第四十二話:ヴァーミリオンの失態
お待たせしました!
ヴァーミリオンの視点から入り、途中から学園長と二人の視点に入ります。
ティルとノアが洞窟から脱出をした後にその出来事はあった。ヴァーミリオンは学園長室にいつものような緩やかな歩みではなく、早い足取りで向かっていた。
『リオ・フィンナッシュは重大なミスを犯した! いくら見習いでもバッ色は避けられないだろう』
そう高を括りながらリオをどう辞職させる算段を考える。学園長室に入るとそこにはいつものように書類の作業をしている老人がいた。
「お忙しいところ、すみません 学園長」
学園長のルーカス・マルドォークはうなづいた。
「うむ、どうしたのじゃ ヴァーミリオン先生」
ヴァーミリオンは胸に手を当て、わざと大仰な振る舞いで演技をする。
「急ぎ、話を伝えなければいけない案件がありまして」
「ふむ」
「実は…見習いのリオ・フィンナッシュが重大なミスを犯しました」
「それはどういうミスじゃ」
「今日入学試験を受けた子がいたみたいなのですが、その子が受けるべき場所にフィンナッシュ見習いは間違ってしまったのです」
「ほう…それは由々しき事態じゃな」
「はい! 今回は無事に見つかりましたが、同じことを繰り返さないとは限りません!」
ヴァーミリオンは別に間違ったことは言っているわけではない。彼は本当のことを言ったままである。少年を危険な目に遭わせた人物をこのまま学校に置いておいていいのかと。
彼は即刻クビとなり、見習いの資格を剥奪するには正式な書類を作成されて最終的に判断する学園を統括する学園長の判子がいる。
『それさえ終われば後はこっちのものである』
ヴァーミリオンはまだかまだかと心待ちにしており、学園長が机の棚から紙を取り出した。フィンナッシュへの資格剥奪の書類をしたためているのだと思い、傍観していたーーが
「な…なにをしているんですか 学園長…?」
「うん?」
「最近折り紙にはまっていての」
「そうなんですか…ってそうじゃないです」
ヴァーミリオンは突拍子もない行動に思わず突っ込んだ。
「わ、私の話を聞いていましたか」
「ほほ、すまんすまん。 聞いておるぞ、ちゃんとな〜…リオ、フィンナッシュの資格に値するものかということじゃろ」
「確かにフィンナッシュは見習いとしても未熟で失敗も多い。 ランクも低く職業の基準を満たしていない」
肯定する言葉に気落ちしていた気持ちは浮上する。
「それでは…」
「しかし、人には悪いところがあればいいところもある」
やっと欲しい言葉をもらえると思っていた次の言葉を言われたのは
「悪いところばかり見ていたら、いつまでたっても気づかない、あいつの良いところは一生懸命なところかの、けど空回りしているのが玉に瑕だがな〜」
面白おかしそうに笑う学園長に痺れを切らしたヴァーミリオンは学園長に口調を強めて話しかける。
「今はそんなこと、話している場合じゃ…」
そんな彼を宥めるために学園長は手で制する。
「まあ、話を最後まで聞きなさい、ーーマクシミリアン・ヴァーミリオン」
「は、はい」
いきなりフルネームを言われたことに内心ドキリとした。
「君は貴族の生まれで、成績も優秀でランクも職員の基準を超えている、それは君の才能と努力の賜物だろうがーー」
褒められるとは思ってなかったヴァーミリオンは少し優越感に駆られたが、そのぬるま湯も数秒後に凍りつく。
「君は…私に黙っていることはないかね?」
「はい? 何を言って」
いきなり話の方向が変わったことに付いていけなかった。それはヴァーミリオンにとって予想外のことであった。
「私の悪い所など…」
「本当に無いのか?」
そう聞かれ瞳の奥まで見透かされているように感じたヴァーミリオンは何とか作り笑いをした。さっきまで温厚で人の良さそうな表情が嘘のようで思わず生唾を呑み込む。
「なんのことか…」
数秒、学園長はヴァーミリオンの目を合わせて視線を外した。
「ふむ…わかった、今日は大目に見るが次はないぞ」
「何を…」
「信頼する情報からある二人の会話を一部始終聞いていたものがいる」
その言葉に今まで微動だにしてなかった表情が崩れた。
「え…」
「フィンナッシュ、試験場所を聞き直したらしいな? その時に何故訂正しなかったのか?」
「……それは」
今まで滑らかに答えていたヴァーミリオンの眉間にシワを寄せられる。このわずかな会話で彼は窮地に立たされてしまった。
『もし嘘をついたことがバレたらたとえランクが成績が優秀でも関係ない』
学園長がクビだといえば学園を追い出されかねない。実家に帰れば家の恥さらしとして、勘当されるかも知れない。
「私は…」
困窮したヴァーミリオンは押しだまり、言葉が見つからない。
『嘘をついたと認めれば、自分が罪「虚偽」を犯したことを認めることになる』
「ヴァーミリオン…自分が何をしたのかよく考えなさい」
「……はい」
学園長に言われるままヴァーミリオンは退室した。ドアの外で自分が尋常じゃないほど冷や汗をかいていたことに気づいた。
〇〇
「ほぅ〜 お優しいことですな 学園長殿は」
学園長室には他にも部屋があるのだが、その一室から一人が出てきた。
「盗み聞きとはよくないですな」
「まあ、聞こえてしまったものはもうしょうがない」
肩を竦めた人物は手頃な椅子に座り、だらけた格好で話しかけた。年長者の前にあるまじき姿勢だが咎めるものは誰もいない。
「私なら、一発でクビにしていたがな」
「これは手厳しいのう」
「まあ、私も迷いが無ければクビにしていたが、彼には憂慮するところがあるからの」
「ふ〜ん、まあいいじゃないのか、学園長殿が決めるのなら」
他人事のように話すそぶりに彼は部屋の中に戻っていった。
「相変わらずじゃな、無関心なのか…それとも好奇心旺盛なのか」
様々なことを考慮した学園長はフィンナッシュの処分は学園内の謹慎として留めた。