第7話「善道VS.ミレイユ②」
ミレイユの取り巻きに怪我を負わされた善道は、ミレイユの持って来たポーションのおかげでほとんどの傷は治っていた。しかしまだ、少し顔や腕に痕が残っていた。
「善道さん、どうしたんですかその傷?!」
「ちょっくら、町でチンピラどもとケンカになっちまってよ。まあ大した連中じゃなかったんだが、相手が卑怯な手を使ったもんでな」
「ちょっと見せてください!」
コレットは善道の顔に近づいた。
「止せよ」
しかし善道は恥ずかしかったのか、プイッとそっぽを向いてしまった。
「気を付けてくださいよ。結界が町全体に張られていて、モンスターが外から攻めてくることはありませんが、町の中に悪い人たちもいるんですからね」
「うるせぇな。お前は俺の母ちゃんか?」
「今はあたしが善道さんの保護者です。あまりケンカするようなら、門限を決めさせていただきますよ」
「ガキじゃあるめぇし、冗談じゃねぇぜ」
コレットが心配してくれていることは分かっていた。だがミレイユから、このことは他言しないでくれと言われ、約束してしまったからには、こちらから破ることはしなくないのだ。
「風呂に入ってくる」
「その前にあたしのお風呂を用意してください。ずっと待ってたんですからね」
「わってるよ」
コレットの風呂は鍋に水を入れて、善道がお得意の炎で温度を40度くらいにまで温度を上昇させる。これでコレット用お風呂の完成だ。
「じゃあよ」
「ごゆっくりどうぞ~」
コレットはもうご機嫌だ。
次の日、善道の傷のこともあり、本日はクエストに行かず、ギルド内でゆっくり過ごすこととなった。
「くか~……くか~……くか~……」
「善道くんまた寝てる~」
受付嬢のジゼルが寝ている善道の頬を触ろうと接近する。
「寝る子は育つって言いますからね。それと、あまり触らない方がいいですよ。寝起きの彼、ものすごく防御力高いですから」
「ああ、いるわよね、そういう人」
寝ている善道の横で、ジゼルとコレットはお互いの信頼度を高めようと何気ない会話を繰り返していた。
「そういえば、この間、善道くんにアリーヌの事を聞かれたわ」
「どんなことです?」
「アリーヌとは友達なのかって」
「それで、なんて答えたんですか?」
「答えられなかったわ。確かに一番彼女との会話が多いのはあたしかもしれないけど……あたしも、傍観者の一人だから」
「ああ……それは……」
ちょっと深刻な話になってしまい、コレットの空気を読んで口数を減らす。
そして雑談をしているのはこの二人だけではない。一方では、ある興味深い事を話している二人組がいた。
「マジかよ」
「ああ。確かにアリーヌだったよ。ミレイユの取り巻きたちが連れてったんだよ」
「今度はどんな風にいじめられんだろうな?」
「最近あいつらイラついてるから、身ぐるみ剥いでその辺に放置されるんじゃねぇか?」
「ミレイユならやりそうだな」
「―――アリーヌが何だって?」
先ほどまで眠っていたはずの善道が、むくっと起き上がった。
「あ、善道さん。いや、アリーヌがミレイユの取り巻きたちに連れて行かれたらしいです」
「善道さん、助けに行かないんですか?」
「あ? 何で俺がお前らにそんな事言われなきゃならねぇんだよ?」
「いや、俺はただ、いつも一緒にクエストに行っているパーティだから、助けるかと……」
「お前らはアリーヌがいじめられてるとき、助けたのか?」
「……」「……」
善道の質問に、二人は応えられなかった。
「だろうな。オメェらにそんな勇気も力もあるはずないよな」
その言葉に、ギルド内にいたほぼ全員が黙り込んでしまった。
「この中によぉ、一人でもアリーヌを助けようとした奴はいるのかよ?」
『……』
誰一人答えない。ジゼルでさえ下を向いている。つまり、アリーヌは味方が一人もいない状況で一年間頑張って生きてきたことになる。
「面白れぇ、面白れぇぜお前ら。だったら今度は俺がお前らをいじめちゃおうかなぁ?」
悪魔の笑みを浮かべる善道。
『―――ヒッ!!!!』
それに恐怖する人々。
「俺はよ、基本的に人の幸せは嫌いだ。特にミレイユの取り巻きみたいな奴はな。だがな、もっと嫌いなのは、お前らみたいな人がいじめられているのを黙って見てるどころか、それを楽しんでいる奴なんだよ」
「……ごめんなさい」
ジゼルが謝る。
「俺じゃなく、アリーヌに謝ってやんな。だがあいつは、あんたに謝ってもらうなんて思ってねぇだろうな」
「えっ、それはどういう……」
「あんたの事はマブダチと思ってたみてぇだぜ。この間、楽しそうに話しててよ。ギルドに来て初めてできた友達のことを……あんただよ、ジゼルさん」
「―――ッ、そ、そんな……アリーヌ……ごめんなさい! ごめんなさい……ッ!!」
ジゼルは膝を落とし、両手で口を押えて涙を流す。自分は冒険者ではないため、いじめられているアリーヌを助けることができなかった。しかしそれは単なる言い訳でしかなかった。本当の友達なら、怖い目に遭っても助けに入るべきだった。本人はもっと怖い目に遭っていたのだから。
「安心しろよ。あんたの友達は俺の仲間だ」
ジゼルの肩にそっと手を置く善道。
「善道くん……お願い、アリーヌを……助けて」
「報酬は?」
「ギルドと、借家の食堂で使える……食事無料券10枚」
「よしっ、この私に任せなさい!」
善道は自分の胸を叩き、気合を入れた。
「聞いたかコレット。これは依頼主がいる正式なクエストだ」
「依頼内容はアリーヌさんの救出ですね」
「おうよ。この善道、クエストの失敗は決してありえん! 行こうぜコレット!」
「はい!」
善道とコレットは勢いよくギルドを飛び出して行った。