第十八話:強がりな嘘・迷子をつけ狙う二人組
サブタイトルに「強がりな嘘」を加えました。
カルアとミルカに別れの挨拶をしたティルたちはギルドを後にする。今日泊まる宿まで案内されている間にリオはティルに唐突に質問をする。
「ティル君に夢はありますか?」
「夢…将来なりたいものですか? いえ、漠然となりたいものはまだ決まっていないんです。お母さんのような人の怪我を治す治癒系のヒーラーもいいですし、お父さんのハンターのような職業も憧れますけど、でも僕は魔力が……弱いので専門業は難しそうですね
。なので魔力が弱くてもできる事務作業とかだったら…リオ先生は夢は先生じゃないんですか?」
ここでティルは自分が魔力が無いことを伝えなかった。あえて魔力を持っていることをリオに伝えた。
この世界で魔力があるのはごく当たり前のことであった。それは身体強化に特化する獣人族も例外ではない。
カリーナ達と過ごしているうちに魔力を持っていないことにティルは少なからずコンプレックスを抱いていた。自分に魔力があれば友達の手助けを出来たんじゃないかと、
そして、リオに思わず嘘を言ってしまった。
あるいは伝えていたら簡単な筆記試験だけで済んだのだが、リオが知っているのはティルがマリノアとエルヴィスに拾われて育てられたことだ。魔力が無いと知る由もないし、魔力が無いということを伝えてもいいかと逡巡し、結果魔力を持ってないのでは無く「弱い」という言葉を選んだのでリオも気にしなかった。
ティルの強がりが後の波乱を巻き起こすとは知らずに…
「元々この学園の生徒で先生になったのは学校にはいろんな本や人たちがいるからなったんですけど……僕の小父が成し遂げられなかったことを叶えたくて」
「成し遂げられなかったこと?」
「「九つの世界」の冒険です」
「九つの世界?」
「この世界はその内の一つの世界だと学園に来る前に少し話しましたよね」
「確かにそうでしたね」
ティルは前にリオが話していたことを思い出した。
「その他に八つの世界があって、育ての小父はその内の七つの世界を冒険したと記録したんです。けれどその記録がどこにあるのか分からないまま、小父は他界してしまったんです」
「それを求める多くの人がいたんですが、ヒントも何もないので分からずじまいで終わりました」
「それじゃ、まだ夢の途中なんですね」
「はい」
力なく項垂れる姿に積み上げらた時間の重みをティルは感じる。ここで「叶うといいですね」と言う相槌を打つ手もあるが、それはなんだか他人事のようで無神経に思ってしまったティルは多くを語らなかった。
リオと一緒に宿に着いて一旦そこで別れ、ティルは宿に泊まった。
こじんまりとしているが、学校公認の宿屋みたいでベットもふかふかであり、一通りのテーブルや椅子が揃えられている。中にはシャワーまで付いていて至れりつくせりである。
ティルはとりあえず埃まみれのままベットにダイブすると言う豪快なこともせず、たんたんとシャワーを浴びることにした。清々しくさっぱりとしたティルは浴室から出て、髪の毛をタオルでガシガシと乾かす。髪の毛を普段は結んでいるがおろせば肩より少し長めになる。眼鏡も今はかけていない。
当初マリノアに拾ってもらった時にあまり視力が良くなかったらしく、眼鏡を渡された。今は日常生活に事欠かなくなったが、眼鏡が無いと逆に居心地悪く落ち着かないのである。
『夢…か』
ぽふりと弾力のあるかけ布団の上に身を置いた。先生に夢を聞かれた時にティルは別のことを思い出していた。夢とは二通りある。
人が将来実現させる願いと、人が眠っている時に見る映像がある。彼には育ててくれた両親にも話していない秘密がある。それは不思議な夢を見ることである。あまり心配させたくない気持ちもある。
けれど不可解なのは見たこともない風景と、そして何度も出てくる女の子がいる。ティルには記憶がないのだが一言だけ気になるセリフがある。
『また、きっと会えるから、だから……』
その後にいつも目覚めてしまう。あの女の子はなんて名前なんだろうと夢現つになりながら、ティルは夕食を食べることも忘れて布団に入りそのまま深い眠りに入った。
夢の中で誰かが呼んでいるような気がした。
〇〇
ティルは翌日目を覚ますと時間は8時ぐらいだった。宿では身分証を渡せば無料で食べることができる。朝食をとり、部屋に戻って考えた。
『リオ先生が来るのは午後からだしな〜』
それまで自由な時間が空いているティルは少しだけ町の探検をすることにした。宿にあった地図をもらい、宿からあまり離れないように心がけティルは宿を出た。
土地勘もないため行く先々に真新しいものばかりで首をキョロキョロと動かす様子に田舎者と思われてもおかしくない。
最初に学園都市にある街並みを見ていても、ただ人々の多さに圧倒されてしまう。
「ここがお母さんとお父さんの母校なんだ。セシルとメアリと一緒に歩きたかったな」
ティルはホームシックになっていると、大勢足行く歩いている中で、一人の獣人族の女の子が視界の隅に入った。露頭に迷う感じで足元がおぼつかずにふらついている。
ティル以上に目線が忙しなく動いていることが見受けられる。彼よりも外見が幼い分心もとのない感じに迷子かな?考えた。その姿が妹のメアリと重なって、いつの間にか動いていた。
『それにーー』
〇〇
「お母さん……どこ……」
か細い声ではぐれてしまった女の子は母親を呼ぶが、返事は一向に帰ってこない。歩き疲れて壁際により座り込む。もう母親には会えないかと恐怖と不安から大きい瞳から涙がこぼれそうな時だった。
「大丈夫?」
女の子は俯いていたから分からなかったが、視線を上げると足元が見えた。そしてここでようやく自分が声をかけられていることに女の子は気づいた。
「……え」
そこにはローブを羽織りメガネをかけた少年が立っていた。少し驚いて女の子は少年を凝視する。ティルは女の子と同じくらいの目線になるようにしゃがんだ。なるべく優しい声で話しかける。
「もしかして、迷子?」
首を傾げて聞くと、女の子はこくりと頷いた。
「誰とはぐれたの?」
「……お母さん」
「お母さんと来たんだね」
「うん」
「それじゃあ僕も一緒に探すから、少し歩かない?」
「お兄ちゃんと一緒に?」
「うん……ダメかな?」
「ううん、ダメじゃないよ!」
女の子は首を振り、さっきまで足の疲れが無かったかのようにティルに元気よく返事をした。
「君の名前はなんていうの? あ、僕はティルって言います」
「アメリアっていう名前なの」
「アメリアちゃんか、お母さんの名前分かる?」
「お母さんはリリー」
「そうなんだ、それじゃあリリーさんって呼んだ方がいいかな」
最初の違和感は歩いて数分がたち確信に変わった。誰かに尾けられていることをティルは気づいた。楽しそうに話す自分たちをじっと遠くから見ていた男二人組がいた。
『嫌な視線を感じる……』
ティルは魔獣を狩る父のハンターの仕事の手ほどきを間近で見たり、または体術など鍛えられている。細身であるが筋肉はありたとえ魔法は使えなくても、できることはある。
魔獣などでもなくても、殺気などが込められている視線に過敏になり察知することができるようになった。
『僕か……いやそれはない』
ティルは一人の時には尾行されていなかった。
『そうなると残されているのは一人しかいない』
わずかに視線を下にずらし、アメリアに視線を向けた。
『尾けているのは多分この子だろ、でもどうしてだ……この子の知り合いなら声をかけてきてもいいはずだ』
『そういえば、父さんがハンターの仕事でも魔獣を守るケースがあるって言っていたな』
ティルはこの時ようやく気づいた。
『奴らの狙いは人さらいかもしくは人質にして身代金ってところか』
隣にいるアメリアにティルは話しかける。
「アメリアちゃん……今日はお母さんとだけ来たの」
「うん! そうだよ お父さんはお仕事」
「そっか」
『まずいな……いつまでも歩き続けるわけにはいかないな』
〇〇
ティルはあるお店の中に入り、少ししてから店の外に出た。さっきと違うのは少女を後ろにおんぶしているぐらいである。その様子をじっと見ていた男が近くにいるもう一人の男に慌てるが気づかれないように声量を抑えて声をかける。
「兄貴っ店から出てきましたぜ」
「お前は声が大きいんだよ!」
自分よりも明らかに兄貴のと言われた男の方が声量がある。それを示唆しようとするが、
「兄貴の方が……」
「ああん?」
「い、いえ 何でもありません」
兄貴の睨みに男はすぐに弱気になる。
「ったく、行くぞ」
「へい」
ティルとアメリアはどんどんと進んでいき人気の少ない裏道に入っていった。
悪人の二人はホームアローンの1、2に出てくる二人組の強盗をイメージしました( ^∀^)マブとハリーだったような…




