クラスのマドンナ的存在
私の名前は、葭葉咲。
私立星見ヶ丘高校に通う、高校一年生。
正直に言えば、この高校はちょっとだけ特別だ。
進学校というわけでも、不良校というわけでもない。
ただ一つ違うのは、生徒一人ひとりの存在感が妙に強いこと。
才能のある人、目立つ人、噂になる人。
そして――誰もが知っている“特別な人”。
今日も私は、朝のやわらかな日差しに目を細めながら校門をくぐった。
少し年季の入った下駄箱で「1-A」と書かれた場所を探し、上履きに履き替える。
階段を上るたびに、胸の奥がわずかに高鳴るのは、きっと気のせいじゃない。
教室のドアを開けると、いつもの光景が広がっていた。
整然と並ぶ机と椅子。
窓から差し込む五月の青空が、教室を明るく照らしている。
そして――
教室の中心に、自然と視線を引き寄せる存在がいた。
朝倉凪。
艶のある黒髪を肩口で揺らし、姿勢よく席に座る彼女は、まさに“クラスのマドンナ”。
派手なわけじゃないのに、笑うだけで空気が変わる。
話しかけるのに、少しだけ勇気がいる――そんな人だ。
私は窓際の席に座り、何気なく外を眺める。
でも、ふとした瞬間に視界に入る凪の横顔に、心が揺れる。
「おはよう、咲」
前の席から声をかけてきたのは、幼なじみの三浦悠斗。
軽い調子で話しかけてくる彼に「おはよう」と返しながらも、私の意識はどこか上の空だった。
そのとき、廊下の方が少しざわついた。
足音と、ひそひそ声。
何かが起こる前触れのような、落ち着かない空気。
「なに、あれ?」
悠斗と一緒に廊下を見ると、先生がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
ガラッと教室のドアが開き、担任の先生が声を張り上げる。
「席につけー。今日は転校生を紹介する」
教室が一気に静まり返る。
そして、先生がドアの方へ視線を向けた。
「入っていいぞ」
次の瞬間、教室に入ってきた一人の生徒。
すらりとした背丈、整った制服、少しだけ緊張したような表情。
ざわり、と空気が揺れた。
――その視線が、
なぜか一瞬だけ、私と、そして凪の方に向けられた気がした。
「……」
朝倉凪が、ほんのわずかに驚いたように目を見開く。
その瞬間、私はまだ知らなかった。
この日から始まる、静かで、不器用で、確かに胸を打つ物語を。
――――――――――




