ALC0030⇔私の心はあなたのものです
異世界転移してから丸一ヶ月。
件のハクナ族の問題も無事解決し、私はいつもの家政婦のお仕事に大忙し。
この前は本当にレミルに逆エビ固めを仕掛けようとしてあえなく撃沈。
異世界の人間って強い方ばっかりなんですね……。
「ねえねえ、サナエ。今日の炒飯凄く美味しいじゃない」
洗い物をしている後ろでレミルがスプーン片手に声を掛けて来る。
「え? あー、それは多分『炒你飯店』に商品を納品に行った時に、店主に貰った秘伝の焼肉のタレじゃないかな」
あの店の店主はうちのお得意様だ。
しかも何故かは知らないが私を気に入ったみたいで、行く度に何か持たせてくれる気前の良い店主だった。
「焼肉のタレ? 炒飯に?」
「うん。山菜とキノコと鶏肉をみじん切りにして、そのタレに漬けておいて、後は普通に卵と御飯に混ぜて炒飯を作るだけだよ。既にタレの味が濃いから塩も胡椒も振らないで出来上がり」
「かー、流石はハクナ族の救世主様。炒飯に焼肉のタレは思いつかなかったわ」
「……レミルが言うと嫌味にしか聞こえないけどね」
それに炒飯に焼肉のタレなんて大学時代の自炊生活で何度もやってたし。
ああ、あの頃が懐かしい…。
そう思いを巡らせながら洗い物をしていると台所の上の棚から何やら分厚い書物が落ちて来た。
「ぶぎゃっ!!」
両手が塞がっている私の頭に直撃したそれは――。
「いたたた……もう、何なのよ痛いわね……。………あ。」
どこかで見たことがある書物だと思ったら、私が一番最初に装備していたアクセサリーの『薬学全書』だった。
レミルの店に置いて貰える事になった初日に絶対中を見る事は無いと思い、ここに封印していたんだっけ……。
「何をやっているのよサナエ……。……あれ? これって……『錬金レシピ』じゃない」
床に落ちた『薬学全書』を拾い上げパラパラと捲り出すレミル。
ん? 『錬金レシピ』? 薬学全書じゃなくて??
「あれ、でも……31ページからは何が書いてあるのか読めないし……」
私は痛む頭を抑えながらレミルが持っている薬学全書に目を落とす。
レミルが『読めない』と言っているページは薬学全般に対する内容だった。
確かにこの異世界の住人は『医術』や『薬剤』、『栄養素』に関する単語は全く理解が出来ない様だったが。
そうか、『文字』で書かれても読む事すら出来ないのか……。納得。
「ちょっと貸して、レミル」
レミルから本を受け取った私は最初の方のページを開いてみる。
「あ……ホントだ。なんか錬金術についての内容が書かれてる……」
確かにページを捲ると30ページまでが『錬金術に関するレシピ』の内容で。
残りの31ページから1000ページまでが『薬学全書』の残りの内容だった。
「……んん? あれ……なんか……ちょっと待って……」
私は確認したい事があり慌てて空間を二回叩きウインドウを開く。
開いた欄から『status』を選ぶとすぐ横にステータスが表示された。
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NAME サナエ・クジハラ
LV 1
HP 1000/1000
SP 200/200
MP 1200/1200
STR 7
ATK 23
VIT 12
DEF 31
DEX 29
AGI 14
INT 108
MAT 126
MDE 154
HIT 9
LUC 15
MED 970
ALC 30
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「……うん。びっくりするぐらいレベルが上がっていないわね、サナエ」
横から何をするのか興味深々の顔つきで覗き込んで来たレミルが私を茶化す。
「うっさいなぁ……。仕方無いじゃん、街の外に出てレべリングした事が無いんだから……」
ニヤニヤしているレミルを無視し、私はある仮説を立てた。
最初、この『薬学全書』を確認した時は確かに全てのページが『薬剤に関する参考書』の内容だった。
その後全くこの本の中身を確認しなかったのだが、今現在は30ページまでが『錬金術のレシピ』に差し変わっている。
1ページに1つの錬金術に関するレシピ。はっきり言うと、今の私には全く意味の無い物だ。
そして今の私のステータスで変動しているのは『MED』と『ALC』の数値のみ。
レミルとの数回に渡る『共同錬金』により徐々に増えて行った『ALC』の数値。
それが今、同じく『30』を指しているのは偶然なのだろうか。
それに初期の『MED』の数値が1000という部分。
この『薬剤全書』のページ数も1000ページ。
そして今は『MED』が970で、薬剤全書の『薬剤に関する記述』の部分も970ページ。
これは試してみる価値があるのではなかろうか……?
「レミル、お願い。一回だけ何でも良いから『共同錬金』してくれない?」
「へ? なんで?」
「いいから、お願い」
レミルの背中を押し、錬金室へと向う私達。
・・・
「もう……。どうしたのよ急に……」
「ごめんレミル。ちょーっと試してみたい事があってさぁ。何か無い? 今すぐ錬金が必要なものって」
説明は後だ。
こういう事は放っておくと気になってしまうタイプなのだ、私は。
気付いたらすぐに試してみたい。
そう。私は好奇心旺盛な美少女錬金術師。
「無いわよ、急に言われたって……。……あ、でもさっきの『レシピ』に面白そうなのがあったわよね」
レミルは私が小脇に抱えている『薬剤全書』を指差し言った。
そして私を軽く擽り本を奪いパラパラと捲る。
擽る時は先に言ってからにしてね……。
「あった、これこれ。別に今必要なものな訳じゃ無いんだけど、貴女がこの店に来てからちょうど1ヶ月経つし。プレゼントに、と思って」
「プレゼント?」
レミルが指差したのは25ページ目に書かれた錬金レシピだった。
「……錬金、獣?」
「そう。まあ、錬金してみれば分るから。これは召喚系の錬金だからこっちね」
私の手を引き魔法陣のある場所まで歩む。
という事は『上級錬金術』なのか。
「じゃあ、行くわよ」
レミルの両腕の腕輪が瞬く間に光を帯びて行く。
当然私はレミルの手を握ったまま。
心の中で『がんばれーがんばれー』と応援するのみ。
それぞれの腕輪が互いに共鳴し合うように辺りに光を撒き散らす。
そして地面に描かれた幾何学模様の魔法陣までもが共鳴を始め、辺り一面が光の海となった。
「ふぅ~、成功ね」
レミルのその言葉で目を開けると、魔法陣の上に何やら黒いモコモコした生物が。
「・・・」
「キュ?」
「・・・」
「キュゥン……」
……なにこれ。
「ふふ、錬金獣はレシピに書かれていても、実際はどんな獣が召喚されるかはやってみないと分からないからね」
「キュンキュン」
「・・・」
目の前には両手の平に乗りそうなほどの小さな黒いモコモコした生物。
やヴぁい。
「キュ?」
「かーーーーーーわーーーーーーうぃーーーーーーいーーーーーーー!!!!!!」
「キュキュゥ~」
あまりの可愛さに小躍りが止まらない私。
見る人が見たら、きっと『呪い』の状態異常に掛かっていると勘違いするであろう光景。
でも、そんな事はどうでも良い。
この目の前の、黒いモコモコの身体――タヌキの赤ちゃんが抱っこ出来るのであれば――。
「キュキュ?」
――私はいつ、死んでも構わないとさえ、思ってしまったのだった。
「キュ」




