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阿弥陀仏よ何処に  作者: ソンミン
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第三部第九章

 そして尊長らの思惑通りにことが進んだ。

 左様、十二月、伊賀局のお忍びでの六時礼賛興行参加が実行されるや、すぐに尊長らの謀はついに総仕上げに入る。

 すでに、慈円の影響力を利用し、比叡山を黙らせ、また、九条良経の死をきっかけに興福寺を黙らせた。こうして、代々、朝廷に横槍を入れてきた南都北嶺を政治の舞台から遠ざけた。

 最後の目標は、上皇と敵対する鎌倉武士団、そしてその彼らに着実に浸透しつつあった、第三の勢力、専修念仏教団であった。

 そして、彼らには、弾圧という強硬手段で、その影響力を排除にかかったのである……。

 十二月十五日、藤原定家の明月記に曰く、

「天晴れ。雪飛ぶ。院に参ず。留守殊に沙汰ある由、人々称す」

 都の辻々にお触書が出された。

 いっせいに……。

 あちこちに黒山の人だかりが見受けられる。

 そして、人々が口々に叫んでいる。

「専修念仏の停止が院宣として出された! 」

「何ということか!」

「しかし、念仏すべてが禁止されるわけではなかろう。高声念仏の禁止であろう」

「ともかくも、もはや、口に出して、南無阿弥陀仏とは言えないということだ!」

 都人たちの驚きは相当な者だった。

 都人たちから見れば、南都北嶺の荒くれ僧兵と違い、法然の専修念仏教団はまことに民衆に友好的で、病に、飢えに苦しむ人々に無償で薬を与え、食事を与えてくれる、とても善良な僧の集団であった。

 自分たちに危害を加えるような、そんな危険な集団ではありえないというのに……。

「そもそも、何故、そのような沙汰が御上から突然出されたのだ?」

「それが、何でも、六時礼賛で女犯が行われたのが、その理由だそうだ」

「それも、ただの、女犯ではない、何と驚くべき無かれ!相手は伊賀局様というからびっくりではないか!」

「そんなことがあろうはずはあるまい」

「いや、事実らしい。大胆なことをするものじゃ。所詮はあの者たちもただの色坊主であったということか」

 そんな都人たちの前を、安楽、住蓮、善綽、性願の四人は縄をかけられ、都大路を晒されながら、引っ立てられていった。

 向かうは京極の獄舎……。

 伊賀局が六時礼賛興行に参加した折、鹿ヶ谷の精舎にいたのが、この四名であった。善綽、性願は安楽、住蓮を補佐するために、たまたまいた。彼らは無論、伊賀局がお忍びで参加していたことすら知らないのであったが……。

 ともあれ、その精舎で、こともあろうに、伊賀局とお供の女官達が、この四人から女犯にあったと、後鳥羽院の耳に入ったのである。

 院の怒りは半端なものではなかった。

 そこで、この四人を引っ立てよ、という命令が出されたのである。

 そして、このたびの宣旨となったのだ。

「そんな馬鹿な!」

 京極の獄舎で奉仕活動をしていた応水の耳にも、すぐにこの情報は飛び込んだが、彼は知らせを聞いて、最初は一笑に付して本気にしなかった。

 安楽も住蓮もそんなことをするはずが無い、そのことはよく分かっていた。 

「しかし、あとの二人は?」

 法然門下にもいろんな弟子がいることは、ゆきから聞いて知っている。中には弟子と称して、よからぬことを企てる者もいるとか……。

 とすれば、誰かが勝手に、法然の弟子と称しての女犯もまったくありえない話ではない……。

 いや、多少の色恋ごとはあったとしても……。

「しかし、かりそめにも院の女御様を……」

 全く納得が行かなかった。

 いずれにしても何かの間違いであって欲しい!――ただそう祈るばかりであった。

 この宣旨の知らせは、法然の下にも届いた。

「そうか……」

 ただ、一言、そう呟くと、彼はそのまま押し黙った。周囲を取り巻く門弟達もただ溜息をつくばかりであった。

 後鳥羽院の勅命…。もはやこれに抗える者はいない。

 これは、法然教団への死の宣告であった。

 この日、京の都には、念仏信者の多くの忍び泣く声を、慰めんがごとく、一晩中しんしんと雪が降り積もったのであった。

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