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どうしようない毎日だけど、転生しないで生きてみます。  作者: 山河國破


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第五話 死神憑き。

帰り際、病院の受付で、誰かが何かを言っていた気がする。

事務手続き、死亡診断書、火葬の費用、身寄りへの連絡……。

言葉が鼓膜を通り抜けていく。僕にはもう、必要のない音だ。


気づけば片方だけの靴で歩いていた。

タクシー代のおつりの小銭がポケットで騒ぐ。

なにも、もう、考えたくない。


暗いボロアパートに帰り着いた僕は、明かりも点けずに居間の(はり)を見上げた。

やさしい、尊敬していた父。僕のために命を削った母。

二人の写真が飾られたこの部屋で、僕はただ、ゆっくりとバスタオルを梁に(くく)り付けた。


何度も、何度も、固く結ぶ。

その下に机を運び、僕はその上に乗った。


「……今から、会いに行くね」


ごめんね、お母さん。

高校、卒業できなくて。

僕は、机を力いっぱい蹴飛ばした。


「――っ、が、ぁ……っ!!」


凄まじい衝撃が喉を潰した。

肺から酸素が欲し、眼球が裏返るほどの圧力が頭蓋を内側から叩く。

身体が、本能的な死への恐怖で激しく暴れた。爪が、皮膚を、空を切る。

意識が白く、遠くへ溶けていく。

一瞬、包み込まれる浮遊感。

ああ、これでやっと、みんなのところへ――。


「バキィィィィィッ!!」


乾いた破砕音が部屋に響き渡った。

築四十年のボロアパートの梁は、高校生一人の絶望を支えきるほど、強くはなかった。


「ゲホッ、ごふっ……っ、う、あぁ……っ!」


床に叩きつけられ、焼けるような痛みが走る喉を抑えてのたうち回る。

死ぬことさえ、僕には許されないのか。

苦しい、苦しい、苦しい。僕は必死で空気を肺に取り込む。


あー、太っててよかった……

あー、ボロアパートでよかった……


涙と(よだれ)で汚れた床に顔を押し付けていると、ふいに、真っ暗な視界の端で「光」が踊った。


「おっまたせー! みんな大好き、バンシーちゃんでーすっ☆」


場違いなほど高い、アニメのキャラクターのような声が響いた。

顔を上げると、そこには、十センチほどの透き通った羽を持つ少女……いや、妖精の様なものが、フィギュアスケーターのような華麗なターンを決めて宙に浮いていた。


「つらかったねー、苦しかったねー! わかるよわかる、君の不幸度指数、今まさにカンスト中! でもね、もう大丈夫! 安心して! モルス様からの特大ギフト、持ってきちゃいました!」


彼女はくるくると僕の周りを舞いながら、まばゆい光の粉を振りまく。


「無双?ハーレム? 悪役令嬢? 転生先なら、なーんでも選び放題だよ! 魔法で世界を支配するのも良し、スローライフで美少女に囲まれるも良し! 今なら特別に、推しのアイドルの子供にだってなれちゃう大・大・大サービス中! さあさあ、今すぐこのクソみたいな現世におさらばして、ハッピー異世界ライフへレッツゴー!!」


あまりのハイテンションさに、僕の思考は停止した。

喉の痛みと、彼女の言葉。現実感のなさに、僕は(かす)れた声で問いかける。


「……僕、は……死んだの……?」


バンシーはぴたっと動きを止め、僕の顔をまじまじと覗き込んだ。


「あれ?」


彼女は指先で僕の鼻の頭をツンと突くと、不思議そうに首を傾げた。


「……君、まだ生きてんじゃん」

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