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イカ釣り編 プロローグ

 イカ釣り編全編で原稿用紙300枚を超える予定

 投稿方式の切り替えについてはあとがき参照してください

「イペンサ様、何日も何日もいつまで釣りしてるんですか? 働いてください!」


 燦々(さんさん)と太陽が照りつける海原を前に、俺は釣竿を振ると竿掛けに掛け、浮きを眺めつつエールを呷る。そしてゆっくりと携帯寝椅子に寄りかかると、手元の本を手に取る。これぞ至高の時間である。


 俺の隣には年の頃13程の少女が3人も並んでいる。肌は浅黒く健康的に焼け、如何にも漁村の少女という風情である。13といえば思春期に入った生意気な年頃である。老骨に鞭打つのも仕方の無い事と諦めよう。一番生真面目で生意気なのがヌイ、笑いながらそれを茶化すのがルサ、それを気にせずボヤっ浮きをと眺めているのがジキである。


 それぞれの外見は、ヌイは平民には珍しい金髪を肩まで伸ばした中肉中背で胸も普通の少女である。ルサは栗毛が顎に掛かる程度のショートヘアーで、体つきは普通だが女としては高身長で胸はない。ジキは黒髪を肩甲骨まで伸ばしたチビスケで胸もない。


 俺は別に好きでこのような少女をまとわり付かせているのではない、押し付けられたのである。ヌマヌッシー釣りから1ヶ月程で各地の拠点を回った。そうすると、各地で協力者の弟子を押し付けられてしまった。見聞を広げるために旅につき合わせてくれとの事だが、何でメスガキばかり押し付けるのか理解できない。むしろ理解したくない。男手が貴重なんだろうと思って置くことにした。


 俺の好みはリオカさんのような包容力のある落ち着いた美人であって、成人すらしていないガキに食指が動いたりしない。この辺りの漁師は普通なら15で成人し、独立を果たす。男でも女でも同じである。見聞を広げるにはちょうどいい時期かもしれない。


「働いたじゃないか、1ヶ月も、だいたい釣り師は釣りが仕事だ」


 そう俺は釣り師なのだ。釣りをしていて文句言われる筋合いは無い。大体俺は疲れてるんだよ。シハヤの町を出て約一ヶ月の間に拠点3箇所を回って来たのだ。


「普段なら狙った魚をあっという間に釣り上げるじゃないですか、何ゆったりしてるんですか! そもそも各村についても、宴会で歓迎されて酒を飲みつつ皆の話を聞いているだけで、各村の移動も貿易船で村の生産物と一緒に、運ばれているだけじゃないですか!」


 まったくなんと風情の無いことを言うのか! 生活に追われる釣りなんて楽しくもなんとも無いではないか! 品物と一緒に運ばれているだけって行商人の人生を全否定しているぞ。


「イペンサさんも大変ですね。もっと気ままな旅暮らしをしているのかと思ったのですが、違うんですね」


 ヌイの様子を気にした風も無く、そう声をかけてきたのはブルーノだ。俺と同じく釣竿を掛けて、のんびりと釣りをしている。年齢は確か18くらいである。肌が白く日に焼かれ赤みが差している。金髪碧眼の絵に描いたような貴族姿で見目麗しい。当然貴族である。


「そうだよ、ここ1ヶ月の間ここらを駆けずり回る前は、新しい燻製工房の立ち上げで泣きそうだったよ」


 そうシハヤで5週間働き詰め、その後一ヶ月も小娘つきで行商の旅だったのである。例えシハヤで爺の老骨に鞭打ちつつ背中押しまくっていただけでも! 村に着けば毎晩村人と酒飲んでいるだけにしても! 小娘付きで貿易船に乗ってしまえば操船に関わることなく、海を眺めて釣りをするだけだとしても! 俺は休み無く働いていたのだ!


「へえ、それは楽しみだな、どこで立ち上げたんです?」


 ブルーノは俺の作る燻製の味を知っている。本当に楽しみそうに聞いて来る。燻製なんて日持ちするものは、貴族にとっては安いので興味を引くものでもないのだが、こいつは変り種である。


「シハヤの町外れに工房作った。まだ小さいし、今回重視したのは保存性だ。余裕も無いから味は普通だな。まあ、魚醤を使った仕込み液は教えてきた。内陸地だからな川魚とかワニとかを扱ってるのが、こことの違いだ」


 今現在居るのは、ガシ国東部サカーワ公爵領外れにある小さな村の海産物燻製工房である。俺がここに居ることを何所からか聞きつけたブルーノが、俺の隣に座って釣り糸を垂らし始めたのだ。ブルーノの好物は魚である。特に燻製が好きで高価なスモークチップを持ち込んで、ここで作らせていたりするのが出会った切っ掛けであった。俺が珍しい魚や魔物を釣り上げると必ずといっていいほど味見をしたがる。美食家が高じて釣りをやるようになったタイプで、釣り好きが高じて料理の腕が上がった俺の逆を行くのだが相性は悪くない。


「ヌマワタリの燻製もありますか?」


 流石は貴族だ。地元以外の食材まで知っているとは。輸送費で高くなるから、早々出回るものではない。


「あるよ。話は変わるが、こんな所で釣りしていていいのか? 忙しいんじゃないか?」


「へえ、今度取り寄せよう」なんて言っているブルーノだが、貴族も15で成人である。18と言えば職に就いていても可笑おかしくはない。田舎の村で何やっているんだか。


「ああ、学業も修めてしまいまして、とうとう働かなければならなくなりました。今は職探しの時期ですね。出来れば役職もちになりたいところです」


 貴族の教育は基本は15までに修めるものだ。しかし国のために働く役職持ちになるためには、更に数年の専門教育が必要となる。何所まで学ぶかは貴族の格で大体決まる。今までこいつは親のすねかじっていたわけである。


「おい、お前ら見聞を広げる時間だぞ、今日は貴族についてお勉強だ。ちょうど実例が隣に居る」


 そうして隣で詰まらなさそうにしていた三人娘に声をかける。まずは貴族について爵位の順番から教える。上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士爵が基本的なところである。他にも辺境伯や大公など国によっては無い爵位などがある。彼らの役割は政治家である。この国では騎士を除く上位の貴族は、100人以上の人の生活をまとめることとなる。等と話していると、三人娘は先ほどの空気と打って変わって真面目に聞き入っている。彼女らは村の交渉役にでもなるつもりだろうか? まあ、話したことが無駄にならないならいいことか。


「でだ、ブルーノは公爵家の三男だ。普通貴族相手にこんな口の利き方したら、まず間違いなく殺される。ブルーノが相手でも他に他人の目の有る所だと、今と同じような口利いたら殺される。つまり口の利き方一つで相手を殺さなきゃいけない生き物だ。わかったか?」


 三人娘は恐ろしい魔物でも見るかのようにブルーノを見た。それに対してブルーノは苦笑するだけで否定はしない。ジキの手が挙がる。


「イペンサ様は、何で殺されてないの?」


 尤もな疑問だ。だがな。


「知らん、本人に聞け」


 三人娘は硬直してブルーノを見つめるだけである。下手な口の利き方をして殺されたくは無いのだろう。視線のみの問いかけにブルーノは苦笑したまま答えた。


「個人的にイペンサさんは貴重な人物だと思うので、ぞんざいな口を利くくらいの権利はあるかと思うからです。但し公の場で同じ口調だと、おっしゃられた通り処刑しなければなりませんが、口の利き方一つで殺さなければならないのは本位ではないんですよ」


 こいつは堅苦しい言葉遣いも好きではないようだからな、気を遣わなくて住む流れ者相手だからこうなのだ。定住しているとどうしても噂が立つからな。どうも俺を兄貴分か何かと見ているらしい。


「イペンサ様は貴族様と喋る時どうしているのですか?」


 これはヌイの質問だ。だが残念ながらまともな口の利き方なんて知らない。


「逃げる。隠れる。代理を立てる。この三つで大体何とかなる。村の交渉役とかになるとそうは行かないから、お上品な口の利き方も覚えておけ」


 三人娘は俺の回答に不満そうだが、それは俺の知ったことではない。貴族相手の出入り商人にでも教えてもらってくれ。


「またまた、イペンサさんも十分礼儀作法を心得ているじゃないですか、うちの父上相手にしても問題ないくらい」


 流石にブルーノ相手でも初対面のときは少々気を使った。俺の首を切るだけならともかく燻製工房ごと焼かれてはたまらない。


「宰相閣下と口を利くなんてのは御免だ」


 その一言で更に三人娘が凍りつく、「宰相」の一言はかなり効いた様だ。「この人何でこんなところにいるの!」っと無言で悲鳴を上げている。そんな様子をロタが無関心に見つめている。暇らしくお昼寝中の寝ぼけた顔だ。


「お前達の心の疑問に答えるとだ。ブルーノの好物は魚で、しかも燻製にしたものが好きだ。燻製といえば普通は保存に適した冷燻れいくんだが、ブルーノはここの燻製を食べて気に入ったらしくてな、熱燻ねっくん温燻おんくんを作ってくれと訪ねて来たんだ。だからここの無作法にも少しは慣れている。人目が無ければ口の利き方を間違えても問題ない。人目があれば口は閉じとくのが楽だ」


 三人娘は俺の言葉に安堵したらしい、一気に肩から緊張が抜け落ちる。とはいえ、全ての緊張感も抜け落ちた訳ではなく、そこそこの緊張感を保てているようだ。


「ここは冷燻ばかり作ってますよ、美味しい熱燻料理なんて作れないと思うんですけど?」


 ここの工房の弟子であるジキがまたしても質問した。こいつは好奇心旺盛おうせいなんだよな。


「ああ、たまたま俺が居たから、俺が作った。それ以来付きまとわれる様になった。お前も将来こうなるってことだ」


 貴族が身近に居ることを想像したのかジキの顔色が悪くなった。悪質なストーカーに付き纏われる女の子のごとく実に嫌そうだ。しかも本人目の前に嫌な顔出来ないとか、まったく持って悪質である。ジキよ顔に出てるぞ! その無表情っぷりが心情を物語っているぞ! 流石小娘まだまだ甘い。俺の身代わり頑張ってくれ。


「はて? 彼女に熱燻料理を教えているのですか?」


 ブルーノはジキの反応など眼中に無く、俺の燻製料理が教えられている点が気に掛かるようだ。俺の言い回しに早速食い付いてきた。


「その通りだ。俺の周囲で物事覚えるなら、ここでやっている事を教えることも無いからな」


「ほう、それは楽しみですね」


 ジキを囮にすべく肯定した言葉に、ブルーノは満面の笑顔で将来設計しているようだ。お抱え料理人にでもしたいのだろうが、燻製職人は燻製しか作れない。燻製販売店でも作る気だろうか?


 そこで犬の鳴き声がした。ワンワンと騒がしい


「何事でしょう?」


 この声はロコだな、俺の使っている伝令犬である。俺は首にかけた犬笛を鳴らした。そうしてすぐにロコが全速力でこちらに駆けて来るのが見える。何か新しい情報を持ってきたのだろう。

 月一で長編を一本投稿する形にしたかったのですが、長くなりすぎたことと、小説家になろうのシステム上連続して投稿しないと人の目に触れる機会がかなり少なくなるようなので、ある程度書き上げてから連続投稿するように方針転換しました。


 序盤のプロットはほぼ決まっているので、大きな変更は発生しません。但し微細な変更は発生します。気になる方は投稿が終わってから読むことをお勧めします。


 連日一本は投稿する予定です。一回あたりの投稿量は未定ですが、今回の投稿が短いのはプロローグだからです。


投稿日:2013/08/17

第一回訂正:2013/08/17

 誤字脱字言い回しの修正


追伸:細かく区切って投稿したほうが、修正が楽なことに気が付きました。細切れにしてお届けするかもしれません


第二回訂正:2013/08/22

 句読点を修正

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