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善道異世界冒険譚  作者: 手島雨水
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第4話「転生者④」

「どうして……善道さんは、あんなに強いじゃないですか」

「俺だって昔っから強かったわけじゃねぇよ。昔は勉強しかできねぇ無能だから、力も弱く、言いたいこともはっきり言えなかったんだ」


つまり、善道は小学校低学年、つまり7歳から9歳くらいまでは勉強しかできなく、体力もなく、おまけにコミュ症だったので、同級生からいじめにあっていたのだ。


「だけど助けてくれたダチがいた。そのダチに助けられて以降、そいつの勧めで俺は武道を習った。そして強くなった。だが数年後、今度はそのダチがいじめられた。けど俺は、また自分が標的になるのが嫌で、助けることをしなかった。あいつも『なぜ善道は俺を助けてくれないんだろう』って思ったんだろうな。それで、あいつは自ら命を絶った」


その悲劇は中学の卒業式間近に起こった。


「そのとき始めて気づいたよ。あいつの気持ち。そして自分への怒りが込み上げてきた。親友を助けられなかった自分が憎くて仕方なかった。そのせいで、つい人の道を外れちまったんだ」


怒りで我を忘れた善道は、ダチを虐めていた数名の生徒を病院送りにしたことが原因で、志望校に行けなかった。


「俺は逃げるようにそいつと過ごした町から出て行った。でも俺は運が良くてな。新しい環境でいい仲間に巡り合えたことで、俺はそのトラウマを克服できた。そして今の俺がある」


善道は生まれ育った鹿児島から愛知の高校に引っ越し、そこで高校三年間を過ごした。不良の真似事をしていたせいで、いろんな奴から喧嘩をふっかけられたが、武道の経験といい仲間に恵まれたことで、負けなしの人気者になったのだ。


「そんなことが……ごめんなさい。自分ばかり不幸な風に言っちゃって」

「誰だって最初から強い奴なんていねぇんだよ。逆境を乗り越えてこそ、真の強さを手に入れられるんだ」

「……う、うぅ……」


すると、アリーヌの瞳から大粒の涙が零れた。


(う―――ッ! い、いかん! 女を泣かせてしまった! こういう場合はどうすれば……?)


「大丈夫ですかアリーヌさん。善道さん! 言い過ぎですよ!」

「えっ、俺が悪いの?」

「いえ、違います。ごめんなさい。嬉しくて……つい」

「そ、そうか。アリーヌ、もっと自信を持っていいぜ。強気で行け。自分の方が立ち場が上だと思うんだ。歩くときは常にがに股で胸を張って歩け。そうすりゃ大丈夫だ」

「何言ってるんですか善道さん。女の子に変なアドバイスしないてください」

「……そうね……分かったわ」

「よし、それでいいんじゃ」

「じゃあ、善道さんのことも、善道ちゃんって呼んでいい?」

「へっ?」


まさかの提案に仰天だ。


「いいじゃないですか、どんな呼び方でも減るもんじゃありませんし」

「ま、まぁいいか」

「それじゃあ、改めてよろしくね、善道ちゃん!」

「お、おう」


握手を交わした善道の手は、少し赤くなっていた。




そして、善道は顔を赤くさせたまま町を歩いた。


「ここよ」


善道とコレットはアリーヌに連れられ、ギルドメンバー専用たる借家にやって来た。


「おお、結構きれいなとこじゃねぇか」

「まだ築10年も経ってないの。きっと善道ちゃんも気に入ると思うわ」

「アリーヌ……」


善道はアリーヌをまじまじと見つめる。


「どうしたの?」

「おめぇ急に明るくなったな。人が変ったみてぇだ。何かあったか?」

「さあ?」


アリーヌは思った。かつて根暗ないじめられっこだった善道がここまで明るくなれた。だったら自分も明るいキャラになってみようと、善道と出会ってまだ数時間だが、彼のおかげで変わろうと思えた。


「中も結構いい感じなのよ」

「ほう……」


外装はコンクリートであったが、ギルドと同じく木の床があって、机が全部で六脚、机一脚に対して椅子が三脚。右側には厨房があるようだ。上にメニューらしきものがある。ちょうど夕食時なのか、美味そうな食事の香りが漂ってくる。椅子に座って何人かがすでに食事をしている。


「奥に行くと左右に分かれていて、右には厨房、男湯、女湯があるの。結構広いわよ。左には奥から順に1号室から5号室までよ」

「あたしたちの部屋は何号室ですか?」

「14号室だから二階ね。二階には6号室から14号室まで。あたしは隣の12号室よ」

「13号室はないのか?」

「不吉な数字と言われてるのよ。約2000年前、当時実在した世界を救ったある英雄がいた。しかし英雄は悪に落ち、かつての仲間を13人殺したの。そんなところから、13は不吉な数字として嫌われているのよ」


(なるほど。理由は違うが、ディファモンドにもそんなものがあるんだな)


「さっ、ここが善道ちゃんとコレットちゃんのお部屋よ」


扉には、でっかく『14』と書かれていた。


「あたしは隣にいるから、何かあったらいつでも呼んでね」

「アリーヌさん、今日は本当にありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。おやすみなさい」

「おう」


素っ気ない返事を返す善道だが、アリーヌは満足したように部屋に入って行った。


「てでぇま」


当たり前のように扉を開けて堂々と中へ入る善道。


「よく始めてくるところでそんなこと言えますね」

「ここはもう俺の部屋なんだ。間違ってないだろ?」


善道はギルドメンバー専用の借家にお世話になることになった。家賃は月に1万ヴァル。キッチンはないがトイレはある。部屋は一つ。16畳くらい。ベッドが一つ、本棚が一つ、そして机と椅子が一脚ずつ。鏡が壁にかけられ、花も飾られている。窓は西側にひとつだけ。その窓を開けると、洗濯物をかけられるのだろうか、鉄の棒が壁に埋められていた。


部屋もそうだが建物の外装も結構きれいだ。まだ建ててそんなに時間は経っていないのだろう。


「おお! おらぁベッドで寝るのは初めてだぜ!」


と言ってベッドにダイブする。


「今日は疲れましたね。明日のためにゆっくり休んで……」

「くかぁ……くかぁ……」


しかしコレットが振り向いた時には善道はすでに夢の中であった。




そして時は流れ、翌日。


朝早く起きたアリーヌは善道とコレットを起こしに行った。するとコレットはすでに起床しており、善道を起こしている最中だった。そこにアリーヌが加わると、ようやく善道は目を覚ました。


「あぁん……むにゃむにゃ……」

「善道さん、指まで食べないでください」


寝ぼけている善道は、食堂で朝食を取っているのだが、スプーンごと自分の指まで口に入れている。


善道が食べているのは昨日アリーヌから貰ったサンドイッチと同じもの。アリーヌは朝食セットAというもので、ハム四枚、ミニトマト二個、パン二個、スクランブルエッグ、ヨーグルト、フルーツ、そして珈琲というそれなりのボリュームがあるものだった。コレットは善道の頼んだサンドイッチ八個のうち一つを貰って食べている。


「そういえば……」

「どうしたのコレットちゃん?」

「ギルドのクエストを受けるのは、ソロではなく、パーティじゃないと受けれないものもあるんですよね?」

「ええ。でもあたし、今まで誰ともパーティを組んでないのよ。だからずっと一人でもできるクエストで何とか稼いでたわ」

「それじゃあ、あたしと善道さんとパーティを組めば、より高収入のクエストを受けられるんですね?!」

「そうなんだけど、昨日見た限りじゃ、あたしとパーティを組んでも、善道ちゃんの足手まといにしか……」

「そんなことないです! アリーヌさんはとても強い人です! もちろん善道さんも強いですよ。そしてそんな二人が合わさると、もっと強くなるんです!!」

「ありがとうコレットちゃん」

「善道さんもいいですよね?」

「ああ。じゃあよ、パーティ名考えようぜ」

「いいですね。じゃあこれなんかどうです? プリティーベイビー!」


「……」「……」


「あれ?」


自身を持って提案したコレットだったが、アリーヌと善道の反応はイマイチだった。


「プププ……ダセッ」


善道はクスクスと流し目でコレットをあざ笑う。


「何ですか?! だったら善道さん考えてくださいよ!!」

「そうだなぁ……『ベルーリエ・ノワール』なんてどうだ?」


ベルーリエ・ノワールは1980年代に活動したフランスのパンク・ロックバンドである。活動期間は1983~1989年と2003~2006年だ。実は善道の母親が昔好んで聞いており、それが善道にも自然と受け継がれていた。


「ベルーリエ……ノワール? いい名前ね。善道ちゃんセンスあるわ」

「そうだろ? もっと褒めろ!」


調子に乗る善道。


「ぐぬぬぅ……さ、さすがと言っておきます」


コレットも、ここまで細かい地球の情報は知らなかったようだ。


「ぐははは! 崇めろ、奉れ!」


かなり調子に乗る善道。


「それじゃあ、パーティ名も決まったことだし、早速クエストに行きましょ!」

「行こう行こう!」


こうして奇妙な三人組パーティは結成された。


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