ALC0920⇔無事《ヘブンズ》に到着しました
街を出発してから11日目。
途中悪天候に見舞われ船での出港が1日遅れはしたものの。
私達は無事《ヘブンズ》の最南端にある船着場まで到着した。
が――。
「何なんだよこれ……」
ゼギルの言葉同様、皆が上空に視線を向け絶句している。
「はは……。あれ? 私、寝ぼけてんのかな……」
何度目を擦っても、上空に浮かぶ『それ』は無くならない。
空を覆いつくす黒雲の隙間に見える『それ』。
ていうかどうやってあそこまで行くの?
「流石にこれは参ったね……。まさか魔王城自体が空を飛んでいるとは予想しなかったから」
完全にお手上げポーズのルーファス。
しかしそれも致し方の無い事だ。
王家からの報告では『ヘブンズ上空に5000UL程の巨大な黒雲が』としか無かったのだから。
「うーん。特に階段の様な物も見られませんし……。どうやって向かったら宜しいのでしょうかね……」
アーネルが小首を傾げて思案顔をしている。
流石の素敵錬金術師であられます私でも、まだ人が空を飛べる様な錬金アイテムとかは作った事が無いし……。
「レミル。何か無い? 魔王城まで行けそうな錬金アイテム」
「簡単に言ってくれるわね……。うーむ……」
ウインドウを開き顎に手を乗せこちらも思案顔のレミル。
画面にはびっしりと錬金アイテムが犇いている。
私は彼女の肩から一緒に画面を覗いている。
「……『堕天使の飛翔玉』は跳躍力を飛躍的に高めるけど、流石にあの高さまでは飛べないしな……」
「これは? この『暴食無粋の風船玉』は? たしかこれって一定時間巨大化出来る錬金アイテムだったよね。これをレミルに使ってお腹ぼよよーんのデブレミルのお腹に皆乗ってトランポリンみたいにして、それでさっきの『堕天使の飛翔玉』を使って跳躍すれば……」
「ああ、そうね。私ちょうど最近お腹まわりがぽっちゃりしてきたし、この『玉』を使えばトランポリン代わりに丁度良い……訳ねぇだろうがあああああああああああああああああああああああ!!!」
鬼の様な形相で追いかけて来るレミルと兎の様に逃げる私。
「れみるきょだいかするのか。くまごろうとどっちがおおきいんだ?」
「巨大化しない!!」
私の首根っこを掴んだレミルがケリーに向かい吠える。
いちゃい。
爪が首に食い込んでて凄くいちゃい。
「ん……? 巨大化……? 確か……」
レミルに抱えられたままウインドウを開く私。
そういえばまだ試作途中のアレがあったな。
いっちょ試しに使ってみようかな。
「別に私だって太りたくて太っている訳じゃ無いんだから……。これでも最近はちょっと痩せてきたって言うのに……ぶつぶつぶつ……」
「レミルさんは別に太ってなんかいないと思いますよ? それにレミルさんのぽっちゃりお腹は何か安心感があるというか、包容感があるというか……」
思いっきり地雷を踏んだアーネルにレミルの殺意は向けられる。
私はその間にレミルの魔の手から逃れ『玉』を具現化する。
「さっきから何をやってんだよお前らは……」
ゼギルが呆れ顔で溜息を吐きながらもそう言う。
「はは、良いじゃないかゼギル。女性同士のイチャイチャは見ていて目の保養になるし」
きゃーきゃー言いながら逃げ回っているアーネルと真っ赤な炎に包まれた般若顔のレミルに視線を向けながらも、爽やかにそう言うルーファス。
私は彼らに苦笑しながらも手に持った『玉』を遠くに投げる。
ぼん、という音と共に現れたのは――。
「うわあ! すごいぞさなえ! おおきなきだ! きがはえてきた!」
大はしゃぎのケリーの視線の先に現れたのは、地面に大きく根を張り急速に成長していく大木。
少し成長スピードの調整を間違えた試作品である『万年樹の緑地玉』だ。
……いや、大分調整を間違えた、と訂正した方が良いかな。
本来はある程度急速成長したらそこで停止して、緑の少ない土地で緑化活動の手助けにと思って作った錬金アイテムだったのだけれど。
「おいおいおいおい……。あの大木……一体何処まで成長しやがるんだよ……」
延々と天高く伸長を続ける万年樹。
うん。
多分成長限界のリミッターが外れちゃったんだねアレ。
やっぱ追加素材に『進化竜の癌細胞』とかいう謎の錬金アイテムを混ぜたのが原因かしら。
普通の錬金に調合するのがちょっと怖くて「木なら別に問題ないっしょ」とか勝手に決断下して混ぜ混ぜしちゃったからな。
果てしなく成長を続ける万年樹は遂に――。
「おや? 魔王城にぶち当たったら成長が止まったみたいだよ? これを登って行けば、魔王城に入る事が出来そうだね。皆、足元に注意して早速向かおうじゃないか」
ルーファスの掛け声と共に皆の視線が一つに集まる。
「……まさか最後は木登りで魔王城に向かう事になるなんて……」
「いいじゃんレミル。木登りって凄く筋力使うから滅茶苦茶ダイエットには効果的なんだよ? せっかくだしレミルは3往復くらいした方がああああーーーーーーーーーーー!」
レミルに関節を決められ悶絶する私。
折れる……!
腕が、折れる……助けて……!
「何だか今日はレミルさんがお元気ですよね……。嗚呼……私もお尻を抓られて凄く痛いです……。後でヒール掛けておこう……」
尻を摩りながらも涙目でそう言うアーネル。
暴力反対。
誰かこの子を止めてくだしゃい。
「ほら、皆気持ちを引き締めて。ここから先、どんなトラップが仕掛けられているのかも分らないんだ。ゼギルを先頭に慎重に登って行こう。僕は最後尾を担当する。アーネルはパーティ全体に一応《防護結界》を張り続けてもらえるかい?」
「分りやしたぜ」「はい。分りました」
ゼギルとアーネルの返事にようやく手を止めたレミル。
私も後でアーネルにヒール掛けてもらおう……。
「それではいざ、魔王城に」
ルーファスの掛け声で、私達は木登りを開始する。
◆◇◆◇
「ぜーはー! ぜーはー!」
「うるさいわねレミル! 私だってきっついんだからその『ぜーはー! ぜーはー!』ってやめてくれるかな!」
「そんな……こと……言われ……たって……」
息も絶え絶えな錬金術師の女子が2人。
先頭を行くゼギルはもう随分先まで登ってしまっている。
それに続くケリーもアーネルも身軽にかなり上まで登っているし。
ていうかやっぱアーネルは普段から運動を欠かさずやっているなアレは。
だからこそのあのプロポーションなのだ。
普段から錬金室に閉じこもっている私やレミルとは大違いな運動能力。
あれか。
出来る《治癒士》というのは身体能力も高いのか。
「はは、息も絶え絶えな女性って凄く淫猥に見えるから不思議だよね」
私のすぐ後ろでルーファスが爽やかに爽やかでは無い事をほざいている。
「だから上を向くなっつってんの! お尻を見るんじゃないルーファス!」
まさかこれを『計算』して最後尾の担当を買って出た訳ではあるまいが、ルーファスなだけに色々と勘繰ってしまう私。
「そうは言ってもサナエ。上を向かないと登れないじゃないか」
「いいから! 心の目を使って登れば良いじゃないのよ! あ、こら! だから上を向くなと……あ!」
つい声を荒げた瞬間、足を滑らせてしまった私。
「おっと」
すぐ下にいたルーファスが私をキャッチ。
危ない……!
死ぬかとオモタ……!
「大丈夫ですか? お嬢様」
「う・・・」
器用に両足のみで木に掴まり、両手で私をお姫様抱っこの形で受け止めてくれたルーファス。
やばい……! これ凄い恥ずかしい……!
「……あ、ありがとう」
「どういたしまして」
ニコっと笑ったその顔に赤面してしまう私。
くそ! 何だよこのニコポはっ!
抱っこされてニコポってなんだよ!
ダコポかよ!
「……」
何かそのまま黙って私を見つめて来るイケメン金髪紳士がいるのですが。
え? 何?
なんで顔を近づけてくるの?
「(ちょっとルーファス!)」
え? ここで? この状況で?
駄目駄目! 皆に見られるからアカンだろ!
「……この戦いが終わったら君は……」
「え?」
ルーファスが何かを呟く。
ごめん。私テンパッちゃって全然聞こえなかった。
ていうか顔を離して……!
レミル……! 今、下を向くんじゃねえぞ!!
「サナエ……」
「(ちょっと待っ……ん……)」
時、既に遅し。
だあああ! ここでするんじゃない!
レミル! 絶対下を向くなよ!
数秒間の接吻――。
私はこの数秒間が永遠に続くかと思うほど長く感じた訳で――。
でも、なんだろう。
いつものキスとは違う、ルーファスの寂しさの様なものを感じるキス。
うーん?
錬金リスト 《オリジナル錬金》 【万年樹の緑地玉】 ALC770
【錬金素材】
怪蔦鳥の伸長蔦(アイビーバード/rare)×5
成長促進剤(錬金アイテム)×18
巨木人の脊樹髄(グランツリーゴーレム/rare)×12
ラッグデッグの根っこ(錬金アイテム)×5
【武器強化素材】
両手杖強化素材×12
【追加素材】
進化竜の癌細胞(レグザイムドラゴン/rare)×2
【錬金イメージ】
千年樹




