第三十四話:魔の海域=バミューダトライアングル
案内した船員は立ち去っていった。扉の中は他の部屋よりも豪華な造りで別格だということが窺える。
そしてこの部屋の主人はレーネスとノアを椅子に座りながら待ち構えていた。
「改めて自己紹介をしよう、私の中はバーソロミュー・ロバート この黒ひげの船長である。 君たちの名前を聞きたい」
名前を教えたくないが、仕方なく名前を告げた。
「…私はノア」
それに倣いレーネスはか細い声で呟いた。
「レーネスです」
バーソロミューは鷹揚にうなづいた。
「ノアとレーネスか、二人ともいきなり部屋に閉じ込めてすまなかったね 船酔いとか大丈夫だったかいお嬢さん方」
いかにも心配そうだが、白々しいセリフにノアは眉間にシワを寄せた。
「船酔いを心配してくれる気遣いがあるなら私たちを元に戻してくれないかしら」
ノアの強気な口調にバーソロミューは面白そうに口元を歪めた。
「それはできない、お嬢さん 君たちは人質だということを忘れないように」
「あの、エドワードくんは無事なんですか?」
急なレーネスの問いに船長は答えた。
「ああ、今は独房で静かにしているよ」
「生きているんですね?」
不安そうな彼女にバーソロミューは意地悪く答える。
「ああ、それも君たちが大人しく私のいうことを聞けばの話だ」
要するに何もするなと脅迫しているのだと言外に告げていた。
「言うことって……?」
「その前に私の過去話を聞いてもらっていいかい?」
そしてバーソロミューは自分の過去を語り出した。幼い頃いた町は貧しく両親は貧乏だった。その間に生まれたのが彼だった。
生きるために盗みを働いていくうちに、盗賊として有名になっていった。そして海賊の話を耳にし、興味を持ったバーソロミューは有望株だったので海に連れて行く仲間はすぐに見つかり海賊になった。
貿易船などから金目のものを盗んでいた時だった。彼女が忽然と現れた。
「彼女?」
「そう彼女の名はアルビダ、世にも美しい女海賊の登場だった」
バーソロミューは蕩然と話している間に、アルビダはものの数分で盗み去っていった。
「私はその女を自分のものにしようとした。彼女のことを調べ、追いかけ、幾度も対戦したーーしかし」
力説していたバーソロミューは突如力をなくし、呟いた。
「一度も敵うことはなかった ならばどうすればいいか………そう力だ」
握り拳を作るバーソロミューはノアとレーネスに狂気さを感じ、思わず生唾を飲み込んだ。
「彼女に勝てば、彼女は私のものになる そのために私はあることを思いついた バミューダトライアングルを聞いたこはあるかね?」
「!!」
レーネスはその言葉を聞いて目を見開く。ノアは知らないのでもう一度聞き直す。
「バミュー……なんて?」
「おや、君は知らないようだが、隣の子は知っているみたいだね」
「え?」
ノアは隣を見るとわかりやすいくらいレーネスは震えていた。
「っ……そこは…私たち、旅人にも恐れるほどの場所です なぜならそこは怪物たちの住む魔の海域と恐れられているからです」
震えるレーネスの手をノアは握りしめた。
「そんなところに一体何を」
「そこには獰猛な怪物たちがいる それを大人しくさせるためにセイレーンの歌声は効果があるとね そのために君をさらったんだ」
「……私が言うことを聞けば、ノアさんやエドワードくんに手を出さないでくれますか?」
「ああ、いいだろう 私は人殺しはするが、一度交わした海賊の約束は絶対だ 破れば死を意味する 約束しよう」
本当なのかどうか分からないがそれに賭けるしかな選択はなかった。思い詰めるレーネスに言葉が詰まる。
「……レーネス」
「私が今度はレーネスさんを守ります」
どこか決意を秘めた瞳にノアは何もできない無力さに、言い返すことができなかった。外見では見栄を張っているが、心の中ではティルを強く思った。
(何もできないのか……このままじゃっーーティル、早く助けにきて)




