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3 秘密基地に

 □



「逃がしても良かったんですか?」

「構わないよ。彼の情報は調べ尽くしている」


 細身の男は大柄の男達の前で、堂々と頷いていた。


「そんなことより、新たな仕事が入ってきたんだ。今日は飲み明かそうじゃないか」


 どこにでもある酒屋で男達はむさ苦しく、大声で笑いながら夜を過ごしていた。



 □



 自販機で温かい缶コーヒーを二本買い、片方を逆原へと渡し、もう片方を開けた。二つの白い煙が混ざり、口の中へと流れ込む。


 路肩にバイクを停めて、ベンチに腰を掛けていた。


 通りゆく人々を見ながら、コーヒーを啜った。


「まず、先輩は通り魔が起きる前、私との記憶はありませんよね」

「そうだな」

「なのに、どうして私を後輩だと認めて、話をしてたんですか?」

「なんか、ふわーっと頭の中でこの女の子は後輩なんだなーってなった」

「私はその感覚の塊なんです」


 返す言葉が思い付かず、コーヒーを啜った。


「私も頭の中で、ふわーっとあの人は先輩で、あの人は育て親、あそこが自分の家、通ってる大学は……といった感じで、いつの間にか存在してました。中身が欠落してる人形って感じで、実際は曖昧で自分の家には知らない人が帰ってくるし、親に育てられてきた記憶もない。わけがわかんなくなってそのまま一週間ほど浮浪者になってました」

「なんつーか、大変だな」

「あはは、だから、私、後輩でも無いと思います」

「それは違う。後輩は後輩だ。僕が後輩だと思ってんなら後輩だ」

「頭のネジ無くなったんですか?意味わかりませんよ」

「僕も今、そう思ってる」


 空になった缶コーヒーを捨てて、路肩にあるバイクにまたがる。


「人気の無い時にドンピシャで襲われたってことは、調べてるってことだから家には帰れないし、僕も浮浪者の仲間に入れてくれ」


 逆原は下を向きながら少しだけ頷き、残ったコーヒーを胃に流し入れ、僕の後ろに座った。


 背中にかかる重さが少し増えたような気がした。


 突如、寒気が身体中を蛇のように這いずり回った。


 逃げないと。


 早くここから離れないと。


 ここにはいるなと、頭の中でシグナルが鳴り響く。


 小さな震えと共に、か細い逆原の声が聞こえてくる。


「……ほどうきょう」


 前方の歩道橋の階段を下りてくる彼女は、長い黒髪を風に踊らせながら、忘れることのできない妖艶な顔を覗かせてきた。


 逆原の体が震え、動悸が激しくなっている。


 鍵を捻ってもエンジンがかからない。


 黒装束の彼女は笑みを浮かべながら、歩いてくる。


 一歩、また一歩。近づいてくる。


 どうしてかからない。


 エンジンの次は、体が氷点下で固まったかのように動かせない。


 恐怖によって動かせないのか、彼女が動かないようにしてるのか分からない。


「……助けて」


 逆原の声が耳に入った瞬間、体の拘束が溶けた。


 逆原の手を握り、走り出したがすでに遅かった。


 彼女に後ろから抱きつかれていた。


「私を守ってみせなさい」

「あんた、誰なんだ」

「通り魔、兼、ストーリーテラー」


 耳元に囁かれる妖艶な声は、頭に直接響く声だ。


「……先輩から……は、なれろ……!」


 逆原が彼女の肩を掴んで、引き剥がそうとした瞬間、彼女が逆原を睨んでいた。


「だまってなさい、犬」


 逆原が突然気を失って、倒れた。


「あら、これだけで倒れるの。しょうがない。続きは昔の秘密基地に来てね」


 周りの人が倒れた逆原に駆け寄ってきて、電話でいろいろ話していた。

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