……あの人はまるでスーパーマンだな」 


 ロナルドは感心したように何度と無くうなづいた。それを見ている部下のジョージ岡部大尉とフェデロ・マルケス中尉はすでに知っていると言うような顔でロナルドを見つめていた。


「でもなあ……叔父貴がスーパーマンだとスーパーマンがかわいそうだな」 


「確かにね。あんなに汚い部屋に住んでるんだもんね」 


 シャムの言葉にロナルドはうなづいた。


 隊長室。そこは一つのカオスだった。その隊長の執務机には趣味の小火器のカスタムのために万力が常に銃の部品をはさんでいた。さらに微調整の際にやすりで擦って出た金属粉が部屋中に散らかっている。かと思えば能書で知られることもあって知り合いから頼まれた看板や表札のためにしたためられた紙があちこちに散らばる。そして常に書面での提出を求められている同盟司法局への報告書の山がさらに混乱に拍車をかける。


「まあ芸が多いのと部屋を片付けられるのは別の才能だからな」 


 ロナルドは納得したように席に戻った。


「それにしても……誠ちゃん大丈夫かな」 


 話を変えてシャムはそのままにやけながらかなめを見つめた。


「何が言いてえんだ?」 


 明らかに殺気を込めた視線でかなめはシャムをにらみつける。


「だって東都の病院でしょ?警察とか軍とか誠ちゃんの秘密を知りたい人達の縄張りじゃないの。下手をしたら隊長みたいに生きたまま解剖されちゃうかも知れないよ」 


 シャムの豊かな想像力にかなめは大きなため息をついてシャムを見上げた。


「解剖か……」 


「俺がですか?」 


 突然の声に驚いて振り返るかなめ。そこにはつなぎを着た技術部整備班班長の島田正人准尉が立っていた。


「ちゃんとノックぐらいしろ!」 


「しました。気づいてないのは西園寺さんくらいですよ」 


「アタシも気が付かなかったよ!」 


「ナンバルゲニア中尉は……まあいいです」 


 そう言うと島田はディスクを一枚シャムの前に差し出した。


「何?これ」 


 シャムの言葉に大きく肩を落とす島田。そしてかなめに目をやる。かなめは自分が話しの相手で無いと分かるとそそくさと自分の席に戻って書類の作成を開始していた。


「先週の対消滅エンジンの位相空間転移実験の修正結果です」 


「エンジン?あの時はちゃんと回ったじゃん」 


 抗議するような調子のシャムに大きくため息をついた後、島田は頭を掻いてどう説明するか考え直しているように見えた。


「無駄無駄。どうせシャムにはわからねえよ」 


「かなめちゃん酷い!アタシだって……」 


「じゃあ対消滅エンジンの起動に必要な条件言ってみろよ」 


 かなめにそう言われると黙って何も言えないシャム。フォローしてやるかどうか考えている吉田は黙って動くことも無かった。


「まあぶっちゃけ理屈が分からなくてもきっちり成果はありましたと言うのが結論なんですがね」 


 島田はそう言うとそのまま立ち去ろうとする。シャムは首を捻りながら相変わらず対消滅エンジンの理論を思い出そうとしていた。


「ああ、解剖なら最適の人材がいたな」 


 何気ないかなめの一言にびくりと驚いたようによろける島田。それを見てさらにかなめはにんまりと笑って立ち上がりそのまま島田の肩を叩いた。


「やっぱり俺を解剖するんじゃないですか!」 


 島田が叫ぶが誰一人としてかなめの軽口を止めるものはいない。


「だって……」 


「なあ」 


 岡部もフェデロも島田が解剖されるのは当然と言うような顔で島田を見つめている。


「死なないんだろ?貴官は」 


 ロナルドの言葉が島田に止めを刺す。うつむいてうなづく島田。確かに彼は本当に不死身だった。


 不老不死の存在「エターナルチルドレン」。そういう存在も先住民族『リャオ』には存在した。島田はその血が現れた珍しい能力を保持していた。意識がはっきりしている間の彼の再生能力は異常だった。先日の同盟厚生局の暴走の際に出動した際も腹部に数十発の弾丸を受けて内臓を細切れにされても翌日には平気で歩き回っていたほどの再生能力。それはかつて嵯峨がアメリカ陸軍の研究施設で完全に臓器ごとに解剖されてから再生されたと言う事実に匹敵するインパクトを部隊の隊員達に与えた。


「確かにそうですけど……痛いんですよ、あれは結構」 


「痛いですむのか?それなら一度こいつを三枚に下して……」 


「俺はアジか何かですか!」 


 叫んだ島田に部屋中のにやけた視線が集まる。


「まあ安心しろよ。再生すると分かっていてもお前の頭に風穴を開けたら殺人未遂でアタシ等が刑務所行きだ。誰もそんなことはしねえだろう……多分」 


「西園寺さん!多分が余計ですよ!」 


 島田が叫ぶのを見ながらシャムは自分の端末のスロットに島田から受け取ったディスクを差し込む。


「じゃあアタシも勉強するから」 


「期待してませんがね。がんばってくださいよ」 


 シャムの言葉に吐き捨てるようにそう言うと島田は出て行った。


「アイツ……冗談くらい分かればいいのに」 


「島田にしか通用しない冗談だな。それにさっきの大尉の言葉どおり貴官が銃を島田に向けた時点で殺人未遂で懲戒免職だ」 


「それは大変だねえ。クワバラクワバラ」 


 ロナルドの言葉に首をすくめながら再びかなめは作っていた書類の作成の業務に立ち戻った。





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