逆輸入車
美菜さんを見てから、いつも何処かで、美菜さんを探している自分がいる。
カズから少し聞いた話だと、美菜さんは普通科の1つ年上で、カズと同じ中学だったらしく、この辺が地元だった。
思っていたよりも早く情報が入った。
僕の高校は普通科と工業科が結構はなれている、工業科の僕が、普通科の美菜さんを見ることはあまりないと思った。
普通科を受ければよかったな、ただ美菜さんを少しでも見る機会が多いからと、少しそう思った。
僕は地元から通える高校で、1、2番に学力の低い高校を受けた、その中で工業科は多分1番学力が低い、中学時代不良グループにいたからと言って、不良ではない僕は、普通に授業は受けていたし、中の下くらいの学力はあった。
下の中の下に入らなくてもよかったのかもしれない、でも、この高校のこのクラスになった事に、全然後悔はなく、むしろ良かったと思っている。
すでに溜まり場になっていたカズの家で、そんな事を考えていた。
周りはバイクの話で盛り上がっていた。
「後3ヶ月もすれば俺はフェックスちゃんで来るからよ、カズバイク停めさせくれよ」
左手でアクセルを回す格好をしてケン君が言った。
「ケン君、アクセルは右だよ」
僕がつっこむと周りは大爆笑していた。
「バカ歩美、俺のフェックスちゃんは逆輸入だからいいんだよ」
訳がわからないけど、やっぱりケン君は返しも面白い。
「そうだね」と笑って返した。
この空間は好きだ、中学の時と周りにいる人は大分変わったが、僕の好きな空間がそこにもできていた。
ジュンがまだ左手でアクセルを回し、ブンブーンと言ってケン君をからかっていた。
その日の帰り道、いつものようにケン君と自転車で帰っていると。
「歩美お前好きな女できたんだって?」
まだケン君には話してないが、どうせジュンあたりが話したんだと思った、別に隠しているわけでもなかったし、隠す事でもない。
「うん、できた」
笑って返すと。
「そっかよかったな、女はよぉ気持ちでぶつかんだ、それだけでいい、わかったな」
「うん、わかったよ」
まだ誰とも付き合った事のないケン君だけど、自称女心のわかる男だ。
「それと男が何とかって言うヤンキーなんだろ?何かされたら俺に言えよ」
「ありがとね」
嬉しかった、何かされてもケン君に助けてもらうつもりも、誰かに言うつもりもなかったが、ケン君のその気持ちがすごく嬉しかった。
「ありがとね」ケン君には聞こえないくらいの声でもう一度呟いた・・・