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それでも、同じ時間を生きていた

昼休みの校舎裏は、

風の音だけがしていた。

文化祭の喧騒が嘘みたいに、

静かで、少しだけ寒い。

「……来てくれて、ありがとう」

齋藤えみるは、

フェンスにもたれかかりながら言った。

私は、

その隣に立つ。

「凪のこと、でしょ」

えみるは、

小さく笑った。

「やっぱり分かるよね」

少し間があってから、

えみるは言った。

「私ね、ずっと怖かったんだ」

その声は、

強がっていなかった。

「咲が凪の隣に戻ったら、

私は完全に“いらなかった人”になる気がして」

胸が、

静かに痛む。

「でも」

えみるは、

空を見上げる。

「それは、逃げだった」

フェンスの向こうで、

木の葉が揺れる。

「私は、

咲にも凪にも、

ちゃんと向き合わずに消えた」

「正しいことをしたって、

言い聞かせて」

えみるは、

ゆっくりと私を見る。

「でも本当は、

選ぶ勇気がなかった」

その言葉は、

責めるためじゃなく、

事実として落とされた。

「……私も」

気づいたら、

そう口にしていた。

えみるが、

少し驚いた顔をする。

「私も、

ずっと過去を見ないふりしてた」

「えみるがいなくなった理由を、

ちゃんと聞こうとしなかった」

「傷つくのが、怖かったから」

えみるは、

一瞬だけ目を伏せてから、

笑った。

「似た者同士だね」

その笑顔は、

少しだけ寂しくて、

でも、優しかった。

「……ねえ、咲」

「凪のこと、

ちゃんと好き?」

迷いはなかった。

「好き」

即答だった。

「守りたいし、

一緒に悩みたい」

「凪が自分を疑うたびに、

何度でも隣に立つ」

えみるは、

しばらく黙ってから、

小さく息を吐いた。

「……そっか」

「じゃあ、もう大丈夫」

その言葉に、

驚く。

「私、

ようやく降りられる」

「過去から」

えみるは、

フェンスから離れて、

私に向き直った。

「お願いがあるの」

「凪を、

一人にしないで」

その声は、

切実だった。

「凪はね、

自分が誰かの“選択”であることを、

まだ信じきれてない」

私は、

強く頷いた。

「うん」

「絶対に」

そのとき。

「……二人とも」

聞き覚えのある声がして、

振り返る。

朝倉凪が、

少し離れた場所に立っていた。

「話、終わった?」

その表情は、

穏やかで、

でも少しだけ緊張している。

えみるは、

凪の方を見て、

はっきり言った。

「うん」

「もう、全部」

一歩、

えみるは凪に近づく。

「ごめんね」

その一言に、

凪の目が揺れた。

「勝手に決めつけて、

勝手に離れて」

「凪が一人で強くなろうとするの、

止められなかった」

凪は、

何も言わずに聞いている。

「でも」

えみるは、

少し笑った。

「今は、

ちゃんと選んでる」

「凪の隣にいる人も、

私は応援できる」

凪は、

ゆっくりと息を吸った。

「……ありがとう」

その声は、

穏やかだった。

「私、

まだ怖いけど」

凪は、

私の方を見る。

「でも、

逃げないって決めた」

その視線に、

胸が熱くなる。

えみるは、

一歩下がった。

「じゃあね」

「今度は、

ちゃんと前向いて生きるから」

そう言って、

背を向ける。

去っていく背中は、

もう過去の影を引きずっていなかった。

残された私と凪。

沈黙。

「……咲」

凪が、

そっと言う。

「私、

まだ完璧にはなれない」

「たぶん、

何度も不安になる」

私は、

凪の隣に立った。

「それでいい」

「一緒に、

何度でも戻ってこよう」

凪は、

少しだけ笑った。

「……うん」

その笑顔は、

前よりもずっと、

素直だった。

この日、

私たちは知った。

過去は消えない。

でも、

向き合えば、

置いていける。

そして恋は、

“選び続けること”なんだと

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