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剣と魔法とギルドの彼女!

作者: HANA子

【戦士と苦情とギルドの彼女!】


「ちょっと待ってくれよ! なんで報酬が減額なんだよ!!」

振り上げられた拳は真っ直ぐに振り下ろされ、カウンターは力いっぱい殴られた。頑丈な作りのはずなのにミシっとどこかが軋んじゃうってことはけっこうな力だってことよね。

あァん、ダメダメッ! あたしは胸の中でダメ出しをする。ワイルドなのは評価加算対象なんだけど、乱暴なのは減点なのよ。

わかる。君の苛立ちはよぉ~くわかる。だけど、あたしみたいな可憐な乙女(←コレ重要)相手にこわ~いお顔で凄んだ上に、暴力でもって威嚇するのは減点されてもしかたない!

ガルルルルと唸り声でもあげそうな程に怒ってる彼を前に、あたしはこれまで幾度となくこのカウンター上にて繰り返された冒険者たちとの問答の数々を走馬灯の様に思い起こしていた。

ちょっとマテ。走馬灯の様にって、あたし死んじゃうのかよ!

「プッ」

「何がおかしい!」

おっといけないいけない。思わず自分でウケちゃった。

「失礼」

そこそこの修羅場は潜り抜けてきたらしい目の前の彼。肩幅の広いガッシリとした体付きに日焼けした肌──イイ。実にイイ。臭い立つような男臭さはきっとガテン系戦士の証明よね。うん、そのワイルドさは加算対象だわ。十分合格基準に達しているわよ、君。

そんな彼の、魔眼もかくやと思えるほどの熱視線を正面から受け止めつつ、あたしはコホンと一つ咳をした。

手元の書類──苦情応対報告書──にペンを奔らせながら語りかける。

「えぇと、貴方たちのお仕事はっと……ベルンフォレストの農場に出る害獣退治でしたわね」

「害獣退治だと? よく言うぜ、害獣どころか出てきたのはオークの群れだったんだぞ? 元から依頼内容を間違えてんじゃねーか!」

「フォーリスの妖精学において、オークは“害獣”として分類されてますのよ? 我が国はもちろん、ミーティアやドマなどの主要国家で採用されてる『フォーリス妖魔魔獣大典』においてですの」

「だからなんだよ」

「ギルドが提示した依頼内容に間違いはなかったってことですわ」

「オークが害獣かよ?!」

「その様に定められている以上、間違いであるとは認められませんの」

「だからなんで!」

「文句があったら妖精学をまとめている王立学術院でも妖精学学会でもお好きな方へどうぞ?」

ぐぬぬ……と彼が呻く。あーいい気分。やっぱ屈強な男の子を口だけでやり込めるのってホントににキモッチイ~♪ よし、依頼内容に対する不満の件はクリアってことで、書類にチェックっと。

「だ、だけどな」

ちょっと勢いが弱まったけど、彼はまだまだやる気のようだ。

ウフフフフ。

へこたれない男の子って、ス・テ・キ☆ 君の評価点、さらに加算。

「けどな、俺達はそのオークどもを間違いなく駆除したんだぜ? 農場まで出張ってきた奴等だけじゃねぇ。連中の巣穴にまで行って残らずだ! それなのに報酬が銀貨300枚に減額されるってのはどういうことだよ!」

「それは勿論、任務がキッチリ完了されなかったからですわ」

「だからどうしてそんなことになっちまうんだよ!」

ドンっとまたカウンターを叩く彼。

あーあ、埃が舞ってる。掃除係のランチャってばどんな掃除をしてるんだろう? ほれ、ツツーイっとぉ……ここにもまだこんなに埃が残ってるじゃないのさ。

「500枚が300枚にだぞ? 3割も減額されるってのはどう考えてもおかしいじゃねぇか!」

「500枚が300枚にされたんだったら減額は4割だろうが」

後ろに立っていた彼の仲間、魔術師風の男の子がすかさずつっこむ。

彼、後ろを振り向いた。

「マジ?」

「マジ」

クルリとあたしの方に向きなおる。

「もっとひでェじゃねーかっ!!」

やん、唾飛んでるー! 減点! 減点減点減点ッ! そういうのはダメ。ワイルドなのはいいけど、汚いのはダメ、絶対。

「一体全体どういうことだよ、こりゃあよ!?」

やれやれ。こりゃあもう、どうしようもないなぁ。アンニュイな微笑みを浮かべつつ、あたしは手元の書箱を開ける。

戦士の彼は「無視すんじゃねぇっ!」とか言ってるけど、気にしな~い。

え~っと、どこだったかなぁ。こっちかな? あっちかな? どこかな~……そこだっ……ビンゴ。

あたしは彼の面前に取り出した一枚の紙を突き出した。

「は?」

「これはベルンフォレスト駐在の冒険者ギルド職員からの報告書ですの」

彼の顔が“?”で埋まる。キョトンとした顔はけっこう可愛い。評価点加算。

「オーク退治の際に依頼主の農場の柵を破壊した。家畜小屋の壁を破壊した──減点2。オークの襲撃の際に羊を2頭殺された──減点2。えーと、それから待機中に酒を呑んでクダをまいて散らかした──減点少」

「あ……アッ! っと……その、それは……」

「特に羊を守りきれなかったのは痛かったですわね。これは貴方たちが現場に着任してからの出来事ですから冒険者ギルド憲章30条3項に抵触するんですの」

「……どういうことなんでしょう」

「冒険者ギルドの契約条項の30条にある、依頼主への保証責任が発生するということですわ。この場合は任務を斡旋した当ギルド側に不備はありませんので、依頼を受けた冒険者に保証義務が発生するんですの」

「……つまり?」

「殺された羊2頭の保証に農場の柵と家畜小屋の壁の修繕費、散々飲み食いしたお酒や食べ物の後始末が銀貨200枚で済むというのはとってもありがたいことではございませんこと?」

うぐぐ、と彼が強く呻く。

「羊1頭辺りの相場は確か……」

「今なら銀貨100枚から120枚ってところかしら?」

幾分冷静ならしい魔術師の質問にあたしは答えた。

さぁて、楽しいお話はそろそろお開きかなぁ~。

あたしは無料にしておくには惜しいと話題騒然、金貨100万枚にも値すると絶賛な“スマイル”を浮かべた。

「よろしくって?」

さぁどうかなぁ! ちゃんと気付いてくれるかな?

言外にこれで済ませてやるんだから納得しろよって匂わせてんのよ?

わかってくれるかな? わかってくれるわよね。これくらいわかるようじゃなきゃ、これからも海千山千の冒険者なんてとてもやっていけないわよ?

そう思っていたら彼、やりきれない表情であたしを見上げた。

アハン。天をも衝くような大男が、いまやあたしを見上げるほどにも縮こまっちゃうなんて!

「それで……いいです」

「いいです?」

「ウ……それで、お願いします……」

うん! 打ちひしがれて従順になった男の人ってイイワァ! じゅるりと思わずよだれが出ちゃう。

「ではこちらの書類にサインを。文字は……」

「ハイ、カケマス……」

差し出した書類にペンを奔らせる彼。書きあがったそれを受け取って……うん、よし! 彼のサインおっけ! あたしの書き漏らしも0! 我ながら良い仕事してるわぁ。

「リネット、これお願い。58番の手形を出して」

後ろの事務机に座ってる後輩に声をかけて、いまやすっかりしょげかえった彼に、あたし笑顔で向き直る。

「当冒険者ギルドでは、登録冒険者の皆様が様々なトラブルに煩わされることなくお仕事や冒険に集中できるよう尽力いたしておりますわ。またのご利用お待ちしていまァす!!」

あたしは何のトラブルもなく朗らかに銀貨300枚の手形を受け取って帰っていく彼らを見送った。

あぁ、ゾクゾクしちゃうなっ!

やっぱこっちの仕事に転職してよかったなァ。あたしはこれまでの冒険者ライフを思い出す。

ダンジョンで宝探し、貴族相手のタウン・クエスト、誰も足を踏み入れたことのない秘境の探検、凶悪な魔物の討伐任務! スリル・ショック・サスペンスな毎日も悪かァないけど、合法的に屈強な男の子たちをとっちめられるこの悦びには適わないわァ。

そう、この冒険者ギルドの受付業務こそあたしにとっては天職なのかもしれない!

「はい次の方どうぞ~。受付番号137番の方~」

お、次はちょっと頼りなさ気な若い男の子。見た感じ、駆け出しの剣士みたいね? 腰の剣は業物のようだけど、足運びがどうも素人っぽいし~。

「よろしくお願いします。仕事の斡旋をお願いしたいんです」

じゅるり。

「はい?」

「……失礼。ではお話しましょうか」

おおっとよだれが出てしまったじゃないの。

さぁて、お仕事お仕事っと! 君はどぉんな冒険をして、どぉんな結末をあたしに教えてくれるのかな~?

あたしはデスクから帳面を引っ張り出して、募集中のクエストを探し始める。

「どのようなお仕事をお探しかしら?」

「えぇっとですね、自分は……」

さぁこのあたしが君にぴったりのオシゴトを見つけ出して斡旋したげるわぁ。

だ・か・ら、

「……そう、そういう種類おお仕事を探しているのなら──」

ニコッ。

あたし、とりあえず金貨100枚分の“スマイル”をサービスしちゃう。

君もいっぱいいっぱい、あたしを楽しませてちょうだいね☆

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