第三話:獣人族の遊び
「どうぞ、おかけください」
「はい」
流麗な口調とあいなり体格も大きいため、そこにいるだけで十分な迫力がある。来客が座った後に、ドミニクとレイヤは向かいのソファに座った。
「さて今日も魔法薬を卸していただいてありがとうございます」
「いえ、こちらこそ高値で売っていただいて」
「そんなご謙遜をAランクのマリノア様に調合して頂いた薬はこの商会の目玉商品ですので」
「それは良かった」
マリノアは自分の薬が問題なく売れていることに胸を撫で下ろした。今度はマリノアでなく、彼女の横に座るエルヴィスに目線を移した。
エルヴィスは元々の性格から人と話すことは好まない。今まで口を閉じていたが、ドミニクの鬱陶しい目線にようやく口を開く。
「…何だ?」
「何って分かっているだろ」
さっきまでの商売人モードとは打って変わり、口調もガラリと変わるがこれが彼の本来の話し方である。
ドミニクは腕を掲げて、力こぶを作りたくましい上腕二頭筋に暑苦しさを感じる。
「はあ…またか」
エルヴィスは面倒臭そうにため息をつき、無視していても拉致があかないと分かっている彼は億劫に立ち上がった。
ドミニクとレイヤとエルヴィス、マリノア、ティルはテントの外に移動した。
そこは石畳ではなく、馴染みのある土色をしており、地面の上には四方の線が描かれている。同じように手前の方は二人の獣人族が戦い合っていて、それを見ているギャラリーたちは興奮して歓声をあげている。
丁度よく奥の方が空いたので審判に申し込みエルヴィスとドミニクが対面する。
獣人族は人間族より闘争本能が高いため息抜きのために作られた遊びである。
遊びは遊びであっても、本気のぶつかり合いであるため、気を抜けば命取りになる。
エルヴィスとドミニクはお互いに立ち並ぶと服の上からでも分かるぐらいドミニクが際立ち、力強さを感じる。
一方、エルヴィスは貧弱ではないが、相対するドミニクを比べるとどうしても線が細く感じてしまう。二人の間に審判が立ち、手を掲げて振り下ろした瞬間が「遊び」の開始である。
「始め!」
開始の合図の直後、足を大地に踏みしめ猪突猛進にドミニクはエルヴィスに襲いかかる。
ドミニクの突進で風がビリビリと吹き荒れる。魔法を使っている訳ではないが獣人族は身体能力に生まれ持って優れている、魔法が付加されていなくても、十分威力がある。それも肉食の種族であればあるほどである。
ドミニクはライオンの獣人族を引いていて、まともに当たれば同じ獣人族であるエルヴィスもタダでは済まない。
けれど、エルヴィスはドミニクに臆しもせずそれを見越していた彼は後方へと下がるのが早く、先ほどまでエルヴィスのいた場所は大きな音と共に地面がえぐれた。
ドミニクは奇襲に失敗しながらも、焦りも苛立ちも見せなかった。
「ふはっ」
逆に避けられたことが楽しそうに笑みを浮かべた。
「やはり一撃では仕留められないか」
ドミニクの豪快な一撃に観客たちは集まり騒いだ。
「おい、今のすごくねえか」
「あんなの当たったらぺしゃんこだぜ」