ALC0296⇔私達、捜索を諦めました
《レイムドルグ》の街に滞在して3日目。
24時間眠らないこの町で、これ以上の滞在はケリーの症状を悪化させる恐れもあり、
また目撃情報も日を追う毎に途絶え始めて来たため、私達は『旅の話術士』の捜索を断念する事にした。
「くそっ! これで一体何回目だよ! あれだけ目撃情報が集まっておいて、なんで行方がわからねぇんだ!」
イラついた様に貧乏揺すりを頻繁に繰り返すゼギル。
「止めてよゼギル。貴方が貧乏揺すりをすると床が凄い揺れるんだから」
テーブルで頬杖を突きながら、ゼギルの方を見るでも無くそう答える私。
「じしんだ、ぜぎる。じしんを、おこせるのか」
きゃっきゃと振動を楽しむケリー。
そして、くまごろうまで一緒になって遊んでいる始末。
「この子達を見ていると何だかこちらまでほっこりしてしまいますわね」
紅茶を用意しながら優しく微笑むアーネル。
「もうこれ以上この街で捜索しても何も出ては来ないだろうね。一旦国に戻って、伯爵家と王家に報告書を提出しなくてはいけないし。……この辺が潮時かな」
疲労の色を隠せないルーファスがそう提案する。
この3日間殆ど寝ずに資料と格闘し、私達に指示を出し。
そして捜査の報告を受けたら報告書を纏め、また資料を読み漁り……。
流石のルーファスでも疲労は既にピークを超えているのだろう。
「お疲れね、ルーファス。はい、これ」
私はウインドウを開き、アイテム欄から『滋養強壮剤』と書かれた《メディシンポット》を取り出しルーファスに投げ渡す。
『朝鮮人参』『霊芝』『甘草』『生姜』『碇草』の5種類の生薬と『牡蠣』から抽出したエキスを混ぜた私特製の栄養ドリンク。
甘草を多めに入れているから甘みもそこそこあるし、一応飲めない事は無いとは思う。
……ケリーはひと舐めで吐き出していたけど。
「有難う、助かるよ。……う……流石はサナエ特製の『民間薬』だね……」
ルーファスの表情から味の感想を聞くまでも無いと判断した私は苦笑で返す。
私的には好きな味なのだが、この世界の人間の舌には合わないらしい。
「なら俺は馬車の準備をしておきますぜ」
立ち上がり部屋を出るゼギル。
「はぁ……。結局はまた、ほぼ『成果無し』って事なのですね……」
しょんぼりと肩を落としながら食器を片付けるアーネル。
「クウウン」
その様子を真似てか、くまごろうまで情けない声で泣き、皆の笑いを誘ったのだった。
◆◇◆◇
《レイムドルグ》の街を後にした私達は来た道を真っ直ぐに戻って行く。
ここからまた3日間の道のりだ。
爽快に馬車は舗装された道を1日半掛けて走り抜ける。
そして難所である獣道に差し掛かった所で、馬車を降り、徒歩で抜ける事となった。
行きもこの獣道だけは馬車に乗ったままでは通過出来ず、半日掛かり通過したのだ。
帰りもまたここを歩いて通過しないといけないと考えるとげんなりして来る。
と、ふと前方に白い服の出で立ちの男性がこちらを向き立っているのが見えた。
「あれ? あの人……この前《レイムドルグ》の街で見掛けた白衣の人…………おーい!」
きっと道に迷ったか、この獣道で誰か通過するのを待っていたのだと察し声を掛ける私。
「!! おい、サナエ! そいつは……!!」
「へ?」
ゼギルが私の肩を強く掴み、強制的に自身の背後へと引き戻す。
「……ここで登場か。『旅の話術士』……!」
ルーファスが腰に差した二刀を抜きそう言う。
「え……? えええええええええええええええええ!??」
何がなにやら分らない私は声が裏返り叫んでしまう。
「アーネル。サナエと馬車に防護結界を。くまごろうはサナエの護衛に専念してくれ。ケリーはゼギルと共に両側から奴を挟み込んで……」
既に戦闘態勢に入り、皆に指示を飛ばすルーファス。
「ちょちょちょちょっと待ってよルーファス! 『旅の話術士』? あの人が? だって『旅の話術士』って道化師の格好をして頬に傷があって大きな帽子を被って……」
向こうでこちらを見て立っている男性はどう考えても白衣を着ている。
一体どこに道化師の格好をした男がいるというのか。
「アホ! なに寝ぼけてやがんだサナエ! 目の前にいやがんだろうが! 道化師の格好をした野郎がよ!!」
「え――」
今、何て言った?
目の前に、いる――?
「皆、準備は良いかい? 相手はあの『旅の話術士』だ。油断は禁物。各自、残りHPの確認は怠らずに――」
ルーファスの指示が続くが私の頭にはその言葉が入って来ない。
(……私が見えている『彼』の姿と、皆が見えている『彼』の姿が違う……?)
私の中で以前出した『旅の話術士の正体』の推察が蘇る。
このタイミングで、私の前に現れた……?
だとしたら、奴の狙いは――。
「では……行くぞ!」
ルーファスの掛け声と共にケリーとゼギルが白衣の男に突進して行く。
既に私と馬車に防護結界を張り終わったアーネルは私をくまごろうに任せ、3人の背後で回復役として待機。
「クウウン」
くまごろうが心配そうに私の懐から顔を出す。
そうだ。今は戦闘中だ。
彼らは必死に敵に立ち向かっている。
私も戦闘に参加しなくちゃ――。
「くそ! どうなっていやがる! なんで俺の盾でダメージを喰らわねえ!」
「こいつ、なんかへん! ぼくのどれいん、ぜんぜんきかない!」
ゼギルとケリーの叫び声が聞こえて来る。
「くっ、アーネル! 奴の防御力を下げられるか!」
「駄目です……! 何か『魔法』とは違う、強力な『障壁の様な物』で守られていて……!」
ルーファスとアーネルの叫び声が聞こえる。
『……お前が……』
「!!」
何……?
頭に……直接……?
私ははっとした様に前方で猛攻を受けている白衣の男に――『旅の話術士』に視線を向ける。
私を――見ている?
『……お前がオフラインに紛れ込んだエラーだな? 久慈原早苗』
「――!」
ぞっとするような低い声。
無慈悲で、この世の全てに悪意を振りまく様な、鋭く尖ったナイフの様な冷たく狂気に満ちた声。
(やっぱり……!)
私の中で疑問が確信に変わる。
「ちぃっ! ルーファス様! 奴がサナエに照準を……!」
ゼギルの叫び声が遠くから聞こえて来る。
「ああ、分っている! アーネルは後退し、サナエにさらに補助魔法を――」
『……《コード0000437》。《魔法詠唱不可》』
白衣の男はウインドウを出現させ、何かを入力する。
「!! ルーファスさん! 魔法が……! 魔法が封じられてしまっています! ……なにこれ……一体何が起きて……?」
アーネルが頭を抑えて叫び出す。
『……《コード9999999》。《エラー対象排除》』
「う……!」
一瞬のうちに目の前が真っ暗になる私。
やはりこいつは――。
私は崩れ落ちる間際に自身の頭上にあるHPに視線を向ける。
NAME【サナエ・クジハラ】HP0/2980 SP310/310 MP3040/3040 Condition【瀕死】
「サナエ! くそ、ゼギル! サナエに復活アイテムを!」
そう叫ぶルーファス。
でも多分――。
『……《コード0000839》。《アイテム使用不可》』
……やっぱり。
もう、こいつには誰も……。
「なんだよこれ! なんでアイテムウインドウが開かねぇんだよ! ルーファス様!」
ゼギルの叫び声が聞こえる。
『……』
(……? なんだ……? 何故奴は微動だにしない? そう言えば奴は……)
『……』
(そうか……。だから今まで奴は姿を眩ますか、詐欺を働く事しか出来なかったのか……)
『……』
旅の話術士が徐々に上空へと浮いて行く。
私を見下ろしたまま。
まるで何かを言いたげな表情で。
「くそ、逃がすかよ!」
ゼギルが盾を上空に向け構える。
「待て、ゼギル! もう奴の事は良い! それよりもサナエを早く馬車に乗せるんだ!」
「え? …………あ」
ゼギルが何かに気付いた様に青ざめた表情で私を見やる。
「……『復活魔法』も『復活アイテム』も使えない……。サナエさんの『瀕死』状態を24時間以内に解除出来なければ……」
アーネルが膝から崩れて一人呟く。
そう。
私は今から24時間以内に復活しなければ――。
――永遠に魂が消滅し、この世界から抹消される事になるのだ。




