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ALC0915⇔とうとうこの日が訪れてしまいました

 《ルルッカ湿原》へと採集クエストに向かってから、更に3ヶ月の月日が流れた。


 『青の奇跡』ことペニシリンは四大伯爵家と王家の連携により瞬く間に国内に広まって行き。

 目に見えて感染症による死者数は減って行く事になる。


 この調子で行けば量産体勢も整い、いずれは国外にも広まっていく事だろう。

 既に幾つかの国では試験的に患者に処方が施されている。


 世界各国の錬金術師達が中心となり広まった『青の奇跡』を広める運動は『ブルーワンダース運動』と呼ばれ。

 その国境を越えた運動はまるで、私の世界にも存在した『国境を超えた医師団』の様にも見えた。


 そして、私は――。




◆◇◆◇




「ルーファス様。ただ今王家から入った情報によりますと、未開拓の地《ヘブンズ》にて原因不明の異常気象が観測されたとの事で御座います」


 アルルハイド家のお屋敷でお茶をご馳走になっていたある日。

 怪訝な表情でそう答えるメリウスさんに皆の視線が集まる。


「《ヘブンズ》で異常気象……。ふむ……。確かあの地はレグザイム神話の謎が眠っている『古代遺跡群』が広がる跡地だから『世界遺産』に指定されている土地だったよね」


 眉を潜めながらもそう答えるルーファス。

 この『時期』に、曰くがありそうな土地での異常気象……。


「……ルーファス……」


 私は堪らずルーファスの名をそっと呼ぶ。


「……うん。分かっている。……で? 王家はなんと?」


 メリウスさんに先を促すルーファス。

 ゼギルやケリーも談話室にいるが、2人とも雰囲気を察してかじっと黙って話を聞いている。


「はい。異常気象の起きた場所が場所だけに王家も迂闊に動く事が出来ないみたいで御座いますな。そして王家も当然『こちらの事』は十二分に理解しております故……」


 言い辛そうに私に視線を向けるメリウスさん。

 私はこのジェスチャーで全てを悟った。


「……はぁ。なるほどね。要はまたサナエの『知識』を借りたいという訳だ。最近の王家はたるんでやしないかい? 『異常』だとか『未知』だとかの単語が出ると、すぐにこちらに案件を回して来る」


「私もそうは思いますが、これも今までのサナエお嬢様の『実績』を考えると致し方の無い事では無いでしょうか」


「しかしそれにしたって……」


 ルーファスが私を擁護してくれている。

 確かにここ数ヶ月、私は国外にまで引っ張りだこだった。

 お陰で完全に店はジュリア達に任せっきりで、街の住人に対する処方はレミルに代理でやって貰っている。

 現代の医学薬学を何とかギリギリ理解出来るのは、この世界には錬金術師しかいないのだ。

 詳細な説明やアドバイスは無理でも、既に用意された薬を決められた量だけ処方する事ならば何とか出来る。


「メリウスさん。『異常気象』というのが具体的にはどういった物なのかの報告は受けていますか?」


 2人のやり取りに加わる私。

 今月で丁度『旅の話術士』を撃退してから半年になる。

 どう考えてもこれは――。


「はい。《ヘブンズ》の古代遺跡群上空に全長5000ULウムラウト程の禍々しい『黒雲』が観測されたと」


「黒雲? しかも5000ULウムラウトって……」


「はい。かの未開の地の領土のおよそ半分ほどの範囲で御座います」


「国土の半分を謎の黒雲に覆われた、か。……サナエ」


 隣に座っていたルーファスが私の目を真剣に見つめて来る。


「……うん。多分そうだと思う。メリウスさん? 悪いんですけど、レミルとアーネルを呼んで来て貰えるでしょうか」


「……承知致しました」


 何も聞かずに一礼しその場を去るメリウスさん。

 鋭い彼の事だ。

 私とルーファスの目配せで何かに気付いたのかも知れない。


「ゼギル? 何だか今日はやけに大人しいね」


 場の雰囲気を変える為か、ルーファスは紅茶のカップを持ちながらもゼギルに話を振る。


「ルーファス様。いくら俺が阿呆だからって、今の話でこれからどんな事になるのかは想像出来ますぜ。行くのでしょう? 俺ら全員で、未開の地《ヘブンズ》へ」


「ぼくも、いっしょにいく。るーふぁすとさなえの、ちからになる」


 ゼギルと共に黙っていたケリーも真剣な表情でそう答える。

 大丈夫。

 皆きっと協力してくれる。

 そしてこれがきっと――。



 ――私の『最後の戦い』となるのだ。





◆◇◆◇




 レミルとアーネルが屋敷に到着し、すぐに私達は作戦会議を開いた。

 未開の地《ヘブンズ》はその名の通り、この《グランドレグザイム》で最も天国に近い場所――つまりは最も高度の高い土地に位置する、険しい山岳地帯の広がる国である。

 しかしその国自体が『世界遺産』として登録されてしまっている為、他国からの侵攻はもとより、一般人の入国すら許されていない。

 元は古代文明の栄えた一つの国家だったらしいのだが、文明が荒廃した後もそのまま『国』として各国から支持され、今も尚現状を留めているのだという。


 国王も国民もいない『国』――。

 その禁足の地に全長5000ULウムラウト程の巨大な『黒雲』が覆ってしまっている――。



「確かあの国……と言っていいのでしょうか。あの《ヘブンズ》という土地はレグザイム教の聖典にも信仰の中心地として記載されている場所ですね。当然私も行った事は無いのですけど、司教様は一度だけ王家の方と《ヘブンズ》に向かわれた事があると仰っておりましたわ」


 アーネルがそう話しはじめると続いてレミルが食いついて来る。


「へぇ……。教会の中で最大の権力を持っている司教様でさえ・・・、たった一度しか足を踏み入れた事の無い土地なのね……。レグザイム教の信仰の中心地なのに……」


「そうなんです。しかも王家の護衛を何十人も引き連れての視察……。息苦しいったらありゃせんかった、と仰っておりましたわ」


 高齢の司教の体調を考えての護衛なのか。

 それとも何か知られてはまずい事を隠すための護衛なのか。


「……サナエ。どうだい? そろそろ皆にも本当の事を話しては? もうここまで来てしまったんだ。恐らくこれはサナエの言っていた『アレ』が始まる合図なのだろう?」


 ルーファスの一言により皆の視線が一斉に私に集まる。

 確かに今しかない気がする。

 どちらにせよ、皆の力を借りなければ恐らく『クリア』をする事は出来ないだろう。

 これが『GM』が用意した最終決戦なのであれば、パーティの総力を挙げてようやく倒せるか倒せないかの『強さ』に設定されている筈だから。


 そして私は意を決した様に皆に向かい話し始める。




「……皆、聞いてくれる? 私の、ここまでの、御伽噺おとぎばなしを――」

















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