5.ジェルの決意
ワタクシが売れ残りであることを自覚してから心配していたことは、やはり現実となりました。
ふわふわした毛に鼻がくすぐられるような感触で目を覚ますと、営業が終わったペットショップのショーケースの前で、店員さんが恐ろしい相談をしているのが聴こえてきたのです。
『あーあ。今日もこの子達、売れなかったね』
『チビはともかく、お兄ちゃんまで売れないのは困るよ。もうだいぶ大きくなってきちゃってるし』
『そうだよね。今でも見切り商品なのにこのまま売れなかったら、処分するしか……』
『可哀想だけど近いうちに処分しようか』
――近いうちに処分しようか。
死刑宣告とも言えるその言葉に、目の前が真っ暗になりました。
なんとなくそんな予感はしていましたが、予想以上に早くその宣告が下ったことに動揺が隠せません。
「このままだと、ワタクシやお兄ちゃんも……」
お兄ちゃんは何も知らずに幸せそうに眠っていました。ふわふわの灰色の毛が呼吸にあわせて小さく上下するのが見えます。
時々、玩具で遊んでいる夢でも見ているのか、口をむにゃむにゃ動かしているのがなんとも微笑ましい。
彼の愛らしい寝顔を見ながら、ワタクシは決意しました。
――処分なんて、そんなこと絶対にさせない。
とりあえずここから今すぐにでも脱出しないと。
ワタクシは魔術を行使しようと、灰色の毛むくじゃらの小さな手を前に差し出しました。
しかし――
「あれ? 魔術が使えない?」
夢の中だからなのか、子犬の姿だからなのか。理由はわかりませんが、どんな簡単な魔術であろうと一切使えませんでした。
「まさかそんな……」
ということは、魔術の助け無しで何とかしないといけないということですか?
「困りましたねぇ……」
――いや、ここで思考を停止させたら待っているのは処分です。何か良い手を考えないと。
その時、お客さん達がワタクシ達へスマホのカメラを向けていたことを、ふと思い出しました。
――あの人たちは皆、撮った写真や動画をネットへ投稿しているはず。
「やってみる価値はありますかね……ん、ふぁぁぁ。なんだか急に眠く――」
アイデアが出たことに安心したせいか眠気が襲ってきて、隣でクゥクゥ寝息を立てているお兄ちゃんに寄り添うようにして、気が付けばワタクシも眠ってしまったのです。