第三十九話:それはかつてあった都の話・エピソード14
途中からティルの視点へ、【第一話の絶体絶命】へと繋がる感じでしょうか。正確には第二十五話からの続きです。
最初初めて投稿したときは第一話がプロローグでしたが、世界観どうなっているんだろうと気づき、プロローグが世界観を説明する感じになりました( ^∀^)
そのまま前のめりに倒れたノアは地面に倒れ伏した。
「はあ、はあーーっセイさん、どうして…?!」
荒い息を吐きながら、どうして自分を刺したのかを聞いた。
するとさっきまでの人の良さそうな表情が一変し、目元が釣り上がり凶悪に口元を歪めて笑った。
「あんたに恨みはねえが、依頼で頼まれただけよ」
今さっき人を傷つけたばかりなのに何の感傷もなく、というよりも面白がっている様子である。
「依頼? 一体誰がっ」
「教えるわけねえだろ、まあお前のことがよっぽど邪魔だったんだろ、そばにいる男がいないことは分かっていたから、逆に安く済んだな、はは」
嘲笑するセイはノアの致命傷を負った傷元を見て目を細めた。
「せいぜい後数時間余生を楽しみな」
そう言い残し、致命傷を受けたノアを一人山奥に残し去っていった。
(ああ……どうしよう頭が働かない、意識がぼんやりとしていく、血を流しすぎた)
応急処置を取ろうとしても、腕の思うように動かず、白いドレスが真っ赤に染まっていく様子にノアは心中で思う。
(こんなに汚れて、トールさんにせっかく買ってもらって見せようと思って……褒めてもらいたかったな)
ノアはそのまま意識を失った。
〇〇
カストールはノアの家にやってきたのは同時刻だった。一度王城に帰り、用件を済ませてきた彼は彼女の家のドアの扉をノックしても返事が返ってこない。いつもはすぐに返事が返ってくるのにと。
「出かけているのか?」
普段なら別におかしいことではないが、何か胸騒ぎがした。よく分からないがそれを振り払おうとカストールは魔法を行使して血の臭いを嗅ぎつけた瞬間に目の色が変わった。
そして彼女を見つけるのは早かった。
「これは…」
一瞬で彼女のもとに移動した。しかしどんなに早くてもすでに終わった状態だった。
ノアの変わり果てた姿にカストールは一瞬彼女かと疑った。
『これはノアじゃない。 ノアなわけが』
血の海に倒れた彼女のドレスは先日カストールが送ったものだということに気づく。
「……ノア」
壊れ物を抱くように彼女の体を抱きしめた。走馬灯のように彼女と過ごしてきた時間が頭の中に駆け巡る。
彼女の母シエラとの出会いからノアの誕生に立ち会い、そして彼女を見守ってきた日々をーー
(どうしてーー)
(誰がこんなことを)
(自分だけがノアを守れると思っていた)
その瞬間、自責と後悔の念に苛まれたカストールの魔力が暴発する。
「あ”ぁぁぁぁぁ」
彼の慟哭が周辺に風がなびかせながら大地を揺らし、地響きとともに世界が揺れる。天変地異とはまさにこのこと。
カストールはまだ体温があるノアの体を守ろうと自分の全魔力を彼女に注いだ。
そして自分の体を保てなくなったカストールは徐々に変化していった。自分がどうなったのか分からない。けれど彼女の小さな鼓動を聴きながら意識を失った。
〇〇
ーーそうだ、俺は
(何を言っているんだ俺って)
自分が何を言っているんだろうと思うよりも、周りの状況に目を見開く。
「ーーというかここは」
意識が段々と覚醒し、自分が薄青色に光る水面に浮かんでいることに気づいた。
「僕…どうしてこんなところに」
ティルは意識がうとうとしながら頭上を見上げると天井知らずな空間があった。頭に手をかざし記憶を辿る。
「何でーー」
自分が落ちる前のこと、どうして落ちることになったのかを思い出すと獰猛な大型生物の姿が浮かんだ。
「そうだ、あのドラゴン!!」
大声を出すと声が空洞内に反響する。
『僕はドラゴンから逃げ出そうとして、横穴に隠れようとした』
そこはただの大きな空洞で、それも底がないーー
「はあ〜」
落ちた理由を思い出したティルは何とか命を繋いだものの今後のことを憂慮しため息がついた。ただの簡単な試験のはずが、ここまで過酷だと思わなかったからである。
「それにしても、僕が気を失ってから何時間経っていたんだろう、何だかとても長い夢を見ていたような……」
『双子の王子、王城に王都』
「ーー考えていても仕方ない」
ちょっとずつ、体が動くことを確認しながら自分の腕を掻きながら岸までたどり着いた。
「骨が折れてなくてよかった〜」
地面の上にそのままの衝撃で全身の骨が砕けていたかと思うとゾッとした。そしてそ壁を伝い歩いていくとそこは大きな空間があった。
ガラスのような透明感のある結晶体に見るものを見惚れさせる美しさがあった。ティルはしばし見惚れている歩いていると一際大きい結晶体を発見した。
まじまじと見るとティルは違和感を感じた。それは模様なものがあったからである。
ティルは何だろうと凝視して、最初に好奇心で見ていたがすぐに異変に気づいた。
「模様じゃない。 これは人の形だ…」
人の形だということに目を伏せたくなかったが、どうしてこんなところにいるのか気になった。
ティルはさっきよりも近くにより、それを間近に見た。そしてそれが人の形であることは確かで、中にいたのはーー
「どうして、こんなところに女の子が閉じ込められているんだ」
茫然と自分の頬を掴み、あまりの目の前の現実にいまだに夢の中にいるのではないかと思ったが、
「…痛い」
ヒクヒクとする痛みがほおに残った。そしてふと女の子の顔を見ると既知感を感じた。
「あれ…? 誰かに似ているような」
ティルが思い巡らしたその時だった。
ドシン
強い衝撃が脳天に響き空間全体を揺らした。よろけたティルは地面にはいつくばり衝撃が収まるまで待った。




