AE クリニック
私が新しい自分に会えたと感じた時にこのストーリーが浮かびました。
朝早く、酷い頭痛で目が覚めた。そしてその後結局一睡も出来ずにいたが、取りあえずいつも通りの6時半には布団から起きだした。しかし、とにかく身体全体が重かった。考えてみたら、取りあえず急ぎの仕事は無いので、今日は仕事を休んで病院に行くことにした。
気分はかなり悪いものの、多分只の風邪だろう。近所の内科が頭に浮かんだが、、
『 折角の機会だし、ひとつ行ってみるか!』
そこは、先月に開院した~【 A E クリニック 】 である。最先端医療を大々的にうたい、しかも私の様な風邪や軽い怪我などの患者も積極的に受け入れるという。それでいて治療費はかなりリーズナブルだと言うのだから、まさに夢の病院と言っても過言では無いだろう。
それでそこの開院後はずっと気になっていたのだが、、、まぁそうは言っても病院は遊びには行けない。だから、ある意味今日の体調不良はチャンスに違いない。
家から20分弱でそこに着く。入口はまるでホテルの様な外観でかなり豪華である。建物の横にはかなり広い駐車場も完備している。
当然の様にひっきりなしに沢山の人が出入りしている。
自動ドアを抜け、受付ブースに向かう。カウンター内にいるスタッフに挨拶すると、IDカードをパッドにタッチするよう指示された。
「はい、受付致しました。それではŞの部屋へお進みください。」
次は問診である。歩きながら周りを見回すと、想像を遥かに超える沢山の人たちが動き回っている。ちょっとみただけでは、誰がスタッフで誰が患者なのか区別はつかない。
「そうか、ここは白衣を着用しない病院なんだ、、へぇ~それも最新式? 」
つい小さく独り言を言ってしまう。
入口の豪華さは院内も同様で、内装は勿論、カウンターテーブル、椅子、全ての備品に置いても高級感溢れるデザインで統一されている。
普通病院というと、殆ど白一色に包まれ、清潔感はあるものの何となく無機質なイメージがある。
そこにいくと此処は全くの別世界だ。
問診ルームは幾つかあるようだ。
私は一番手前のAルームへ向かう。 ドアノブ横にタッチパネルがあり、そこにIDカードをかざすとドアが自動で開く。何気なく見ると私のID記載上段にA-33の文字がある。今まで意識して見た事は無かった。大体IDカードを持参していても、記載内容を記憶している人はほぼいないであろう。勿論私もその中の一人である。
診察料を先払いし、中へ入っていくと、、、
そこではかなりの数の~問診医が患者たちとやり取りしているのが見えた。見女麗しい美女ばかりなのでついにやついてしまう。
医者も美女ばかり、、なんか凄すぎて現実とは思えない。
空きを表すランプの点灯したコンパートメントへ移動する。
美女とは言そこは医師は医師。余計な話はせず、事務的に質問をしていく。
「 熱は何度有りますか?」
「咳はいつから始まりましたか?」
「喉の痛みは5段階にするとどれに相当しますか?」 などなど。
5分位で問診は終了し、奥にある本診察室へ移動する。
確かに先に症状を伝えておくので、診察全体はスムーズにいくのかもしれない。合理的と言えば合理的である。でも分担する事で、本診断が変わってしまう事はないのだろうか?ふと疑問と共に小さな不安が湧いてきた。
とは言え、まぁ、、今日は多分風邪だし、それ程問題は無いだろう、と思い直し本診察室へ入っていく。
「 そちらの椅子に掛けてください。 私は今日あなたの初期部を担当するsakaiと申します。」
は?初期部ってなんだ??と思いつつも「宜しくお願いします。」と挨拶しながら椅子に座る。
「 メンテナンスは初めてですね?」
「 はぁ? メンテナンスって、、こちらでは風邪の治療をメンテナンスと呼ぶんですか?機械じゃあるまいし、、。」
私は驚くというより呆れて聞き返した。すると、軽く笑いながら
「 此処は特別な総合クリニックですので、医学用語も一般的なものとは異なります。以後ご了承ください。」
納得は出来ないものの、腹を立てても仕方がないので従う事にした。
「わかりました。それでは私の体調不良をメンテナンスしてください。」
ちょっと不貞腐れて答えると、 今度は苦笑しながら話し出した。
「良いですか?あなたは最初のメンテナンスは既に受けている筈なんですが、、どうもそのデーター及び自覚がインプットされていないようだ。」
余計に頭が混乱する様なコメントにもう頭がついていかなくなった。
「あなたはこのクリニックに来た本来の目的を分かっていらっしゃいますか?」
「だから、朝から頭痛がして、風邪を引いたと思って此処に来たんですけど、、。 それが何か?」
「改めて聞き直しますが、、 あなたは問診のドクターをどう思いましたか?」
「どうって、、綺麗で、、あ、いや、親切で丁寧な先生でした。」
「それだけですか?」
「それだけって、、、別に知り合いでもないし、、。」
「やはりまだ自分を自覚するという事があなたには出来ていない。いいですか、これから私のいう事を真剣に聞いてくださいね!あなたは御自身の体調不良だと思っておられるようですが、それは違います。此処に来るために受け取った信号なんです、、、、。」
そしてその後聞かされた事実は私の想像を絶するものであった!
sakai医師は今までの柔らかい表情から硬いものに一変させた。
「 先程の問診医師を人間と思っている様では困ります。」
「えっ! 人間ではないという事ですか?」
「勿論そうです。全てAI搭載ロボットです。以下の説明には省略してAIと呼ばせていただきますね。」
『 はっ? AI ?? 揶揄ってるのか???
益々頭が混乱してきた。確かにこの時代は何処にでもAIが使われているのは知っている。
だけど、さっき会った綺麗な女医さんがAIロボット? まぁ、多少機械的な物言いではあったが、何処から見ても人間としか思えなかった。
まさか、、? そんな筈は、、。もしかしてこれは? 』
「やはり戸惑っておられるようですね、まぁ、無理もないかもしれません。見た目には殆ど人間と区別出来ませんからね。しかも今のあなたのステイタスは~A-33 でしたね? そうするとまだ現実認識が完全とはいえませんからね。それで多少の混乱が出ても仕方無いのかもしれません。」
「A-33って、それと何の関係が、、。」
「わかりました。それでは初めから説明します。先ずこの AEクリニックそのものについて説明しましょう。 ここはある特定の方々のみが使用出来る総合病院なのです。 仕事でAIを使っている方々、今では労働力の80%がそのロボットですから。 次に家族としてAIと暮らしている方々、今のあなたには理解し難いでしょうが、社会そのものが以前とは大きく異なります。そして最後にあなたの様に、これからAIの管理業務に就く方。 まだ実感がわいていないようですが、、、 それらの方達が高度なAIと拘る上で起きる、心身上の全ての不都合、体調不良に対応するクリニックなんです。」
労働力はAIロボット? そして家族までもが??
そして私はこれからAIを管理する???
もう何が何だか分からなくなった。説明を聞けば聞く程おかしくなってくる。
仕事、、私の今の仕事は? えっと、、。。。
そうか、以前AIの設計&製作をしていて、、その後、、ん? あれ?? 変だ、思い出せない!
でも今は、AIの進化改良をしているけど、、でも、もしさっきここで会った医師達がAI搭載ロボットだと言うなら、私の作品を遥かに超えた素晴らしい出来であるが、、しかし私は未だあれらがロボットだとは信じられない、、。
「それでは次に、、、今日が何日かわかりますか?」
はっ?認知症テストじゃあるまいし、心の中で呟きながら答える。
「2019年 2月28日 木曜日ですが、、それが何か?」
「やはり記憶がそのまま残ってしまってますね。今は、2120年 3月1日です。」
嘘だろう~2120年、馬鹿言え、、とそう云おうとして、、ふと、、じゃ私は? 確か2019年に生きていた記憶がある。一体どういう事だ?
「 初期には良くある事で何も心配いりません。徐々に適応していけますので大丈夫です。まぁ、あなたは特別なので!」
「特別って、、、いったい何が。。」
「 あなたのIDに記載されているA-33 の意味はわかりますか? AはアンドロイドのA, 33は33パーセントインプットの適合完了の意味、今朝あなたが感じた頭痛は、この病院にきてチェック&メンテナンスを受けるという信号なのです。」
『 ア、アンドロイド、? この私が?? 何言ってるんだ、、、だって普通に頭痛感じたのに、、、それが信号だ? 』
「戸惑うのも当然です。今の33状態では、まだ入力済みデーターに完全には適応出来ないのです。実は貴方が以前の人間だった時の記憶をそのままインプットしてあるのです。ですから往来のアンドロイドよりも適応に時間がかかるのです。今の33から50を超えた辺りで疑問を持つこともなくなります。心配いりません。ですから、貴方の様な混乱を防ぐために、普通は自我を始めとする自己認識以外の記憶の移行は致しません。しかしながら、あなたの場合、成し遂げた偉業をより進化させるためにその記憶が特別に使われた稀なケースです。」
『私の理解の限界を完全に超えた、、一体全体何が起こったんだ、、。』
先程の問診医師が綺麗だと仰っいましたね?それは以前貴方が男性だった記憶の残像後遺症と呼ばれています。アンドロイドは子孫繁栄に拘れませんので、男女性の必要は無いのです。
『 。。。。。』
もうわかりましたね! AEの意味は Android Expert の略でAEなんです。ですから A-付帯者のみが利用する専門総合病院です。」
「最後に、貴方がきちんと自覚すべき事を申し上げます。それは、今後の役割についてですが、メンテナンス後すぐにでも私の元で、先程会ったAI問診ロボットの管理&修理を担当していただきます。良いですね!期待していますから早く適応してください。」
そうだったんだ、、私はアンドロイド、しかも人間だった時の特殊能力をインプットされ、それを活用するために生み出された。
しかしいきなりそう言われても、それを受け入れる事は出来ないが、、。
「ちょっと聞きたいんですが、、。」
「はい、何でしょう? メンテナンスに疑問など?」
「 いえ、そうではなくて、私の記憶ではAIロボットとアンドロイドは同じ物だったのですが、、?」
「100年前ではそうでしたね。しかし今では全く機能が異なります。見た目では区別するのは難しいのですが、AI搭載ロボットはあくまでデータに基づいた処理対応が全てです。そして必ず管理者を必要とします。勿論自ら感情を作り出す事は出来ません。
それに対してアンドロイドは、ほぼ人間と同じに機能すると言っても過言ではありません。感情も自由自在に、、貴方の様にね!」
「 もしかして、先生もその、、、。」
軽く笑いながら
「今現在は人間ですが、近々アンドロイド転換手術で【S-E 52】として生まれ変わる予定です。」
「 どうして自らアンドロイドに?」
「大気汚染による食物汚染、度重なる災害で、人間が生きていくには難しい環境になってしまったんです。勿論自然に任せて人生をまっとうされる方もいらっしゃいます。しかし、自分の思う存分生命を維持出来るなら、誰でもそうしたいと思うのではありませんか?私とて例外ではありません。 そしてそれは存命中に行うのが普通なんです。何故なら死後の転換は、未だ技術的に問題が多く残っており、成功する確率が非常に少ないのです。そう、この50年ではたった一例だけ、貴方一人だけなんです。
私は説明を聞いても、まだ完全に理解出来ない、、。
sakai医師はまた少し笑うと、説明を続ける。
また驚かせてしまった様ですね、、でもこれで先程私が言った、貴方は特別の意味これでお分かりですね?
あなたが存在していた100年前には不可能でした。それなら自分はどうして?と思ってらっしゃる様ですが、、
貴方の様に特別な功績が認められた方達は死後、ご遺体を冷凍保存されたんです。覚えていらっしゃらないと思いますが、これは生前のあなたも同意されています。そして50年前に様々な問題を全てクリアし、アンドロイドへの移行転生手術が開始されたんです。そして人間であった【あなた】が新しいアンドロイドの【貴方】に生まれ変わったという訳です。
ご理解いただけましたか?
現在はアンドロイド社会として機能しています。当然ながら子孫を残すことは出来ませんが、しかし引退廃棄数と新規起動数が一定に保たれ、むしろ社会は確実に安定しました。。それは間違いありません。
貴方の記憶がまだ明確になっておられませんので、ここで改めてご挨拶したいと思います。
私の手術後、貴方とは永遠のパートナーとして社会のために尽くしたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。」
そうだったんだ。さっき言われた、「あなたは特別」の本当の意味がやっと分かった気がした。 成し遂げた功績もそうであるが、、酒井医師とは、仕事上は勿論、プライベートでもパートナーとなるべくして今の私が存在するのであろう。
しかし、とにかく頭が激しく混乱している。酷い頭痛も感じるが、これらは正確には頭脳回路の不都合とでもいうのであろうか?
アンドロイドという実感は正直まだ無い。勿論簡単に受け入れられる訳が無い、、が、ただ、何だろう、この不思議な感覚、、良く分からない、、
しかし新しい何かが芽生え始めているのも確かだ。
兎に角、自分にはやるべき役目があるという事だ。
sakai医師は更に優しい微笑みをたたえながら、
「それでは今日は入院していただきます。そして明日までに33レベルから50まで修正及び新たなデーターインプットそして適合のリハビリまで受けてください。」
とにかく入院ということなので、ゆっくりメンテナンスしてもらおう。
そして、必要のない記憶を整理し、改めて精一杯私の役目を果たすのだ。それが私に与えられた運命と言うのなら仕方がない。
それら全てが終了し、自ら引退廃棄を決意し、新しいアンドロイドに私達の役目を引き継ぐ。そして今度は永遠に眠る日が来るまで、自分と生きてみよう。
意味もなく不思議と笑みが出た。
そう、やっと私は自分の名前を思い出した。【SN-37】間違いない、これが今現在の私の名前である。 案外悪くないのかもしれない、、。自分の人生ならぬ、アンドロイド生を全うするのも!
了
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。