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0-0.プロローグ
目の前に、かつて勇者と呼ばれた男が倒れている。
か細い声で怨嗟の言葉を吐きながら、血溜まりの中で今にも息絶えようとしているその姿は、王や民の期待を背負い、意気揚々と魔王退治の旅に出た人間とは思えないほど矮小に見えた。
頬についた返り血を拭い、辺りに立ち込める錆びた鉄のような匂いに眉をひそめながら、俺は栄光を奪われた者の末路を目に焼き付ける。
床を広がり続ける、おびただしい量の血液。
思い出したかのように時折痙攣する体。
命をそのまま吐き出しているような、細く長い呼吸。
そして何も映っていないであろう、虚ろな瞳。
誰がどう見ても、目の前の男に助かる術はない。
それでも、有りもしない救いを求めるかのように、勇者は虚空に向けてゆっくりと手を伸ばした。
――――俺がこの世界に来た時のように。