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「えなんで?」
「違うのか?」
「えっと、どうなのかな」
「こういうのって大体生まれ変わりとかそういう感じなんじゃねえの」
「まぁ!ね!そういうことは置いておいてさ」
パチン、と手を叩き大声で喋り出した。メグリには都合が悪くなるとそうやって話題をずらす癖があった。
「もう全部思い出したってことでいい……んだよね?」
「ああ。俺はタスク、お前はメグリ。俺たちは学生で、もともとこんなファンタジーな世界に住んでたわけじゃない」
「よかった……本当にようやく思い出してくれたんだ」
「ああ、会えて良かったよ」
「板も作った甲斐があったね」
「よく作ったなこんなもん。動くのか?」
「まさか!」
メグリは笑って続ける。
「ただ鉄と鉄をくっつけただけだよ」
「まぁ、そりゃそうだよな」
「これが無かったら危なかったよ」
「まぁそれを言うなら、夢を見たのが今日の朝じゃなかったら全部無駄だったけどな」
「それなんだけどさ、夢見たのって本当に今日なの?もっと、こう、数年前とかじゃなくて?」
「ああ、本当に今日だ。今朝、電車に乗って学校に行く夢を見た」
「そうなんだ。じゃあ私たちの方がずっと早かったってことなのかな……」
「私“たち”……?」
「あ、言い忘れてたけど、もう1人いるの。前の世界のこと覚えてる子」
「誰」
「タスクは多分面識ないかな?ユウジくんって言うんだけど」
「ユウジ……1,2回ほど話したことがある」
「あ、そうなんだ。じゃあ話が早いね、彼が今の王様なんだよ」
「あいつが王?冗談だろ」
「先代の王様が早くに亡くなって、それで。というかさ、ユウジくんと仲悪いの?」
「良くはないな。多分あいつは俺のこと嫌ってるだろうし」
「直接言われたの?」
「そう思うってだけ」
「なら大丈夫だよ!絶対仲良くなれるって!」
そう言うとメグリは、くるっと体の向きを変え、タスクに背を向ける。
そして左手を腰に当て、右手を高く掲げた。
「そして3人で力を合わせて、どうしてこんなことになってるのか突き止めよ!そして元の世界に帰ろう!」
「……まぁ、お前がそうしたいなら協力してやってもいいけど」
「……え?何?なんで?元の世界に帰りたくない?」
思わず振り返り、驚いた表情で駆け寄るメグリ。
「別に……。ただ、今のままでもいいだろ、とは思ってるってだけ」
タスクは夢の内容を思い返していた。職場に向かう大人たち。学校へ向かう学生。誰もが暗い顔をしていた。
先のことが見えなくて不安だ、きっとみんながそう思っていたのだろう。そんな人たちと今の世界に住まう人たちとでは、真逆に見えた。
もちろん、そう思わせる要因として“タスクが村の外の人がどんな表情で生きているのかを知らない”というのが大きいのだろう。
少なくとも、この村であそこまで悲観的な人間は見たことがない。
ともかく、今のタスクにとっては、今住む世界《ファーテ村》が全てだった。
「タスク……」
「繰り返しになるが、俺は別に協力しないってわけじゃない。お前が元の世界を望むのなら、俺はお前に手を貸す」
「……そっか、ありがとね。それじゃ早速行こうか」
「行くって?王都に?」
「うん」
「今から?」
「うん」
「無理じゃない?」
「行けるよ。私、1級魔法の免許持ってるし」
「てことは、テレポートか……。苦手なんだよな、あの感か」
言い終わるのを待たずに、メグリはタスクの腕を掴み、魔力を行使した。
「着いたよ」
「行ってるそばから……」
景色は打って変わって町に変貌を遂げていた。
道のいたるところに出店が広がり、見物客買い物客でひしめいている。
「じゃ、ユウジくんのとこに行こ」
「あ、あぁ」
2人は人ごみをかき分け、町の中心部である城へと向かって行った。