第十二話 待ち合わせ。
日曜日の朝。
世界がまだ深い藍色に包まれている午前四時、僕は跳ねるように家を飛び出した。
普段の修行のおかげか、それとも恋という魔法のせいか。昨日まで鉛のようだった足取りは、羽が生えたように軽い。スキップ混じりのランニングで、僕は待ち合わせの公園へと急いだ。
「流石に……まだ早すぎたかな」
当然、公園には誰もいない。街灯が寂しげに僕を照らしているだけだ。分かっている、こんな時間に来るはずがない。でも、一秒でも早く彼女の視界に入っていたかった。
けれど、時計の針がどれだけ回っても、公園の入り口にあのショートヘアの影が現れることはなかった。
気付けば、太陽は真上に昇り、お昼時を告げていた。
「……お腹、空いたな」
ぐう、と鳴った腹をさする。一度アパートに帰って、あの期限切れのパンでも食べようか。……いや、ダメだ。僕がいない数分の間に今日子ちゃんが来たら? 彼女に寂しい思いをさせるわけにはいかない。
僕は公園の蛇口をひねり、溢れ出す水道水を喉の奥に流し込んだ。腹が膨れるまで飲んで、空腹を無理やり黙らせる。
ポケットからハンカチを取り出そうとして、指先に紙の感触が触れた。
昨日、書き上げた僕からの手紙だ。
本当は、花束や綺麗なアクセサリーの一つでも贈りたかった。でも、今の僕にはそんなお金はない。だから、せめて真心だけは伝えようと、中学の頃からずっと彼女だけを目で追っていたこと、全部書き綴った。
「……喜んでくれるかな」
手紙の角を愛おしく撫で、僕は再びベンチに腰を下ろした。
手持ち無沙汰に周囲を見渡すと、古い遊具の影に、大人向けの健康器具がいくつか並んでいるのが見えた。腹筋台、懸垂バーや腕立て用のバー。
「へぇ……こんなのもあるんだ」
そんなことを頭の中で呟きながら、僕は入り口を見つめ続けた。
昼が過ぎ、夕暮れが街をオレンジ色に染め、やがて夜の帳が下りる。
公園の街灯が再び灯り、深夜の冷気が僕の濡れた制服を冷やしていく。
午前零時。
日付が変わるその瞬間まで、僕はたった一人、凍えるベンチに座り続けていた。
今日一日にどれくらい飲んだだろうか。お腹の中の水道水が、ひどく冷たく感じられた。




