ALC0296⇔この異世界に永住しても良いかな、とか考えました
「見えて来たぜ」
ゼギルの声が操縦席から聞こえて来る。
私はその声につられ馬車の窓から外を覗く。
「あれが……カジノの街、《レイムドルグ》……」
既に日は落ち、あたりは薄暗くなって来ていると言うのに、その街だけは昼間の様な明るさを保ったままだ。
まるで渋谷か池袋じゃない、とか思ってしまった私。
「あの街の『光』は《グランデイティス共和国》にいる錬金術師が、総出で『召喚錬金』したものらしいですわ」
私の疑問に答える様にアーネルがそう言う。
「レイムドルグはこの国で最も税を納めている街だからね。確か国家予算の1割はこの街の税だけで占められているんじゃなかったかな」
「1つの街で1割も……」
ルーファスの言葉に驚きを隠せない私。
確かに遠めに見てもかなり大きな街の様には見えるが、それでもここ《グランデイティス共和国》は世界で2番目に大きな国だった筈。
その国の国家予算の1割がたった1つの街の税金で賄われている。
(……確か、日本の国家予算の1割くらいは東京都の税収だけで賄っていなかったっけ……)
うろ覚えの知識を思い出しながらも、そう考えるとここ《レイムドルグ》がいかに国に『カネ』を落としているのかが良く分る。
要はそれだけ各国からカジノ目当ての金持ちが集まっている、という事なのだろうか。
ならば逆に考えれば、ここはこの国で最も『危険な街』と言えるのかも知れない。
テロリストや誘拐犯がこぞってこの街を狙っていたとしても、なんらおかしくは無いのだから。
「めがしょぼしょぼする」
ケリーが街の光を嫌う様に私の後ろに隠れ、目を擦っている。
「あ……。ねえ、ルーファス。ケリーはあまり強い光が駄目だから……」
この子の『てんかん』は治った訳では無い。
症状を抑える薬も、結局は私の力では作り出す事が出来なかったので、再発の予防、要は『強い光の刺激から遠ざける』ことと『心身のストレスのケア』で様子を見る事しか出来ないのだ。
しかしケリーの場合は幼少期の子に見られやすい『軽度のてんかん症状』だったので、こういった再発の予防でもある程度の効果は出ていたのだが……。
「そうか、確かケリーは病気がまだ治ってはいなかったんだよね。……ごめん、サナエ。僕が迂闊だったよ」
ルーファスがケリーの頭を撫でてやり私に対しても謝罪をする。
しかし、それも仕方の無い事だ。
この世界の住人は『医療』と『薬剤』に大して、理解を示せる様には『設定』されていないのだから。
理解が出来ないのであれば、その事に対して前もって考慮する事も出来ない筈。
だからルーファスが悪いのでは無い。
事前にこの街の状況について詳しく聞いておかなかった私が悪いのだ。
「どうして、あやまる? るーふぁすは、ぼくのおんじん」
そう返したケリーに優しい笑顔を返すルーファス。
「そうよ。ケリーの病気について理解出来るのは私しかいないんだから。悪かったのは私の方。ゴメンね、ケリー……」
「?? さなえ、わるくない。るーふぁすも、わるくない。みんな、だいすき」
ケリーは私とルーファスを引き寄せるように抱き締めてくれた。
「ふふ、こうして見ると家族のようですわね。あーあ、私も早く理想の旦那様が欲しいですわ……」
アーネルが羨ましそうな視線をこちらに向けそう言う。
「クウウン」
良いタイミングでひょっこりと私の懐から現れたくまごろうに皆が笑う。
幸せな瞬間。
こんな日々が続くのであれば、ずっとこの異世界で暮らして行くのも悪く無いのかもしれない。
ルーファスもゼギルも良くしてくれるし、レミルも何だかんだ言いながらも私の事を心配してくれている。
ケリーの病気の症状も心配だし、アーネルの教会との連携も今後はもっと強化して行き、『民間薬』と『予防医学』を普及していかなければならない。
私はこの世界で必要とされている。
そして、必要とされている事をひしひしと感じる。
(……ここが、私の居場所って事で許してくれるかしら……。庵……堀沢……玲子……)
ケリーとルーファスの暖かい鼓動を感じながらも、私は彼らの事を考えていた。
◆◇◆◇
レイムドルグの街に着いた私達は馬車を街の警備兵に預け宿を取った。
宿までの道のりはケリーに目隠しをさせ、ゼギルにおぶって貰う事にした。
旅の疲れを癒す為、『旅の話術士』の聞き込みは明日早朝から行う事に決定。
ルーファスはケリーと共に宿で待機をしながら明日の計画を練り、私とゼギルとアーネルは少しだけ街を見て回る事にした。
既に夢うつつ状態のくまごろうはルーファスに任せる事にし、宿を出る私達3人。
「本当に凄いですわ……。空を見上げなかったら昼間と勘違いしてしまいますわね……」
人ごみを掻き分けながらもアーネルが感嘆の声を上げる。
「おい、サナエもアーネルも迷子になるんじゃねえぞ。逸れたら探すのが面倒だからな」
先頭を歩くゼギルが後ろを振り向きながらもそう言う。
確かにこれだけ人が多ければ逸れてしまえば探し出すのが困難であろう。
因みに先頭をゼギルが歩いている理由は、横幅の良いゼギルが先に歩いてもらった方が、後ろを歩く女性陣2名が歩きやすいからである。
もちろん『護衛』という意味もあるのだが。
「あんたもズンズンと先に進み過ぎて私達を置いて行かないでよ? それとあんまり怖い顔をして歩かないで。あんたでかくて唯でさえ目立つんだから、その顔で睨まれたら警備兵を呼ばれちゃうわよ」
「んだと――」
「はいはい、喧嘩は止めて下さい、二人とも。……どうしてお二人は場所を選ばず、何処でも喧嘩をする事が出来るのでしょうか……。私、頭痛がして来ました……」
こめかみを押さえそう言うアーネル。
と、ふと視線を感じ後ろを振り向く私。
「??」
遠くの雑貨屋の前にいる男が私をじっと見つめている。
(……誰だろう……あれ、私を見ているわよね……)
「ああ? どうした、サナエ?」
ゼギルが私の様子に気付き声を掛ける。
「え? あ、いや、あそこにいる人が…………あれ?」
指を差し示した先には、すでに男の姿が消えていた。
「?? どなたか知り合いの方でもいらっしゃいましたか?」
アーネルも不思議そうに私の指差した方向に視線を向ける。
「ううん、知らない男の人だったんだけど…………まあ、気のせいかな」
これだけ人が多いのだ。
誰かが私に視線を移していたとしてもおかしな事では無いだろう。
ただ一つだけ気になったのは――。
――その男が私と同じ白衣の様な物を着ていたから。




