第二部第三十三章
整理しよう……。
この日の事実経過はかくのごとくであった。
盛高との再会をいよいよ決意した住蓮は、斬られてもそれでよし、と覚悟を決めると、彼に会わんと、鹿ヶ谷の草庵から鴨の川原に出向いた。
盛高が巡回視察に訪れる時間はゆきから予め聞いておいた。
その途中、ゆき、次郎、三郎らが拠点としている吉水の救護所に立ち寄った。それは、盛高に斬られればもう彼らとも会えまい、という思いからであった。
救護所には、しかし次郎、三郎しかいなかった。つかの間、彼らと会話を交わした後、鴨の川原へ向かった。――死を決意して。
住蓮を見送った二人は、しかし、彼の表情からただならぬ雰囲気を感じていた。
「これは何事かあるに相違ない!」
そう直感で感じた彼らは、住蓮の後をつけて行ったのであった。
そして住蓮、盛高、二人の対面を草場の陰から見守っていたというわけである。
一方、ゆきはゆきで、盛高に会おうと、いつもの川原の場所に出向いた丁度その時、二人の対面の場に遭遇したのである。
そして結果、住蓮を斬らんとした盛高に向かって、次郎、三郎が突進して、彼を最後には投げ飛ばしてしまったというわけである。
「盛高様!」
投げ飛ばされてしまって動かない彼に、ゆきは無我夢中で駆け寄った。
「次郎さん、何てことするの!」
横たわって微動だにしない盛高を見て、はっと我に返った次郎もただうろたえるばかりであった。
住蓮だけが冷静だった。彼はすぐに盛高の脈を取ると、
「大丈夫だ、死んではいない!」
と、叫ぶや、次郎、三郎に、吉水の救護所への搬送を指示した。
「ともかくも、まず運ぼう。それとその従者の者も運ばねば」
清兵は、うーうーと唸っていたが、命に別状はなさそうだった。住蓮らは周囲の顔なじみの河原者たちに声をかけ協力を依頼した。皆は快く引き受けてくれた。
こうして、皆で、二人を戸板に乗せ、吉水へと向かった。
住蓮の心情は複雑だった。
「今こそすべてを語る時だ。今語らずしていつ語りえよう!」
そう決意すると、彼は搬送の道すがら、ゆき、次郎、三郎に、盛高と自分にまつわるすべての事情を説明した。
「何とまあそのようなことが!」
ゆきは大きい衝撃を受けた。
「まさか自分の愛する人が、かって自分の愛した人を敵として狙っていたなどとは…」
住蓮から事の次第を告げられると、ゆきは大きくため息をついた。
「盛高様が、もっと自分の過去のことを語ってくれてさえいれば…。そうであれば、私が、住蓮様との間を取り成すことも出来たでしょうに。すべての誤解を解くことが出来たでしょうに!」
そう言いつつ動揺するゆきを「すまぬ!それがしがすべて悪いのだ!許してほしい!」と言って、慰めながら、一方で住蓮は、事態の処理をどうしたものか思案していた。
「院の御所の武者を怪我させたとあってはただでは済むまい…。ここは安楽の知恵を借りねばなるまい」
住蓮はそう思案しつつも、今後の事態の展開に不安を抱きながら、吉水への道を皆と共にひた走った。