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名前で呼ばれる距離、視線が交わる瞬間

「おはよう、咲」

朝。

凪が私の名前を呼ぶ。

それだけで、教室の雑音が遠くなる。

「おはよう、凪」

自然に名前を返せるようになった自分に、

少しだけ驚いた。

私たちは、並んで席に着くことが増えた。

周囲からの視線が集まるのも、もう慣れた。

「朝倉さん、最近葭葉さんと仲良いよね」

「いつの間に?」

そんな声が聞こえても、

凪は気にした様子もなく笑っている。

――でも。

三時間目の終わり。

教室のドアが開いたとき、

その空気は、わずかに変わった。

転校生が、先生に呼ばれて入ってきたのだ。

静かな足取り。

控えめな態度。

それなのに、妙に目を引く存在感。

私は、無意識に凪を見る。

凪は――

転校生を、見ていなかった。

正確には、

見ないようにしているようだった。

視線は机の上。

指先が、きゅっとノートの端を掴んでいる。

(……やっぱり)

そのとき。

転校生の視線が、ふとこちらに向いた。

一瞬だけ、目が合う。

次の瞬間、

その視線は、凪の方へ――

凪も、それに気づいたのだろう。

ほんの一拍遅れて、顔を上げる。

二人の視線が、交差する。

ほんの一秒。

それだけなのに。

空気が、張り詰めた。

何も言葉は交わされない。

でも確かに、

過去を知る者同士の沈黙が、そこにあった。

放課後。

帰り道で、私は意を決して聞いた。

「ねえ、凪。

あの転校生……やっぱり、知ってるんだよね?」

凪は立ち止まり、

少しだけ困ったように笑った。

「……まだ、話せない」

その言葉は、拒絶じゃなかった。

“今はまだ”という意味を含んでいた。

「でもね、咲」

凪は私を見つめる。

「咲には……

ちゃんと話したいって、思ってる」

胸が、ぎゅっと締めつけられる。

それが嬉しさなのか、

それとも不安なのか――

その時の私は、まだ分かっていなかった。

ただ一つ確かなのは。

転校生の存在が、

私と凪の関係を、

静かに、でも確実に揺らし始めているということ。

物語は、もう後戻りできないところまで、

動き始めていた。

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