第5話「転生者⑤」
とりあえず依頼を受けるため、三人はギルドへやって来た。
「おい、あいつだぜ」
「ああ。生意気な野郎だ。一度しめちまおうか?」
「止せよ。昨日のあれ見ただろ? レベル1や2の俺たちじゃ相手にならねぇって」
「しかしな……クソッ」
こんな会話が聞こえてくる。
しかし善道はニコニコしていた。当然であろう、みんなが自分を恐れているのだから。善道は元不良。今も不良みたいなものだが、善道にとってこれほど嬉しい事はない。
「おはようアリーヌ」
「おはようジゼル」
挨拶をしてきたのはこのギルドの受付嬢ジゼル・ビゼーだ。ジゼルはこのギルドで唯一アリーヌの友達だ。
「ういっす」
アリーヌの後ろから善道が顔を出す。
「ひゃッ!」
あまりの迫力に驚くジゼル。
「あ、これ、新しくギルドに入った善道ちゃん」
「これとはなんじゃい」
「あ、噂は聞いてるわ。何でもミレイユのパーティを全滅させたとか。すごく強いんですってね」
「いやー、実はそうなんすよぉ」
「分かったわ。善道くんとパーティを組んで、今まで出来なかったクエストを受けるつもりね! それなら任せて。ちょうどいいクエストがあるわ」
そう言って、ジゼルは腰を曲げてゴソゴソと何かを探し始めた。
「これよ」
そして台の上に勢いよくバンッと置いたのは、ゴブリン退治と書かれた紙だった。右上にはランクDと書かれていた。
「オラノ村っていうところで、最近ゴブリンが出て畑に被害が出ているらしいわ。10匹ほど退治してほしいそうよ」
「10匹と言わず全滅させりゃ解決じゃねぇか」
「ところがダメなのよ。生態系を崩すような事はなるべくしないのがギルドのルールなの」
「で、報酬は?」
「5万ヴァルよ。もちろん二人……いや、妖精さんを入れると三人ね」
「あたしの分は善道さんにあげてください」
「了解。で、どうするアリーヌ。受ける?」
「……もちろん受けるわ!」
「よし! それじゃあ頑張ってね!」
「うん!」
こうして三人……ベルーリエ・ノワールでの初めてのクエストがスタートした。
クエストというのは依頼を受けた瞬間からギルドに報告するまでが任務だ。決して気を抜いてはならないのがルディエ・シムノンのルールとなる。
オラノ村まではパルナスを出て東に歩くこと約8時間。比較的近い場所にある。一度昼食と取るために休む以外はずっと歩き通しだ。馬車を借りるお金も今はない。
「いやあ、あなた方が冒険者の方々ですね。私は村長をしている者です」
「よろしくお願いします」
オラノ村は開けた草原の中にある。人口20人くらいの小さな村だ。
「ゴブリンが畑を荒らしているということですが」
「そうなんです冒険者のお方。日に日に被害が増しております。この秋直前の時期になると、毎年の事ながら被害が酷いです。どうか奴らを追い払ってください。何匹か倒してしまえば、他は危険を察知して近づかなくなるでしょう」
「任せてください村長さん」
「頼みますよ。奴らは夕暮れ時になってきて、日が落ちきる前に退散します。もうしばらく待っていただければ、姿を現すと思います」
と、言うことらしいので、畑周辺の村人には少し離れた民家へ移ってもらって、善道たち以外誰もいない状況をつくった。
移動の時間がかかったため、2時間後にはすでに日が沈み始めていた。
「……おい、何か茶色いのが来たぜ」
善道の一言で、アリーヌが目を凝らすと、確かにいた。間違いなくゴブリンだった。体長は1メートルほどで、茶色い衣服を身にまとっている。まだ一匹しか見当たらない。
「まだよ、もう少し数が増えたところで一気に叩きましょ。大丈夫よ、ゴブリンはレベル0でも十分に倒せるから、善道ちゃんなら余裕……あれ?」
さっきまで隣にいたはずの善道の姿が見えない。
「善道さんならあそこに」
コレットが指をさした方角に目を向けると、そこにはゴブリンを自慢の拳でぶん殴っている善道の姿があった。
「あっ、ちゃ~。もう善道ちゃん手が早いわよ」
しかしそう言っているうちに二匹、三匹とゴブリンが集まり始めた。気づくとすでに善道が無数のゴブリンに囲まれていた。
「そろそろあたしも言った方がいいわね」
「頑張ってくださいアリーヌさん。あたしはここで見ていますので」
そう言って、コレットは柱の陰に隠れた。
「よし……はあああああぁぁぁッ!!」
「ナンダ、オマエラ……ギャアッ!!」
アリーヌの剣の一撃がゴブリンを捕える。
「おお。すげぇぜ。モノホンの剣士だ。初めて見た」
「まだまだこんなものじゃないわよ。あたしだって冒険者なんだから」
「へっ、女にゃ負けてられねぇぜ!」
善道もアリーヌも、お互いを尊重しながら次々にゴブリンを倒していく。
そして、予定よりも少し多いが、20匹ぐらい倒したところで、ゴブリン達は退散していった。
「やったあぁ! やりましたねお二人とも!」
「ええ。これでしばらくこの村にゴブリンが戻って来ることは……」
「何だテメェは?!」
善道の怒鳴り声が聞こえた。
振り向くと、善道の目の前には先ほどのゴブリンとは違う、一回りも二回りも大きいゴブリンがいた。
「あれは、ホブゴブリン!」
ホブゴブリンの体長は約3メートルほど。善道よりもかなり大きい。
「ホブゴブリンがどうして?! この村にこんなのが出るなんて聞いてないわよ!」
「グウゥ……ワレラトテ、マイトシムザン二、ヤラレルワケデハナイ」
「何だぁこいつは? この善道様にガン飛ばしやがったなぁ」
「善道ちゃん気をつけて!」
「グウゥ……コゾウ、シヌガイイ!!」
ホブゴブリンの拳が降ってくる。
「―――っと!」
しかし善道はそれを軽々とかわす。
「ほ~れ、こっちだ」
「グウゥ……チョコマカト、ウットウシイガキダ」
(すごい! ホブゴブリンはレベル2はないとまともに戦えない。あの打撃攻撃をものともしてない!)
「ウラアァ!!」
「ほっ!」
ホブゴブリンがちょうど拳を振り下ろし、地面にめり込んでいる間に善道は腕を伝ってホブゴブリンの肩まで行き、顔面に蹴りを入れた。
「グワアアアアアァァァッ!!!!」
かなり効いたのか、ホブゴブリンは顔を抑え悲鳴をあげる。
「コゾウ……ユルサン!!」
「何で俺がお前に許されなきゃならんのじゃ?」
「グワアァ!!」
善道の蹴りはすべて顔面に集中する。
「それっ!」
「グウゥ……アアァ……」
こうして顔面に五回ほど蹴りを入れられたホブゴブリンは、白目を向いて倒れ込んだ。
「ナンダ、モウオワリカ、ツマラン」
ちゃんと煽ることも忘れない。
「すごいわ善道ちゃん!」
「さすがです善道さん!」
「フハハハハハッ! 困ったときは私に任せなさい!」
こうしてゴブリン退治+ホブゴブリンの撃退に成功した善道らは、約束の5万ヴァル+2万ヴァルを受け取ると、パルナスへと帰還した。
「―――いやあ、あんな奴ら倒しただけで3万5000ヴァルも貰っちゃった」
ちなみに善道の高校時代の小遣いは月に5000円だった。当然昼食代も含む。善道は人の弁当をもらうことで小遣いを節約していた。
「この調子でどんどんお仕事していきましょうね!」
「おう! 絶好調だぜ!」