1 介入
世界が傾いた。
「あら、結構イケメンじゃない」
冷たいナイフを僕の鳩尾にグリグリと刺し込みながら、妖艶な黒装束の彼女は微笑んでいた。
「あんた、だれ」
「通り魔」
ふふっと笑い声を聞きつつ、世界が暗転した。
○
薬品の匂いが鼻を突き刺し、白い部屋に目を痛めた。視線を体に繋がる無数の管に落とし、機械音に耳を傾けた。
一週間前の深夜、駅への近道である路地裏を歩いてる時に犯人と遭遇し、鳩尾へナイフを突き立てられた。
犯行現場を目撃した酔っ払いのサラリーマンからの通報で、犯人は逃走を試みず逮捕となるが、素性を一切明かさず犯行動機も述べないそうだ。
「やーっと起きたー。もう午後に入ってますよ」
本人談、大学の後輩らしい茶髪のショートヘアーの女の子は、逆原流理と自己紹介を両親にしていた。
僕は逆原の顔の横の空間を見つつ「逆原、太っただろ」と言った。
通り魔に襲われ、一日眠りこけた後、僕には視界に入った人のステータスが、顔の隣に現れるようになった。
ステータスはその人について知りたいことを念じれば、体重、身長などの基礎的なことから、好きな食べ物や趣味まで分かる。
頬を林檎にして「…………変態」と言いつつ、花瓶の隣にあったお見舞いのリンゴに果物ナイフを突き立てた。
「た、確かに昨日より少しだけ増えましたが、変化に気づくなんてジロジロ見すぎなんじゃないですかー」
逆原がリンゴの皮を剥いて、口に運んでくれた。
「リンゴあんがと。んー、今の僕なら逆原の全部が分かる気がする」
「なな、な、何いってるんですか!頭のネジ無くしましたか!?今日の先輩おかしいですよ!えっと……いや、あ、か、か帰ります!」
リンゴの入った皿をどんと置いて、病室から出ていってしまった。
明日になればまた、ケロッとした表情で逆原は来てくれるだろう。
目を閉じて、安らかに世界は暗幕が下ろされた。