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一人百物語

注連縄(しめなわ)の真ん中

作者: 犬猫夜行
掲載日:2026/07/19


三十年以上昔の話。

その頃には、まだ近所に田畑が広がっている所が多くあった。

あちこちに人家はあるものの、夜にもなると田畑のあたりには街灯などは無いため、真っ暗な区画もあった。

ある夜、周りに田畑が多い道を自転車で通りかかると、以前は田圃だった土地がいつの間にか綺麗に埋め立てられて、整地されているところがあった。

その整地された真ん中あたりには四方に竹が立てられ、紙垂(しで。白い和紙)がついた注連縄が張られて、地鎮祭をした跡がそのままになっていた。

(へえ、家が建つんだ?)

とそちらの方を見ていたら

その、注連縄が四角く張り巡らされた中の、小さく土を盛ったところに人影があった。

(?)

と見ると、それは

立烏帽子に狩衣姿の男性の様だった。

その男性は、明かりも無い薄暗い中に、ただぽつんと一人で立っていた。

夜も遅くなってから、一人で地鎮祭を行っている神主、の様ではなかった。

また、男性の狩衣は神主の様な白装束ではなく、薄緑の生地にあちこち模様が刺繍されている様なものだった。

(あの人、何だろ?)

と思いながらそのまま通り過ぎ、振り返ると。

そこにはもう誰もいなかった。

ただ地鎮祭の注連縄と紙垂が、夜風にぶらぶらゆらゆらと揺れているだけだった。





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