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ALC0385⇔王立図書館

 次の日の早朝。

 国境の街ベンドーを出発した私達は東に約250ULウムラウトほどにある首都へと向かった。

 今までの荒野の旅とは違い舗装された道を半日ほど歩けば到着する距離だ。

 当然フィールドでは何度かモンスターとの遭遇があったが、荒野で遭遇したモンスターと比べ格段に弱い。

 一番低レベルの玉アイテムでも対応出来るほどだから驚きだ。


「どうして首都に近付くにつれて弱いモンスターしか出て来ないのかしら……」


 当然の疑問を呟く私。


「それがこの国でブラックユニコーンが『神獣』として崇められている所以だろうな」


「え? ……ああ、そういうことね」


 横を歩く水島の言わんとしていることを即座に理解する私。

 要は守られているのだ。

 神獣という脅威に、他のモンスター共は首都へと近づけない――。

 取るに足らない雑魚モンスターのみが徘徊している理由はこれか。


「でも、そのブラックさんはモンスターなのですよね? その方自身が首都や街々を襲ったりはしないのでしょうか」


 首を傾げながら女神が会話に加わって来る。

 しかし女神の言う事ももっともだ。


(ブラックユニコーンが首都を襲わない理由、か……)


 そこに何か道筋があるのだろうか。

 感染拡大を防ぎ、人々を救うことの出来る道筋が――。


「まずは予定どおり首都へと着いたら情報集めからだな。あの街には世界でも有数な王立図書館が今でも残っているらしい。随分と古い建物らしいが、そこに行けば神獣に対する資料くらいはいくらでも置いてあるだろう」


「王立図書館? ユーフェリウスってたしか共和国だったわよね」


「大昔から共和国だった訳が無いだろう。幾度となく国同士の戦争を繰り返し、その後、今の形に落ち着いたという訳だ。そういう設定の国、といえばお前でも分かるだろう?」


 ニヤリと口元に笑みを浮かべながらそう答える水島。

 恐らく初期からオンラインの世界でプレイしていたプレイヤーにとっては、当然の如く耳に入る情報なのだろう。


「なんだかワクワクして来ますねぇ……! オフラインの世界の神である私が、もしかしたらオンラインの世界の神様に出会えるかも知れないのですからねぇ……!」


 クルクルと回りながら歓喜の声を上げる女神。

 しかし、神獣はユーフェリウス共和国の神であることには違いないのだが、オンラインの世界での神であるとは一言も言っていない。

 でもまあいいか。

 彼女に説明した所でどうにもならないだろうし。


 苦笑いをしながらも、私は喜ぶ女神の後姿を眺めている。

 ふと横に視線を移すと、水島もなんだか笑っているように見えた。

 私の視線に気付き慌てて表情を引き締める水島。

 なんだ、そういう笑顔も出来るのか。

 いつもの卑屈な笑みではなくて、そっちの方が自然でいいのに。


(素直じゃないわね、と言いたいところだけど……)


 視線が合ったときに表情を引き締めてしまったのは私も一緒だ。

 すぐさま興味のない振りをして、何事も無かったかのように前方へと視線を戻した。


「神様~♪ ゴッド~♪ 私は女神~♪ 貴方は神獣~♪」


 なんだか良く分からない歌を口ずさみながら、女神はスキップで先を進む。

 その姿を見た私と水島は同時に溜息を吐いてしまう。


「……」


「……」


 私達の間に微妙な空気が流れる。

 

 その後、首都に到着するまでの間、私達は何故かお互いに無口になってしまったのは言うまでも無く――。



◇◆◇◆



 ユーフェリウス共和国の首都ノア。

 共和国の首都にも関わらず、あちらこちらに宮殿状の建物が見える。

 少し小高い丘の上に建っている一際大きな建物が王立図書館らしい。

 この国がまだ王国だった時代の王宮の名残を、後世の首相がそのまま王立図書館として利用したのだとか。


(でも、ノアって名前……。このゲームの製作者って相変わらず名称にこだわるのね)


 昔なにかの本で読んだことがある。

 ノアの箱舟に乗せられたありとあらゆる生物達。

 しかし凶暴な性格であったユニコーンは他種族を攻撃した為に箱舟に乗ることは無かった。

 だから今ではユニコーンは生存しない種族であると――。


(まあ、御伽噺なんだろうけど、今は少しでも情報が欲しいからね……)


 誰に言い訳をするでもなく、私は心の中でそっと呟く。


「じゃあ、私は宿を取っておきますね。お夕飯の準備もしておきますから、ゆっくり探してきて下さいねー」


 大きく手を振りながら女神は中央通りの方角へと去って行く。

 早朝にベンドーを出発したお陰でまだ日は高いままだ。

 あと数時間ほどで日が暮れるだろうが、それまでには戻れるだろう。


「行きましょうか」


 なにやら思案顔の水島に声を掛ける。

 どうせまたろくでもない事を考えているのだろう。

 彼を置き、王立図書館までの坂道を進む私。


「久慈原早苗」


「え? なに?」


 いきなり声を掛けられ驚き振り向く。

 相も変わらず思案顔の水島。

 なんだろう。

 何か言いたげな顔だ。


「……いや、なんでもない。行くか」


 そのまま私の脇をすり抜け、先に行ってしまう水島。

 あっけに取られ、一瞬だけ立ち尽くしてしまう私。


「……なんなのよ一体……」


 訳も分からず、それでも私は水島の後に続く。

 どうせ今から聞いても何も答えてはくれない。

 彼はそういう男だ。

 この数ヶ月の間にそれくらいは理解した。


 

 そしてまた無言の中、私達は王立図書館へと向かった。 


















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