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ALC0920⇔1年ぶりにあの女神と再会しました

「さて、と……」


 遠征用の準備を全て済ませた私は、気を引き締め店を後にする。


 街の住人達にも既に挨拶は済ませておいた。

 お店の方は今まで通り、ジュリアとルーリーが上手く回してくれるだろう。

 この数ヶ月間で彼女らも随分と店員らしくなった。

 

 ジュリアはいずれ、私の様な『錬金術師』になりたいと言ってくれた。

 人々を助け続ける私の姿に感銘を受けたそうだ。

 そして、恐らくは今後、ケリーの病気を支えて行きたいと考えているのだろう。

 あの2人ならば凄くお似合いだな、と私は微笑んでしまう。


 ルーリーは実家の洋裁店を引き継ぎ、いずれは立派な『洋裁師ドレスメイカー』として成長を遂げるのだろう。

 彼女の服飾のセンスはなかなかだと思う。

 もしも叶うのならば、玲子にも会わせてやりたい。

 きっと話に華が咲く事だろうと思う。


「クンクン」


「うん。今回もばっちしくまごろうには活躍して貰うからね」


 懐にいるくまごろうの頭を優しく撫でる私。

 この子はいつも私の気持ちを敏感に察してくれる。

 もしかしたら『命』だけではなく『心』も繋がっているのかもしれないな、とふと思ってしまう。



 大通りを抜け、街の東に位置する大きな門まで向かう。

 すがすがしい風が私の頬を過ぎ去って行く。

 

 この異世界に来てから1年半が経過した。

 1周目で半年、そして2周目で丸1年。

 本当にあっと言う間に時は過ぎて行った。

 ここでの1年半の生活は、果たして現実でも1年半が経過しているという事になるのだろうか。

 

 そう思いに耽っていると、足元に映る雲の影がせわしなく動いている事に気付く。


「ああ……そうか。そう言えばそんな事を・・・・・言っていたわよね・・・・・・・・……」


 誰に言うわけでもなく一人そう呟く私。

 上空に視線を向けると、雲が一箇所に集まり。

 そして徐々に人の形へと変化して行く。


『パンパカパーン! おめでとう御座いまーす!』


 突如私の脳内にテンションアゲアゲの女の声が木霊する。

 辺りを見回しても、私以外誰もこの声に反応していないのが分る。

 そう。

 私にしか見えないし、私にしか聞こえない声。


「……何が『おめでとう』なのよ。これから大魔王を倒さなきゃいけないってのに……」


 溜息を吐きながらも上空の大女――女神に向かい話しかける私。


『うっわ……うっわ、うっわ……。せっかく異世界生活を無事丸1年経過出来たお祝いを、と思って言ってあげたのに……。思いっきし溜息吐かれたし……』


 大きく肩を落とす女神。

 いまいちこいつの心の内が読めなくて困る。


「いいから。説明をしに出て来たんでしょう? 早くして」


『う……。貴女って絶対Sよね……。女神の私にその態度って……。天罰が下っても知らな』


「いいから早く」


『……はい』


 口を尖らせながらも女神は説明を始める。


『……じゃあ、改めまして。……パンパカパーン! おめでとう御座いまーす! 遂に貴女はこの《グランドレグザイム》にて、様々な出会い、別れを繰り返した後! 1年間の異世界生活を無事終え! イケメンやショタっ子共をはべらし! 逆ハー万歳きゃっきゃうふふを堪能し! 遂に! つ・い・に! ここまでやって来る事が出来ました! おめでとう~! パフパフ~!』


「・・・」


『うん! 相変わらず反応が薄いね! でも私はめげないよ!』


「・・・」


『えーと……原稿原稿……こほん。そして遂に! 最後の難関である一大イベント! あの忌まわしき大魔王を打ち倒すクエストが発生してしまいました! え~? 嘘~? ホント~? やだ私こわーい!』


「・・・」


『うん……。もうちょっと……うん。……えと、続き行きますよ……?』


「・・・」


『ええと……。そして仲間と共にこの悪しき大魔王を打ち倒し! 皆との友情が最高潮まで高まったその時! 貴女は大きな決断を下さなくてはなりません!』


 大きな決断……。

 そう。

 私の心が大きく揺れ動く、『大きな決断』。


『……あれ? ……あそっか。これ前に質問されてネタバレしちゃってたんだっけ……。だから原稿と違う質問とかされると困るのよね……。私、アドリブとか超弱いし……』


「いいから。もう一回聞いてあげるから続けなさい」


『……はい。ていうか女神に命令してる貴女が凄く怖い……』


 完全に萎縮してしまったこの世界の神。

 いや、『女神』とはいえ所詮はゲーム内に設定されただけの存在なのだ。

 ただのシステム、と言ってしまえばそれまでなのだが、流石にそれは可哀相か。


『えと、どこからだっけ……あ、ここからか。こほん……。……皆との友情が最高潮まで高まったその時! 貴女は大きな決断を下さなくてはなりません! それはこのまま平和になった《オフライン》の世界で生涯を幸せに暮らしていくのか! それともセーブデータを持ち越して荒廃した《オンライン》の世界へと旅立つのか!』


 台詞通りに喋って行く女神。

 このまま《オフライン》の世界で、ルーファスらと幸せな日々を過ごしていくのか。

 それとも《オンライン》の世界に飛び、庵らと合流し、このゲームの世界から抜け出すための方法を探すのか。


『あれ? その顔はちょっと悩んじゃってる顔かな? 何かここ・・で良い事でもあったの?』


「……」


『う……すんません……。ええと、言い漏らしは……無いよね。うん。うん。大丈夫。私完璧』


 そう言い胸を撫で下ろした女神。

 何だか憎めないが仕事は出来ない感じだ。

 相変わらず。


『ええと……という訳で! 最後の難関クエストである《大魔王討伐イベント》! 是非とも頑張ってクリアしてね! 今度はクリア後の《エンドロール》で会いましょうね! それではまたお会い出来るその時まで! See you again!』


 最後まで台詞通りに言い終わった女神は、満足そうな表情でガッツポーズを取りながら徐々に雲の形に変わって行き。

 そして数秒後には何も無い、平穏な空の様子に戻って行く。


「……はぁ」


 大きく溜息を吐いた私は、再度東門へと歩を進める。


 

 数分ほど歩くと、門の手前で手を振っている皆が見える。

 ルーファス。ゼギル。アーネル。ケリー。レミル。

 皆が私を待っていてくれたみたいだ。


 私は、選べるのだろうか。

 《オフライン》での彼らとの生活か。

 それとも当初の目的であった《オンライン》での庵、堀沢、玲子との再会か。


 それに『水島健二』――。



 私は彼らに笑顔で手を振りながらも――。



 ――最後に訪れるであろう『最大の選択肢』に心が揺れてしまっていた。
















 

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