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私は僕に恋をする  作者: 黒瀬玄絵
13/21

十三、秋名(名付けられた秋)

 本当は枝葉氏にはもっと聞くべきことが有ったのだろう。

 何よりも、枝葉氏の話が本当だったとしたなら、大花氏が木葉氏を殺害する動機がなくなってしまう。

 しかしながら、それはもちろん、大花氏も好きな人よりも島の秩序を選んだだけという単純な話名のかもしれない。それに、枝葉氏の話に沿って考えるならば、大樹氏が夫に対して特に未練を感じていなかったことにも説明がついてしまう。それになにより、この話を私に伝えたところで、枝葉氏にメリットは何も無い。例外はいるものの、自分に利益もなく嘘をつく人間は希少だ。だから、この話も信憑性は高いと言えるだろう。

 このことは、必ず後々に重要になってくるはずだ。真偽確かめておく必要がある。

 だけれども、今はそれ以上の問答をする気にはならなかった。

 今はまだ総当りの時間である。とりあえず枝葉氏について知りたかったのは動機。それが霧散した現状では、いち早くその次に取り掛かるに越したことはない。

 大樹氏の動機の次に疑うべきは、秋名ちゃんのトリック。

 トリックを見つけるならば、聞きこみでは無く、現場検証をより詳細に行うべきだろうが、その前にどうしても話を聞いておきたかった。

 私はまだ秋名ちゃんの事をよく知らない。まぁ、それを言ってしまえば、この島で知っている人間は赤目だけなのだが、それでも輪をかけて、秋名ちゃんの事はよく知らない。いや、よく分からないと言った方が適切だろう。悪く言えば得体が知れない。

 この島に来てから一日目の夜。私は秋名ちゃんに跡形もなく粉砕された。彼女と会ったのは間違いなくあの時が初めてである。にも関わらず、彼女は私のコンプレックスを的確に責めてきた。糾弾してきた。私の欠点それ自体は別にいい。良くはないのだけれども、今は棚に上げておこう。問題なのは、何故そのような事を知る事が出来たかである。物事には必ず理由がある。もしかしたらそれが鍵となるかもしれない。

 お前が言うなと言われそうだが、相手の考える事を知るためには、まず相手の事を良く知ることから始めるべきだと思う。そうすれば自ずと、相手がどのようなトリックを使用したかが分かるはずだ。

 本来なら、トリックを見破ってから、それを使う相手は誰かを考えるのが、正しい推理の順序だろう。

 だけれど私は探偵ではない。探偵役を拝命しているが本職ではない。順序も作法も知った事ではない。

 誰かが言った、物事には三つのやり方があると。一つ目は正しいやり方。二つ目は間違ったやり方。そして三つ目に自分のやり方。

 これは言うまでもなく、二つ目の間違ったやり方である。自分がない私にとって、自分のやり方なんてものは存在しない。やりたくても出来ない。無論、正しく生きることも出来ない。だから私は間違った道を間違った方法で進んでいく。

 ただし、自慢では無いし、自慢できるような事でもないが、これでも悪路の進み方には慣れている。いままで私に走破できなかった道は無い。

 だから今回もこのやり方を貫く。

 私は、秋名ちゃんと向き合う。

 もしかしたらこれは、ある意味『私』との対話よりも、私と向き合う機会かも知れない。

「秋名ちゃん、少しいいかな?」

「……」

 秋名ちゃんは答えない。

 最初に会った時と同じように、分厚い本に目を落としている。こちらを、見ようともしない。

「秋名ちゃん、お母さんが居なくなって残念な気持ちは分かるよ。辛いよね。だけれど、少しだけお話してくれないかな」

 表情は窺い知れない。しかし口ではあのような事を言ってはいても、所詮は小さな少女だ。母親が死んで悲しくない筈がない。

 日本人形のような少女が膝を抱えて座っていれば、優しい言葉の一つもかけたくなるのが人情というものだろう。

 まぁいくら彼女を哀れんだところで、私は彼女を疑いにここに来ているわけなのだが。

「……」

 秋名ちゃんは答えない。

 もしかしたら嗚咽を堪えているのかと顔を覗き込んでみるが、何時もと変わらない無表情だった。あまりにも整い過ぎていて、セルロイドで出来ているのではないかとさえ思えてしまう。

 改めて見ると綺麗な横顔だ。

 柊家は全員綺麗な顔をしているが、秋名ちゃんだけ少し系統の違う雰囲気を纏っている。他の人が太陽の様な陽の気だとするならば、秋名ちゃんは月の様な陰の気を纏っている。

 水極と火足。

 霊にして陽を示す左。

 身にして陰を示す右。

 右手と左手を打ち鳴らす柏手が、神への祈りの始まり、巫女の原初とするならば、この島のバランスはあまりにも歪だ。

 秋名ちゃんが余りある陽を抑え、この島の太陰のバランスを一人で支えているという構図は、その体の小ささも相まって、あまりにも哀れを誘う。

「そのような心配は無用です」

 ぐりんと、秋名ちゃんが首をこちらに回す。

 顔を向けるのではなく、あくまで首をそのまま回した結果、顔がこちらを向いたという様な振り向き方は、さながら人形じみていて、心臓が止まりそうになった。

「秋名ちゃん?」

「ですから言ったでしょう。あなたがあの女に会えば碌な事にならないと。忠告は聞くものですよ。最も、伽藍堂なあなたには、どのような箴言も経験も蓄積されませんか」

 秋名ちゃんは、この事件は私に拠るものだと言い切った。

「この事態は私が起こしたものだって言うのかな?」

「そうですね。あなたが引き金です。確かに爆発したのは火薬。しかし雷管を叩いた撃鉄に非は無いかと言われればそうではないでしょう」

 相変わらず急に雰囲気の変わる子だ。それこそスイッチのオンオフのようにパチリと切り替わる。その度に戸惑う私も私だが、それにつけても、秋名ちゃんの豹変ぶりは目を見張る者が有る。

「そして私は以前、あの女を巫女とは思っていないと話しました。あの言葉は嘘ではないが正確でもありません。私はあの女を母とも思っていない。だから私は、あの女をあの女と呼んでいるのです」

「そうだね、前から秋名ちゃんはそう言っていたね。けれどもどうしてそこまでお母さんの事を嫌うのかな?」

 もしかしたら、それが秋名ちゃんが、大樹氏を殺害した動機なのかもしれない。

「嫌ってなどいない。いや、嫌ってすらいない。私はあのまがい物に対して、嫌うという積極的な感情すら持ち合わせていない」

「まがい物? 大樹さんがまがい物?」

 どういう意味だろうか? 私の短い人生では、あの人ほど本物っぽい人間は、他に片手で数えられる程しか見てきていないので、大樹氏がまがい物と言われたところで、にわかには賛同しかねる。

「無論、巫女のまがい物です。確かにあれはあれで特別な人間だったのでしょう。おそらくは通り一遍等の凡百と比べれば、有能な人間だったのでしょう。だがしかし、それは人間として有能だっただけ、巫女として有能だった訳ではありません」

「それこそよく分からないな。大樹さんが有能だって事には異論は無いよ。そして私には、巫女としても十分に有能だった様に思えるけれどな。この島の秩序が今も保たれているのがその証拠だろう?」

 まぁもっとも、その本人である大樹氏はどうも、その秩序を壊したかったようだけれども。

「見方はそれぞれ。この島に秩序をもたらしたのは、あくまで大花様。あの女はただそれを維持したに過ぎない。それもあまつさえ、一度はこの島の秩序を乱そうとさえした。そんな奴を有能と呼ぶことは到底出来ないでしょう」

「昔の事は少しは聞いてるよ。大樹さんがやろうとしたことも、その結末も。秋名ちゃんはその事が今でも許すことが出来ないんだね。だけれども、それはそんなに悪い事だったのかな。大樹さんは皆と仲良くなりたかっただけじゃないのかな。秋名ちゃんは友達が欲しいとは思わないのかい?」

 勝手に秋名ちゃんまで友達がいない事を前手に話をしてしまっているが、春子さんがあれ程思い悩んでいないのだから、この島で巫女が友達を作るということは、相当に至難な事なのだろう。

「私は別にそうは思わない、為政者とは常に孤独なもの。その孤独に耐えられないのならば、自らその座から退くべき」

「うーん、独裁者ならそうなのかもしれないね。他者との距離が縮まれば、その分汚職が進むというのは、ある意味理解できる事だよ。まぁただ、民主主義ならば、為政者は人民の意見を代表する存在な訳だから、決して孤独な訳ではないよね。むしろ一番お友達の多い人気者が為政者となる訳だ」

「なるほど。ならば、民主主義が採用されているらしい本島は、さぞかし良い所なのでしょうね。その為政者を通せば人類皆お友達という訳ですから」

 そう言われては何も言い返すことが出来ない。

「秋名ちゃん。君は本当は何歳なんだい? よくそんな難しい問答が出来るね?」

「年齢で相手を判断する事ほど愚かな事は無いでしょう。人で大切なのは外見では無く中身です。……失礼、中身の無いあなたには言ってはいけない事でした。謝罪します」

 その謝罪ほどの失礼は、未だかつて働かれていなかったが。

「それにしても不思議ですね、私がこれほど頻繁に前に出てくるとは、やはりあなたが原因なのでしょうね」

「うん?」

 急に何の話だろう?

「いえ、何でもありません。気にしないで下さい。ただ、私がこんなに話すのは久しぶりなので、少し戸惑っているだけです」

 自分で自分に戸惑うというのも良く分からない話だが、私が秋名ちゃんの話を引き出せているのだとしたら少しだけ嬉しい。ただ何となくだが凄い勘違いをしている気がする。何となくね。

「話を戻すけれども、秋名ちゃんは大樹さんの事を巫女に相応しくないと考えていた訳だよね?」

「最初からそう言っておりますが」

「じゃあ秋名ちゃんは、大樹氏さんに変わって、春子さんが巫女頭を務めた方が良いと考えていたりしたのかな?」

「なるほど、つまりあなたは巫女頭を代替わりさせるために、私があの女を殺したと考えている訳ですね」

 話が早い、早すぎる。そんな言い方をしては身も蓋も無いではないか。

「答えは否です」

 秋名ちゃんは、私が何も言えないまま話を続ける。

「あの女が死んで、次は誰が巫女頭になると思いますか?」

「それは、今は代理だけれど、順当にいけば春子さんになるのかな」

「そう、柊家では代々、長女が巫女頭を継いでいます。ならば私は、春子を巫女頭にしたいと考えていたと思いますか?」

「そういう聞き方をするという事は、秋名ちゃんは、春子さんも巫女頭には相応しくないと考えている訳だね。私には、あの年であそこまで成熟している春子さんは大したものだと思うけれども」

「それこそ先ほどの問答と同じ。春子も同じ位の年頃の娘と比べれば、優秀な方なのでしょう。けれどもそれは巫女としてではありません。この島に、早馬神社にとって必要なのは巫女としての優秀さ。それは残念ながら春子には無いものです」

「ふぅん。じゃあ、秋名ちゃんの考える、巫女の素質って言うのは何なのかな?」

「言うまでもありません。『見通し』が出来るかどうかです。その力こそが巫女を巫女たらしめている」

 『見通し』。結局はそこに終始する訳か。大樹氏も表向きは『見通し』は出来ないことになっていた。もっとも、最後に私達に見せたあれが、本当に『見通し』だったのかどうかは、今となってはもう確かめようがない訳だが。

「じゃあ、今の柊家には巫女頭に相応しい人は居ない訳だね」

「無論です。私は大花様の帰りを待つのみ」

 大花氏。大樹氏の前の巫女頭。大樹氏と春子さんは既に彼女が亡くなっている様な口ぶりだったが、枝葉氏と秋名ちゃんは未だに生きていると信じて疑わない様だ。

「秋名ちゃんは、大花さんがまだ生きてるって信じてるんだね?」

「疑う余地は無いと思いますが、なにせ死んだという証拠が何も無い。ただ居なくなっただけ。ならば戻ってくることも道理でしょう」

「でも秋名ちゃんは実際に大花さんに会った事は無いんだよね。なのに良くそこまで信じることが出来るね?」

 これはちょっとした意地悪だったかもしれない。春子さんが巫女に相応しくないと言われて、自分でも気が付かないうちに、反発していたのかもしれない(春子さんは巫女に成りたいだなんて一言も言っていなかったのに勝手なものだ)。

「ええ信じていますよ。だって知っていますから」

「どういうことだい? 大花さんは一度この島に戻ってきたことがあるのかい?」

「いいえ違いますよ。もしそうなら、私が再び外になんて出したりするものですか。ああ、そう言えば、この島に巫女頭に相応しい人物がもう一人いましたね」

 もう一人? 枝葉氏は男性だから無理だとして、小夏ちゃんの事か?

「小夏に出来るとお思いでしょうか?」

 口にだす前に否定されてしまった。この子はやはり私の心が読めるのだろうか。

「あなたの考えている事ぐらい誰でも分かるでしょう。それで、あなたは本当に小夏に巫女頭が務まるとお考えでしょうか?」

 先程から秋名ちゃんが、実の姉たちを呼び捨てにしているのは注意したいところだが、母親をあの女呼ばわりしている事を考えれば今更か。

「いや、小夏ちゃんには悪いけれども、到底そうは思えない。あの子は良くも悪くも柊家の中で一番普通だ。部外者の私が見ても、巫女頭というイメージでは無いね」

「なるほど、あなたはそう捉える訳ですか」

「そうとは?」

「いえ、出来れば小夏には島から出て、普通の女の子として育って欲しいと考えるのは私も一緒です。ただそれは、小夏が一番危険だからです」

 危険? 確かに赤目も吹き飛ばすあのパワーは中々に危険かもしれない。しかし、そんな島から追い出さねばならない程のものだろうか。

「あなたが本島と比較して普通と評すると言う事は、裏を返せば柊家にとっては異質という事なのですよ。小夏の存在はとても危険です。言葉を選ばなくて良いのならば、私なら大樹の前に小夏を殺していますね」

 今更驚きもしないが、中々に過激な発言だ。

「話が逸れていきますが、思い付きましたので先に話しておきましょう。その一点をとっても、私の容疑は大分薄まるのでは無いでしょうか?」

「つまり?」

「ご存知かは存じておりませんが、基本的には巫女頭の継承順は姉妹間では生まれた順です。つまり今この時、春子にもしもの事があったら、自動的に小夏が巫女頭という訳です。それは私にとってもっとも避けねばならない事態ではありませんか?」

 なるほど、理屈の上ではそうだ。

「あまり考えたくない事態だけれども、もしも、万が一小夏ちゃんが巫女頭になったら、秋名ちゃんはどうするんだい?」

「万が一よりかは十分にありえる事態だと思いますけれどもね。そしてそんな十分にありえる確率でこの島の秩序はたやすく崩壊する訳です。私にとってはいち早く脱せねばならない事態ですが、とりあえず質問に答えましょう。小夏が巫女頭になったらどうするか? そんな事は決まっています」

 そして秋名ちゃんは、一呼吸をおいて言葉を続ける。それは本当に一呼吸だけで、顔色一つ変えずにの発言だった。

「小夏を殺して、私が巫女頭になります」

 ―――それはそうだろう。今までの会話を総括すれば、その答えに行き着くのは当たり前だった。先ほどの私の質問は、ただの念のための答え合わせでしか無い。

「そして、大花様の帰りを待ちます。置き去りにしていた質問に今こそ答えましょう。『巫女頭に相応しいもう一人は誰か?』言うまでもありません、私、柊秋名です。少なくとも大樹よりは十全に、春子よりは十分に、その任を全うしてみせましょう」

「……大した自信だね。失礼を承知で言わせてもらうなら、その小さな体には不釣り合いな程大きな自信だ。でも何となく分かるよ、私も小さな時はそうだった。何の理由もなく、何故か年上の人間は全員、自分より無能に思えるものだ」

 自分がその年になる頃には、もっと有能な人間になっている筈だと、謎の自信を持っている。だけれど直にそれは誤りだと気付く。昔バカだと決め付けていた人間と同じランクに行けるのならまだマシな方で、大抵はそこにすら辿り着けない。その考えが誤りだったことを知る。もしかしたら、それこそが大人になるという事なのかもしれない。

「あなたがどのような子供だったかに興味はありません。あなたの教育哲学にも興味はありません。そして無論、私の自信にも根拠はあります」

「へぇ、凄いね。良かったら聞かせてくれないかな、その自信の根拠を」

「私は『見通し』が出来ます」

 余りに当たり前のように言うので、一瞬理解が追い付かなかった。

 『見通し』?

 代々巫女が出来たというあの『見通し』の事でまず間違いないだろう。それを秋名ちゃんが出来る?

「常に出来る訳ではありませんよ。どちらかと言うと、出来る時があるという方が正しいでしょうか」

「他の人はその事を知っているのかい?」

「おや、私が『見通し』を出来る事事態は疑わないのですね。そもそも、『見通し』の存在を受け入れているのですね、意外です。あなたは、こういうオカルトじみた物には反発する人だと思っていましたが」

「別に間違ってはいないよ。ただ、ここ数日で色々有ったからね。それに、秋名ちゃんが『見通し』が出来るのだとすれば、最初の日にあそこまで私の事を正確に言い当てられた事にも合点がいくというものだよ」 

 糾弾したと言わなかったのは、せめてもの私の意地だったのだろうか。

「なるほど、そう言えばそうでしたね。もちろん発言を撤回するつもりはありませんが、初対面の方にいきなりする話ではありませんでした」

 初対面でなくてもするべきではない話だと思うが。

「それはあなたが言われる側だからですよ。誰かが憎まれ役を買って出て、あなたに釘を差しておかねば、被害は更に広がっていくでしょう?」

 ……。

 何も言い返せなかった。今までの私の人生を思い返せば、全くもってその通りだったからである。

「話を戻しましょう。私が『見通し』が出来る事を知っている人間が他にいるかでしたね」

 そう言うと、秋名ちゃんは視線を宙に泳がせる。しかし何も見付からなかったようで、「いないと思います」と続けた。

「この通り隠すつもりもありませんが、御存知の通り普段の私はほとんど他人と話しませんので。考えてみれば『見通し』をした内容を他の誰かに話した事もありませんね。まぁもしかしたら枝葉辺りは気付いているかもしれませんが」

 何故柊家の人間は、よりによって私にだけそんな重要な事を伝えるのだ。なんだか悪い事をしている気になる。

「あれ? じゃあ秋名ちゃんが『見通せ』ば、この事件の真相が分かるって事なのかな?」

 これは思わぬショートカットである。さっさと秋名ちゃんにこの事件を解決してもらうとしよう。

「それは構いませんが、本当に私が『見通し』た結果を伝えてしまっても良いのですか?」

 良いも悪いもない。確かに本当に秋名ちゃんが『見通し』が出来るかどうかは、再度検証を行い、精度を確認する必要があるだろう。しかし、少なくとも、進むべき方向すら定かで無い現状にいきなり目指すべきゴールが示される訳だ。後はその道筋を考えるだけになる。作業効率は飛躍的に向上する。私にとっては歓迎こそすれば、敬遠する理由は何も無い。

「そうですか、じゃあお伝えしますね」

 そう言うと秋名ちゃんは特別な所作は何もなく、端的に『見通した』結果だけを告げる。

「……私にはあなたが、自分で自分が犯人であると自白する未来が見えます」

 はい?

「聞こえませんでしたか? ではもう一度言いますね。あなたが犯人です」

「いやいやいや、聞こえてるよ。ただ余りにも突拍子もない話だから反応できなかっただけだよ。それで、私が犯人?」

「ですからそう申し上げているでしょう?」

 申し上げられても奉る事は出来ない。私が犯人。それではまるっきりマッチポンプではないか。やはり秋名ちゃんの『見通し』は偽物なのだろうか。

「今失礼なことを考えていましたね。気持ちは分かりますが。私としても理解に苦しむ点はあります。ですが見えてしまったものは仕方ありません。ありのままお伝えするのみです」

 うーん、一体どういう事なのだろうか。理解が追い付かない。謎が解かれるどころか、先程から増えていく一方な気がする。

「まぁ、私の『見通し』の正否含めての正確さは、その内勝手に分かるものかと思います」

 その未来だと、分かった頃には手遅れなような気がするけれども。

 しかし、ここでそれに思い悩んでいても仕方ないか。ここはこのまま放っておくと、ろくでもない未来に繋がる事が分かっただけでも儲けものとしよう。

 折角の機会だ、『見通し』についてもう少し詳しく聞いておこう。

「詳しくと言われましても困りましたね。先程もお話した通り、私の力は不安定ですので、正確な所をお伝えできるかは分かりません。ただ偶に見えるだけです」

「見える? それはよく超能力とかで言われる、目ではなく感覚として見えるって事なのかな?」

「いいえ、本当に見えるんです。感覚器としての目。何時も景色を見ているのと何も変わらない感じですね。ただ急にチャンネルが変わった様に見えるものが切り替わるだけです」

「つまり『見通し』の力は目に宿ると考えて良いのかな?」

「分析した事はありませんので、はっきりとは言えませんが、一般的にはそう言われていますね」

「一般的とは?」

「この島では一般的に巫女の力は目に宿ると言われています。ご存知ありませんでしたか?」

 恥ずかしながら存じてはいなかった。考えてみれば、まだほとんど調査を進めることが出来ていない。どちらにせよこれ以上は続行不可能な訳ではあるが、多少なりともこういう会話の端々から情報を集めておかねば、村上教授に顔向け出来ないというものだろう。

 しかし、そうか、そういうことか。

 巫女の力が目に宿ると言われているならば、あれはそういう事だった訳だ。ここに来て合点がいった。

「どうやら何かを掴んだようですね」

「いや、大した発見では無いけれどもね。推理の本筋では無いけれど、本筋に入るための道筋は見えたと言ったところかな」

「そうですか、それならば今のところは一度お引取りを願えませんでしょうか」

 それは疑問形ではなく、あくまで命令形での発音。

「久しぶりに長話をして少々くたびれてしまいました。続きはまたいずれ。それでは」

「秋名ちゃん?」

 秋名ちゃんは一方的に会話を終わらせると、その後口を開こうとさえしなかった。

 この子との会話は何時もそうだ。一方的に話を終わらせられてしまう。おかげで毎回消化不良というか、言葉にしにくい敗北感を味わう事になる。

 あと何度話す機会があるか分からないが、最後の時までにはこの苦手意識を払拭できる事を祈るばかりだ。

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