第二十二話:鋼鉄の乙女はいまだ恋を知らない
キャロラインは眠りから目を覚ました。昨日の晩餐会は皆楽しく笑い合い、盛況に終わった。その中でキャロラインはあることを決意していた。使用人が入って来て、カーテンの窓を開けた。
「おはようございます、姫さま 今日はいい天気ですね」
「……ええ、そうね」
キャロラインはベットから起き上がり、背伸びをして窓から太陽の光を浴びた。
「今日の衣装、どうされますか?」
「そうね、花柄にしてくれる」
「かしこまりました」
この花柄のワンピースドレスはキャロイラインが一番気に入っているドレスである。
「ありがとう」
お礼を言うのはいつものことなのだが、なぜかキャロラインの様子がおかしいことに長年お世話をしているメイドは気づいたがあえて言わず、いつもの調子で話しかける。
「今日は一段と輝いていますね」
「ふふ、そう?」
〇〇
ティルたちは朝ごはんを食べ、準備が終わり、いよいよと学園都市に帰ることになった。
宮殿の前で各々と別れの挨拶を惜しんだ。カーティスは数日後、故郷のアルフヘイムに帰ることになった。
「ふん、これで終わりだと思うなよ! お前に挑戦状を送るからな」
「ああ、いいぜ」
喧嘩口調だがなんだかんだと仲良くなってよかったとティルは思った。キャロラインがリントに別れの挨拶をするかと思いきや、驚きの言葉を放つ。
「私、リントさまのことが好きです」
「……え」
まさか告白する場面に立ち会うとは思わなっかたので皆呆然とする。
当の本人のリントはもちろん驚いたが、キャロラインの真剣な表情に改める。父のフェリクスは愛娘が目の前で告白して、動揺を隠し切れない。
「……何を言って……!?」
隣にいたエリザベスは制止させる。
『あなたは黙っていて』
クリスティーナは姉の告白に頬を赤らめる。リントの返事はーー
「ごめん、俺は恋人になれない」
キャロラインは一瞬高ぶる気持ちと涙が溢れたそうだったが、ぐっと堪えた。返事がなんとなく分かっていたので、ショックは幾分が少なかった。
「そうですか、わかりました! と言うよりも返事どうなるか分かっていましたけどね」
落ち込むだろうと思っていたキャロラインの様子が明るいので、リントはキョトンとしていた。
「……そうなのか?」
「ええ」
キャロラインの告白を断ったリントにそばで聞いていたフェリクスはわなわなと口元を慄かせる。
「リントくん……、私の娘の何が問題があるのかな」
笑顔であるが迫力のあるフェリクスの眼光にリントはあとずさる。
「もう、やめなさい みっともないわね」
フェリクスはエリザベスに叱られるとずんと落ち込んだ。するとフェリクスの落ち込む姿にクリスティーナは優しく頭を撫でた。
「大丈夫ですか お父様」
「うん……クリスだけだよ 私の味方は」
「ふふ、私はリントさまと言うより、ティルさまの方が…」
クリスの思わぬ言葉に先ほどよりも驚愕し言葉を失う。まさか末娘の彼女にとどめをされるとは思ってなかった。
「……え ティルくん……?」
フェリクスに茫然と見られたティルはびくりと肩を揺らした。思わぬ飛び火に冷や汗が出てきそうである。その時、クリティーナの視線を阻む様に立ったのはノアだった。
「やっぱりね、やたらと昨日ティルのそばにいると思ったら」
「ノア、そうだったの?」
「そうだったのよ もう……」
ノアが呆れて怒っている様子にティルはどうしたのかと焦る。
「ふふ、青春していますね」
ティルが焦っている様子にセスは笑った。
「セス、どこに行ってたの?」
「ちょっと用件を終わらせに、もう済みましたので ノアさんが怒っているの分かりませんか」
「それは分かっているけど」
理由がわからないティルはふとため息をつく、仕方ないと耳打ちする。
『焼き餅ですよ』
『え、焼き餅 ノアが?』
『ええ』
ティルはそのことをしり、ノアが成長していることを実感する。
クリスティーナがティルが好きだったと言うことにも驚いたが、まさか自分の目の前で妹のキャロラインが告白すると思ってなかったエレナは茫然自失していた。
『本当に好きだったんだな……』
事件が起こる前の夜にリントが好きだとキャロラインが話した時ににわかに信じがたかったが、目の前で起きた出来事を信じるしかない。
『私の妹の告白もよくも断って……』
そこは父の気持ちと同じだったが、その後の気持ちは、
『しかしあんな軟派な男に妹を任せられるわけ……』
その瞬間、昨日のことを思い出した。
【俺は助けたいと思ったから助けた それだけだ】
私は最初から剣術が好きだった訳ではない。
けれど長女ということで次期継承権は自分となり、いずれは国を統治していかなければならないだろう。
私には選択肢がなかったが妹たちを危険な目に遭わせたくない。剣術を選んだのは母の教育もあったからだ。そして母と父の背中を見てきて、自分で何かできないかと思い剣術を極める道を選んだ。
剣は人を傷つけるもの、加減を間違えれば自分も傷つく。生傷が絶えない日々もあった。
着飾ったドレスやティーカップから、身軽で動きやすい服装と剣になったのはいつからだろうか。
私は助けられる方ではない。助ける方の側だった。
こんなにも胸がドキドキするとは思わず、その後リントの顔をまともに見れなかった。彼女が普通の人であればこの気持ちの正体を気づいたかもしれないが、エレナは恋という感情を知らなかった。そして解釈した結果、
『私もまだまだ未熟ということだな、もっと鍛錬に励もう!』
そう行き着いたのだった。そう思い込もうするエレナを見て、観察眼のある母のエリザベスは思案する。
『ちょっと教育に熱を入れすぎたかしら……少しこの子の時間も必要ね』
「エレイナ、もう少し学生生活をしてみる?」
「………え」
いきなりの質問にエレナは戸惑う。それを聞いていたノアも驚く。
「え、エレナ 学園に戻れるってこと!?」
ノアのキラキラする表情にエレナは考えるのをやめた。母に本当の気持ちを伝えた。
「……はい、まだ友人たちと一緒に過ごしたいです」
「ふふ、楽しんできなさい 私もまだ若いからね 国のことは大丈夫よ」
「……お母様」
感動したエレナは涙ぐみ、エリザベスに抱きしめられた。エレナは後日、学園に戻ることになり、宮殿の前で一旦別れることになった。
帰りの途中でティルたちは話しあった。帰る前に門近くでミルカたちのお土産を買ったりした。
「なんだかいろんなことがありましたね」
「うん そうだね」
門の順番を呼ばれて、そして通っていく。この瞬間とても寂しくなる気がするのは、それだけラナティス王国が好きになったからである、そしてまた行きたいと思った。ノアはティルの手を握りしめた。
「もう一度来ようね」
「うん」
ノアの笑顔にティルは笑い応えた。
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別作品に『今昔あやかし転生奇譚』という作品があります。妖怪ものが好きな方におすすめです٩( 'ω' )و




