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ささくれ

作者: 覚岐ケイ

 覚岐ケイと申します。2015年初めての投稿になりますね。今年もよろしくお願いします。

 ささくれについて。作者はむかずにはいられない性質の人間です。地味に痛くて後悔しています。残酷な描写などはありませんが、いつも通り暗い内容なので苦手な方はご注意ください。それでも良いという方はお読みいただければ幸いです。


今すぐにこれより先には行けないけれど

先を眺めることはできる

全てを見通せるほど優れた目ではないけれど

全てに盲目ではない


それは振り返って見ても同じこと


これより前には行けないけれど

どんなふうだったか思い出すことはできる



例えば。


何時だったかは覚えていないけれどほら、

そこに餓鬼がいる

たったひとり

ひとりで勝手に転んで

そうして泣き喚く

やわな皮膚についたほんの些細な傷がぐずぐずと熱を出してしまって

もうそれが永遠に続くように思えて叫んだ、

餓鬼がいるんだ。

餓鬼はお母さんを呼んでいる

嫌に耳につく声音で

助けてくれ、と




して。


何時頃からだったかは覚えていないが

餓鬼は泣かなくなった

勝手に転び方を覚えて、転びにくくもなって

ほんの些細な傷でもぐずぐずと痛むことは変わらないのだけれど

何時の間にか永遠なんてないと気付いて

すごく先のことは見通せなくても少しあとのことには聡くなって

お母さん、が助けてくれなくても助かるから。

お母さん、はもう助けてくれないから。

ぐ、と堪えるようになったし

何時か堪えることすらしなくなった


それでいいのだろう

傷は、癒えるのだから



そうして。


痛みに泣き喚く餓鬼はいなくなったのか





ところで今。


この指先に白く飛び出るささくれは随分と主張的で。

是非に引っ張ってくれと言わんばかりだが。

それは即ち転ばずに済む所を転べと言うようなもので。

非合理極まりないことは言うまでもない。




だというのに。




先を眺めても全てが見通せるわけではない

前を振り返っても全てを思い出せるわけではない

永遠なんてないけれど

何時まで続くかも定かではない、そんな。

ぬるま湯のように曖昧な温度に浸っている


私は。


例え餓えた鬼でなくとも

お母さん助けて、と叫ぶのと同じくらいの

何かしらの餓えはあって、

埋め合わせるように貪る愛やら欲やら夢やらに加えて

ほんの些細な傷みを望むらしい



そうして。


永遠ではない先ではなく

選ばなかったもしもでもなく、もしもの先でもなく

痛みが縫い止める今、を望むらしい


それが、ぐずぐずとした痛みが、熱が、

この、どうしようもないぬるま湯を、僅かに温めてくれると期待して。





今、もまた。


ほんの少し飛び出たそれをなんとしても引っ張ってしまう、

理由、なんてものは多分、

その程度のことだ。




 お読みいただきありがとうございました。

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