第二話:3人の家族
人里離れた山奥には3人の家族が住んでいる家があった。住んでいるのはまだ結婚して間もない新婚の二人と一人の男の子である。
夫の名はエルヴィス・レイヴァント。妻の名はマリノアで、子供の名はティルという名前だ。
彼らが住んでいる家は木で作られたログハウスで、中は広々としていて、寒い時はあったかく、暑い時は涼しく快適である。
獣人族の血を引いているエルヴィスは都会的な暮らしより、自然と隣り合わせで暮らした方が楽で、町から離れたログハウスで暮らすのが夢だったマリノアの二人だったが日用品など便利な物は買っておいて損は無い。
けれど日用品は山奥に無く、町まで降りないと行けない。
彼女はヒーラー、ヒーラーとは人の傷を魔法で治したりする者のことを言う。
家では自給自足の生活をほとんどしているため、収入を何で賄っているのかと言うと、マリノア特製の魔法薬を売っていた。
そして今日も、月に数回町まで降りてきて舗装されていない道を馬車で揺られながら小高い丘を抜けると、町が見えてきた。
馬を操っているのはエルヴィスは太陽の光に当たれば銀色に光る髪に少し前髪が長い隙間から琥珀色の瞳が見える。
その後ろの荷台に座っているのは黒髪三つ編みをしていて緑色の瞳をしている女性である。名はマリノアである。
そして、いかにも人畜無害そうな少年は黄土色の髪を一つに結び、眼鏡をかけている彼こそがこの物語の主人公ティルである。
山奥の家から町まで三十分くらいの距離で、ひらけた土地にバースという町があり、その背景には猛々しい山々が連なっており、山の麓には広大な森林が密集している。
ティルは馬車から見慣れた光景を眺めながら、色とりどりの屋根と石造りでできた建築物がはっきりと見えてきた。
町に入る前に検問があり、知性がない魔獣などに無防備に襲われないように堅固な外壁に囲まれている。
マリノアは手をあげて、馴染みのある門兵に挨拶をする。門兵の彼も気づいたのか、彼女と同じように手を振り返した。
「おはよう トムさん」
「お〜 マリノアじゃないか」
明るい声で返したトムの頭の上には可愛らしい犬の耳がついている。
「坊主も来たか」
トムはティルに気づき、わしゃわしゃと子供の頭を撫でた。この町は獣人族と人間族が共存している町の一つで、気兼ねなく買い物ができる。
門をくぐり抜けると、行く道中で土や砂利道だった道とは違い、芸術的な石畳で敷き詰められており、石作りでできたお店や家が立ち並んでいた。
門の近くには至る所に屋台ができており、食べ物をその場で焼いて食べる人もいれば、自分の作った魔法具や売ったりする人もいる。
街の中に一際大きい屋敷があり、その門前に馬車が立ち止まる。目的に場所にたどり着いたのだ。
門の前に立っている警備兵にマリノアは話しかけ、警備兵の一人が中の人に確認をとり中に入った。
「いらっしゃいませ、マリノア様」
屋敷の使用人に案内され玄関に入るとウェーブかかった赤髪でメガネをかけた女性がいた。
「お待ちしておりました」
彼女、レイヤはこのテント「フリーズ商会」の主の夫人である。
「こんにちは、レイヤさん。 今日もお世話になります」
屋敷の主人がいる書斎に行くと、奥には一人の金髪の男性が座っていて書類の作業をしている。
このフリーズ商会の会長のドミニクは筋骨隆々とした体つきは商いよりも軍隊などの戦線に立った方が様になっている。手元にあるペンがより小さく見えてしまう。
そして頭の上にピコピコと動く耳と尻尾、いかつい顔がなんともシュールである。
「あなた、マリノア様たちがいらっしゃいました」
「お〜、来たか」
妻の呼び声にドミニクは書類作業を止めて立ち上がり、マリノア、エルヴィス、ティルにソファに座るように勧めた。