ALC0296⇔とうとう私の時代がやってきますた
「サナエさん、起きてください、サナエさん」
「ん……」
目を覚ますとアーネルが私の身体を軽く揺らしているのが見える。
「クウゥン」
懐から顔を出したくまごろうが大きく欠伸をする。
「ごめんね、サナエ。ほら、お出ましだよ。《グランデイティス共和国》の強敵達が」
ルーファスが馬車の外を見るように指示をする。
そこには馬車を取り囲む様に様々なモンスターが犇いていた。
私の寝ぼけていた頭は一気に覚醒する。
「うわっ! めっちゃいるじゃん! しかも取り囲まれてるし! ゼギル! あんた見張りサボってたんでしょう!」
「アホか! 何で一番に俺を罵るんだよお前は! 今の今まで寝てた癖によう!」
私とゼギルの前に火花が飛び散る。
「違うよサナエ。ゼギルが見張りをサボっていたんじゃない。いきなり現れたんだ、地面から」
「地面……から?」
既に周囲にいるモンスターには黄色い《 》のマーカーが示されてしまっている。
私は馬車の窓から周囲をぐるっと見回す。
「ひい、ふう、みい……、げっ……12匹もいるじゃない……」
私はモンスターの頭上に示された表記に視線を移す。
NAME【朽ちた兵士の怨念】HP1550/1550 SP420/420 MP0/0 Condition【不死】
12匹全てが同じモンスター。
その全てがボロボロになった鎧を着用し、頭の一部が掛けていたり片腕が無かったり……。
おいおい。
地面から出て来たって……。
「これみんなゾンビじゃないですかやだあああああああ!!!」
私のその叫び声が戦闘開始の合図となった。
・・・
「アーネルは馬車の周囲に防護結界を。僕とゼギルで奴らを引き付けるから、その隙にケリーはくまごろうと共に各個撃破。サナエはレミルから持たされた錬金アイテムがあるだろう? 使い方は習っていると思うから、隙があったらそれで攻撃を。タイミングは君に任せる」
全員に冷静に指示を飛ばすルーファス。
大丈夫。やはりルーファスはリーダーとしての素質がある。
「頼むから俺を巻き添えにはすんなよな! サナエ!」
いらんことを言いながらルーファスと共に馬車を降り、陽動作戦に出たゼギル。
盾護士はこういう時にパーティの盾役となる重要なポジションだ。
だからこそ最もダメージを受けやすいし、最も死にやすい立場にいる。
「(格好良く飛び出して行きやがって……。ゼギルの馬鹿……)」
私はその様子を横目で見ながらアイテムウインドウを出現させる。
その間にも防護結界の魔法を唱えるアーネル。
そして少し遅れてケリーとくまごろうが同時に馬車を飛び出した。
「いくぞ、くまごろう」
「ガウゥ」
それぞれがそれぞれの敵を見つけ攻撃に移る。
ケリーは『ドレイン』を駆使しながら自身のHPを回復させながらの攻撃。
くまごろうは巨大化し、雄叫びを上げながらゾンビを蹴散らして行く。
「うおりゃあああああ!!!」
ゾンビの群れに突っ込んだゼギルが咆哮を上げる。
両手に装備された大盾が爆発音と共に周囲に火花を散らす。
「《古より伝わりし黒の魂よ》」
ルーファスがゼギルの肩に飛び乗り、空中で逆さまの姿勢のまま、黒剣を額に付け何かを呟いた。
「《その戒めと悲しみを現世に晒し敵を鎮めん》《ダークネス・グラビティ》!!」
ルーファスの周囲に巨大な球状の黒い塊が4つ出現した。
そしてそのまま黒剣をなぎ払うと、時計回りに回転し出した黒い球状の塊がゾンビ共に襲い掛かる。
『グオオオオォォォ!!』
黒い球状の塊がゾンビをすっぽりと覆い尽くす。
するとメキ、メキ、と音を立ててゾンビ共の鎧にヒビが入り、ゾンビごと内部へ押しつぶされて行く。
(……あれが『黒剣アーザイムゼヘウム』の力……)
今までも何度かルーファスが戦う姿を見てはいるが、黒剣を振るう姿はあまり見た事が無かった事に気付く私。
たしか血盟剣との相性があまり良くないから、使い辛い血盟剣から克服する為に、そちらをメインに使う様にしているとか言っていた気がする。
(……黒剣は『重力』、血盟剣は『怨念』……。何でこんなに使い辛そうな武器ばかりをレミルに頼んだんんだろう……)
そんなどうでも良い事を考えていると馬車の周囲に3匹のゾンビが。
「サナエさん!」
アーネルが私を心配し声を上げる。
私はアイテムウインドウと格闘中。
(……相手の状態は『不死』……確かレミルが……)
「ちっ! 3匹も逃がしちまったか! おい、サナエ! 逃げろ!」
遠くからゼギルの大声が聞こえる。
『ギシャアアアア!!』
3匹のゾンビが防護結界を破ろうと、手に持ったボロボロの武器を何度も何度も結界に叩き付けて来る。
「も、もう持ちません……! サナエさん……!」
アーネルの額から汗が流れている。
「さなえ、にげて!」
ケリーがこちらに向おうと必死にゾンビを掻き分ける。
「……あった! これだ!」
私はアイテム欄から『聖女の散水機玉』を選び馬車の窓から天井に設置した。
「サナエさん? 何を……?」
ボン、という音と共に、馬車の天井に水瓶を抱えた聖女の像のレリーフが刻まれたスプリンクラーが出現。
「スイッチ☆オン」
私は大きな赤い丸ボタンを押す。
すると空高く水が噴射し、馬車の周囲にシャワーの様に水が降り注ぐ。
「これは……回復薬と……聖水か?」
ルーファスやゼギル、ケリー、くまごろうの周囲に淡い緑色の光が集まる。
「何やってんだよサナエ! こいつらまで回復………あ」
何かに気付いた様子のゼギル。
そう。
このスプリンクラーに搭載されている液体は『HP回復薬』と『聖水』を2:1で混ぜ、分離を防ぐ為に【ウエスタンスライム】から手に入れた『緑色の濁り液』を精製させて作った『中和剤』を混ぜたもの。
そして敵は【不死】の状態異常に掛かっているゾンビ。
という事は……。
『グエエエエエエェェェェェェ!!!!』
馬車に集まっていた3匹のゾンビとほぼ瀕死状態になっていた残り9匹のゾンビから真っ黒な蒸気が昇って行く。
「……アンデッド系のモンスターに有効な『聖水』と、アンデッドにダメージを与える事の出来る『回復行動』……。それらを同時に、且つ全体に向け発動させ、更には仲間全体をも回復させる『錬金アイテム』……。やはり凄いですわ、錬金術師の力は……」
その場にへたり込んでしまったアーネル。
一度に3匹の強敵モンスターからの攻撃を防いでくれたのだ。
かなりのMPを消費してしまったのだろう。
「……んだよ、ったく……。そんなスゲェ錬金アイテムを持っていたんならさっさと使えっての……」
ゼギルも安堵の溜息を付きながらそう言った。
「いや、ゼギル。あの短い時間で、多くの錬金アイテムの中から有効な物を選択し使用する……。あの追い詰められた状況で、なかなか出来るものでは無いと思うよ」
ルーファスが私をフォローする。
「ま、まあ……確かにそうかも知れませんが……」
頬を掻きながら苦笑いのゼギル。
良かった。遠目で見てもかなりゾンビ共にやられていたみたいだったから、ついでに回復も出来て一石二鳥だった。
アーネルも馬車を守るので精一杯みたいだったし、それなりの最良の選択が出来たのかも知れない。
「見たか! 私だってやれば出来るんだからね! これぞ頭脳戦! おーっほっほっほ!」
胸を張り高らかと笑う私。
……でも錬金アイテムを事前に用意して作っておいたのは全部、レミルなんだけどね。
これは内緒の話。




