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放課後、マドンナは誰も見ていない顔をする

転校生が来た翌日。

クラスの空気は、どこか落ち着かなかった。

「昨日の転校生、見た?」

「なんか静かな人じゃなかった?」

「朝倉さん、ちょっと驚いてなかった?」

そんな声が、休み時間のたびに聞こえてくる。

私は机に突っ伏しながら、

昨日の教室の光景を思い出していた。

――転校生が入ってきた瞬間。

朝倉凪が、ほんの一瞬だけ見せた、あの表情。

驚き、というよりも。

戸惑いと、ためらいが混じったような顔。

(……気のせい、だよね)

凪は今日も完璧だった。

いつも通り笑って、

いつも通り話題の中心にいて、

誰に対しても同じ距離感を保っている。

まるで、昨日のことなんて何もなかったみたいに。

でも――

私だけは、違和感を拭えなかった。

放課後。

忘れ物を取りに教室へ戻った私は、

そこで再び“ありえない光景”を見ることになる。

夕暮れの教室。

誰もいないはずの空間に、

朝倉凪が、ひとり座っていた。

「……凪?」

声をかけると、

彼女は少し遅れてこちらを振り返る。

「あ、咲」

その呼び方に、少しだけ救われる。

「まだ、帰ってなかったんだ」

「うん。ちょっと……考え事」

窓の外に視線を向けたまま、凪は言った。

その視線の先は、正門の方向だった。

「昨日の転校生のこと?」

口に出してから、

言いすぎたかもしれないと思った。

でも凪は、否定しなかった。

「……よく、わかったね」

小さく息を吐いて、凪は微笑む。

「知り合い、なの?」

「ううん。そういうわけじゃ……」

言葉を濁す。

それだけで、十分だった。

“何かある”

そう思わせるには。

「ただ、昔のことを思い出しただけ」

凪はそう言って立ち上がると、

話題を切り替えるように笑った。

「それより、咲。

一緒に帰らない?」

私は、その笑顔の奥に、

言葉にされなかった感情があることに気づいてしまった。

――転校生は、

凪の“過去”と、何かしら繋がっている。

確信に近い予感が、胸の奥に沈んでいく。

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